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 お父様が亡くなって、お葬式をして、そうして世界はガラリッと変化する。

 今までお父様が居たからこそ、近づいてこなかった親戚たちが『ナザント公爵家』という権力に惹かれてよってくるようになった。

 次期当主とされている私がまだ、学園の中等部三年生という子供であるから簡単にやり込め、簡単に何とでもできると思っているのだろう。―――お父様が亡くなって、悲しかった。苦しかった。でも、悲しんでいる暇なんてない。

 権力につられて、ナザント公爵領を好き勝手にしたいという思いでよってくる親戚たちをあしらい、王宮でイサート様とサンティーナ様と話した。

 お二人が、お父様の死を悼んでくれて、私は嬉しかった。お父様は国王陛下と王妃殿下に認められていた人なのだとそう思って。

 「―――エリー、学生のうちはこちらから派遣したものに統治を任せることもできるが、どうするかね」

 「………私は、出来る事なら私自身でやりたいです。もちろん、学生の身では難しいのは百も承知です。私が学園に通っている間に、領地にとどまりナザント公爵家を任せられる方をこちらによこしてほしいのです」

 学生であるから、卒業まで誰かに丸投げをすることも許された。

 でもそれは嫌だった。お父様が大切にしていて、お母様が愛したナザント領。

 私は自分の領地が好きで。派遣されるものがどういう人物かもわからないし、私も領地運営にはかかわっていたかった。それに学生のうちからそういうものにかかわっておけば、卒業後統治が楽だと思ったから。

 なんて、そんなのは私の我儘だった。

 でもお二人はそれに頷いてくれて、私は嬉しかった。

 私は優しい人たちに囲まれている。

 ナザント公爵家の権力を求めて、すり寄ってくる人たちは沢山いた。私がまだ子供であったから。私をなめてかかってくるものは沢山いて。

 それの対応にもずっと追われていた。

 そんな私に『血も涙もない女』なんて噂が流れていたのは知っていた。父親が亡くなっても平然とし、悲しむことがない冷血さを持ち合わせていると。寧ろ、お父様が亡くなった原因は事故ではなく、権力を求めた私の仕業なのではないかと。

 そんなわけ、ありえないのに。

 私はお父様が大好きで、お父様にずっと生きていてほしかった。

 お父様が笑ってくれているだけで安心して、抱きしめられると家族の暖かさに嬉しくて仕方がなかった。

 でも、その噂は否定しなかった。否定したところで噂は消えないと思ったし、それにそういう噂が流されている方が周りからなめられずに済むと感じたからだ。

 領地に派遣された人材は、アサギ兄様だった。

 私が学園にいる間収めてくれる人がアサギ兄様だというのは安心できることだった。サンティーナ様たちは私がアサギ兄様を信頼しているのを知っていて、こちらによこす私の後見人をアサギ兄様にしてくれたのだろう。安心できた。

 「アサギ兄様がやってくださるのでしたら、安心できますわ」

 私がそういって笑いかければ、アサギ兄様も笑ってくれた。

 しばらく様々な手続きをしたり、アサギ兄様とどのようにしていくか話したりで、本当に忙しくて学園には通うことなどできなかった。

 ウッカは私が忙しくしている間、ずっと悲しみで動けないでいたようだ。ずっと泣いているとルサーナから手紙で聞いた。

 ウッカの事も私が守らなければならない。私しか、ウッカの事を守れはしない。

 私がウッカのために、もっとウッカを守るために全力をつくさなければならない。

 それに今はまだお父様に仕えてくれていた文官たちがいるけれども、彼らも年であるのだから引退される前に私の手の者にそれらの事を叩き込んでもらう必要がある。もちろん、残ってくれる人もいるだろうが。

 やることが多すぎた。

 そんな中でギルとミモリは私に会いに来てくれた。

 「エリー、無茶しないで」

 「エリー……、私にも手伝えることあったらいって」

 二人はそういった。

 ミモリの言葉は私にとってありがたいもので、将来的にナザント公爵家で働いてくれるって前にいっていたし、これを期に勉強してもらうことにした。

 ギルは長男で伯爵家を継ぐ身だから、流石に私のもとで働いてもらうわけにはいかない。でもギルの事は心の底から私は信頼している。信用している。

 ギルだけは、ずっと私の味方でいてくれるとそんなバカみたいな信頼がある。

 私とギルは、それだけ一緒に居た。

 ギルが傍にいてくれるのは、本当に当たり前で。

 私の味方ではないギルだなんて想像さえも出来ない。

 ギルとミモリ、そしてアサギ兄様と私で様々な事を話した。これからのこととか、沢山の事を。

 そうしてそれが終わって、ギルとミモリを送り出すために玄関へと向かっていれば、ウッカが私に話しかけてきた。

 「お姉様は、お父様が、死んだのに! 悲しくないの!? なんでっ!?」

 ってそんな風に、大粒の涙を流してウッカは私に訴えた。

 私があまりにも普通を装っていたから、ウッカはわからないのだろう。後ろのルサーナとムナが何とも言えない表情を浮かべているのもウッカは気づかない。

 私の横に立つミモリが何かを言おうとするのを手で制して、私はただ、

 「悲しいわ。でも、私は忙しいの」

 ってただそれだけ答えた。後ろでウッカが何かをわめいていたけれど、私は振り向かなかった。

 悲しくない? そんなわけはない。お父様が大好きだったから、私はずっと悲しんでいる。泣き喚きたいのを我慢して、やるべきことをやっている。ただ、それだけなのに―――。

 その後、心配そうなギルとミモリを送り出して私はそんな思いに駆られた。





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