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アサドラ・カサッド様とお話をして、私がナザント公爵家を継ぐということで学園に来なくても大丈夫なように計らいをしてくれた。もちろん、好成績を収める事を条件にであったが、問題はなかった。
大変だけれども、好成績を収める事はこれまで勉強を頑張ってきたのもあってどうにでも出来る事だったからである。少しは下がるかもしれないけれど、主席を落としたとしてもそれなりに好成績を取っていれば問題ない。
それよりも第一にしなければならないことは権力にすり寄ってくる者たちへの対処である。
正式にナザント公爵として、私が領民たちの前に出るのはもうしばらくたってからになるだろう。
―――もう、ただのエリーとして領民たちと共に過ごすことなど決して出来ないのだと。ただそれを実感すると悲しかった。でもたとえ失うものが沢山あったとしても、私はナザント公爵家を継ぐ。ナザント公爵家は私にとって大切なものであり、他の何にも代えられないようなそんなものなのだ。―――大切で、大好きで、そんな領地。
私が守らなきゃいけない。私が、もっと頑張らなければならない。
本当に、悲しんでいる暇なんて欠片もなくて。
そんな暇があるならもっと頑張らなきゃって。そんな風に思えて。
新しい孤児の子もやってきた。ワントイ、クッサト、ラミンという男二人と女二人だ。元々こちらに手伝いに来ていた四人が、この三人ならお手伝いできるとそんな風にいって連れてきてくれた。
孤児院の子たちも皆大きくなっていた。
皆一生懸命にやってくれたから、アサギ兄様のお手伝いを出来るほどになっていて、私は嬉しかった。皆裏切る気配もなくて、一生懸命やってくれて、ほっとする。
お父様が亡くなって、ガラリと環境が変わった。
それでも、私は立ち止まるわけには決していかなくて。
前に進むためだけに、足を進めていくことが第一で、私はそうすることしかできない。
弱気になってはいけない―――そうなった瞬間、私はお父様が居なくなった悲しさに泣いてしまうから。
気丈に、強く見せなければならない――そうしなければ、嘗められてしまうから。
取りつく島もないと、付け入る隙はないとそう示さなければならない――そうしなければ、ナザント領がどうなってしまうのかわからないから。
アサギ兄様に沢山の事を学んだ。
ずっと勉強していても私は正式に領地経営をきちんとしたことなんてなかったからだ。勉強はしていても、実際はそんなに知らない。私もお父様も、まだ時間があると思っていたからだ。
お父様が健在だったのならば、私は高等部を卒業してから実家を継いだだろう。多分、お父様はそれまでの間に本格的に教えてくれるつもりだったのではないかと思う。
でも現実は、実際は、どうなるかなんてわからないものである。
最悪の可能性を考えてもっと未来を見据えていかなければ、と今後の事を思う。
例えば私がもしいなくなったとしても領地が上手く回るような体制を作るべきだろう。そう思うのは、人が簡単にいなくなってしまうこと私は実感しているのだから。
っていう、理想論を一緒に仕事をしているアサギ兄様にいったら、
「その年でそんな考えするなよ。まぁ、そうあるべきだとは思うけどさ、そんないなくなったらとかいう話はあまりするなよ?」
ってそんな風に悲しそうに言われた。
私が居なくなったら悲しんでくれる人が確かにいて、その人たちのためにも私は精一杯生きて、そして健在で居たいと思う。
ナザント公爵領は広いし、報告書は届いているけれどもお父様がしていたように現地をもっと見に行くべきだろう。紙の報告だけではわからないことって沢山あるのだから。
これから、もっともっと、忙しくなる。
ナザント公爵家次期当主ではなく、ナザント公爵家当主になったのだから。
味方を作ることが第一。嘗められないように生き残ることが第二。
私という存在を、貴族社会に刻み付ける。ただの小娘ではなく、私が対等であれる存在であると貴族の当主たちに思わせる必要がある。
そんなこと私に出来るのだろうかという不安はある。でも、出来なくてもやるしかない。やらなければならない。
「―――アサギ兄様、私に沢山のこと教えてください。幾らでも、必要なことなら何でも。私はもっと、沢山の事を学んで、それで、このナザント領をよくしていきたいって思っているから」
そういった私の言葉に、アサギ兄様は笑ってうなずいてくれて。
色々と不安な事はあるし、ナザント公爵としてあることは実感するたびにお父様の死を思って悲しくなる。でも、それでも、やっぱり私は立ち止まれない。もっと―――、前に進まなきゃいけない。




