51
長期休みの間に、『魔女』の一族の元にも何度も顔を出した。薬に対する事を沢山学んだ。
私の立場を考えれば毒殺されてしまう可能性も十二分に存在していて、それを防ぐためにムナが近くにいてくれる。でも、それだけでは完璧にそれを防げるとは限らない。
だからこそ、私はそれらの知識を学ぶ。においや特徴を理解出来たのならば、対処出来るものが確かにあるはずだから。
大ババ様は、優しい。
優しく笑って、私や奴隷の子たちに様々な事を教えてくれた。
他の『魔女』の一族の面々だって、初めの頃は私に向ける視線は訝しいものだったけれど、今は大ババ様が声をかけてくれたこともあるだろうけれども、そういう視線は減っている。
今の所、私は大ババ様たちをそこまで使ってはいない。何れ何かしら必要性を迫られたら彼らの力を借りることになるだろう。私の手駒としてどこかに潜入させるとか、そういうことをしてもいいかもしれない。
私の奴隷――ルサーナ(もう奴隷の首輪は外されているけれど)、サリー、ポトフ、ウェン、カートラ、ヒラリ、エーマ。
孤児の人間――ハスト、ヴィヴィ、エルナーラ、マッサ。
そしてクラリとムナを含む何十人もの『魔女』の一族。
私の手駒として三年間で集め、育て上げた子たちは少しずつ使えるようになってきている。
―――もう、二度と失わないために。
――もう、後悔なんてしないように。
ただそれだけを胸に、三年間必死に力をつけようとしてきたわけだけれども、結局の所私が行っていることが正しいかどうかなんてわからない。でも、それでも私は自分の歩んでいるこの道が正しいと、そう信じて歩んでいる。
――そう、例え間違っていたとしても、正しくなかったとしても、確かに歩んでいる道は少なからず今後の私の糧となるはずだから。
そう思うからこそ、立ち止まることだけはしないように私は決意する。
そして、その夏、私には奴隷が増えた。
猫の獣人の男の子のケルと、人間の少女のレンナ、犬の獣人のツントだ。
本当は猫の獣人の奴隷を買うつもりはなかった。なかったけれどもケルは、「買われるならましな主人がいい。あと女の子が良い」とかそういう思いだったらしく私に猛アピールしてきた。奴隷市場の中で。
そして使えるかと聞いた私に、自分は使えるって一生懸命アピールをしてきた。事実、買ってからわかったけれどケルはなかなか使える奴隷だった。
レンナは奴隷とは思えないほどに礼儀正しい。どういう事情で奴隷に落ちたかわからないけれども、もしかしたら奴隷になる前は上級階級にいた少女なのかもしれない。一種の火種となるかもしれないけれども、内政が出来る少女ということでかってきた。
ツントはルサーナの名前に反応して、ついてくると頷いてくれた子だ。ルサーナたちと同じ村の出身の犬の獣人の少年。
奴隷たちの数を増やしているのもあって、管理をするのも大変だ。裏切りがないとも限らない。監視をして、それでいてしっかり教育をして私と敵対をしないようにしなければならない。
とりあえず夏休み中の間に、彼らに私がご主人様で、裏切ることは許さない、もし不手際があったらどうなるかということを徹底的に教え込もうと思った。
奴隷をまた増やしたからとウッカが何とも言えない表情を浮かべていたと、ルサーナから報告を聞いた。でもそれでいい。嫌われていていい。私がウッカに手を出されても一切動揺しない。何にもならないって、そういう風に周りに知らしめておきたい。
ウッカを私の弱味としたくない。
弱味としてウッカに危険な目にあってほしくない。
特に、今の、私の命も常に狙われているような危険な時には。お母様の命を奪った連中をどうにかする―――、そう第一に私が行わなければならないことはそれだ。
「エリザベス様、また難しい顔してます。そんなに思いつめないでください」
「……そんなに難しい顔していたかしら?」
「はい。エリザベス様はいつも難しい顔をしています。もう少し気楽に生きてもいいんですよ。エリザベス様は」
「……わかっているわ。根を詰め過ぎてもいけない事。でもそれでも気を抜いたらどうなるかと思うと気が気じゃないだけよ」
サリーは、よくわからない。私に何かしら思う所はあるみたいだけれども、なんだかんだで私に従ってくれている。それでいて厳しい事だって、さらりと私に言ってくる。
でもただ従順なだけの手駒は、困る。自分の意思で考えて、意見をいってくれる手駒の方が良い。私に対して都合の良いことだけいって、私が言う言葉にただ頷くだけの存在は、意思のない人形と変わらない。
欲しいのは、そういう存在ではない。
「――でも気を詰め過ぎても足元をすくわれますよ」
「でもウッカが――」
「ウッカ様ももう十歳になります。エリザベス様がルサーナを買った時と同じ年でしょう? 一人でだって考えることが出来ます。エリザベス様は、ウッカ様の事を大切に思い心配するのは結構ですが、自分の事をもう少し大切にしてください。
エリザベス様が危険な目にあったらルサーナが泣きます」
サリーが言い聞かせるように私にいった。もっと自分を大切に。ウッカの事ばかり考えないように。それはギルにも言われたことがある言葉だ。
私を心配してくれているからこその言葉に、少し気持ちに余裕ができてきた。
夏休み中にやるべきことをすべてやりとげよう。そして、実家でしばらく休んでまた学園生活を頑張ろう。




