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長期休暇が終わった。実家での穏やかな時間は、学園生活で疲れていた私の心を確かに癒してくれた。
もっと実家でのんびりしていたい―――そんな思いは確かにあった。でも、そんなふうに優しい世界にだけ浸っているわけにはいかない。
私にはやるべきことがあって、ナザント公爵家の次期当主としてもっと頑張らなければならない。
ウッカの姿を見てウッカ成分を補給して、元気も出たし、やりきらなければならない。
久しぶりに訪れた学園は、何も変わっていない。
ツードン様は相変わらずこちらを気に食わないといった態度で、ナグナ様の周りにいたりもする。ナグナ様は私の事だけが気に食わないのか知らないけれど、他の生徒の前では基本的にはにこやかにしている。
私とナグナ様の不仲な事は学園では周知の事実となっていて、私の周りに居る取り巻きのような生徒たちはあえてその話題に触れてくることはない。
友人らしい友人というものが、私には居なかった。
ナザント公爵家の長女として嘗められないようにしなければならないと気を張っていた。
安心なんて出来なかった。もっと冷静でいなければと知っていたはずなのに。私はいつも気を詰めていた。焦りを隠すことが出来なかった。でも、それでも、私はそういう気持ちを外には出さずに愛想笑いはきちんと行えていた。
そんな私は、近寄りにくい存在だったらしい。ギルとか、ウェンが、そういう噂だと教えてくれた。
”エリザベス・ナザントは完璧すぎて、凡人が近づいてはいけない、そんな雰囲気がある”と。
そういう勘違いをされていた方が、ナザント家の次期当主としてはやりやすいのかもしれない。だって下手に嘗められても対処をするのが面倒だもの。
でも、少しだけ、本当にほんの少しだけ、さびしいなぁと思わないわけでもない。
この学園の中で、取り巻きは出来ても友人が出来ないことが。対等に話せる人がギル以外にいないことが。
お母様は、今はもう亡きお母様は、タリア様と学生時代からの友人だったはずだ。学生時代から仲良くしていて、それで大人になってからもずっと仲良しだった。
お母様は、学園での生活は大変だったこともあったけれど、楽しかったとそういっていた。お母様の事を思い出すと、胸が苦しくなる。大好きだったお母様。
お母様は生前、「エリーが学園に入学するの楽しみだわ」って笑っていた。私もお母様に、私が学園に入学してからの、ううん、ずっと先まで、私がいつか結婚して、子供を産んでそうやって大人になった姿を見てもらいたかった。人はいつか死ぬものだけど、あんな死に方ってない。あんな殺され方ってない。
お母様、私頑張ります。ウッカを守れるように、ナザント家の長女として、もっと頑張ります。だから、見守っててください。ウッカの事を、守ってください。そんな風に、ふと空を見上げてお母様に祈った。
そんな風に思いながら、私が居るのは図書館だ。
学園の図書館にはたくさんの書物が存在していて、好きだ。本を読む事は嫌いじゃない。それに本に書いてあることは少なからず将来的にどんなものでも役に立つんじゃないかって思えるから。
知識っていうのは武器だと私は思っている。知っているのと知っていないのでは断然知っている方が良い。それは本当にいつの日になるかはわからないけれど、いつか活用できるかもしれないことだから。
って、そういう風にクラウンド先生が教えてくれた。
私よりもずっと長く生きているクラウンド先生の言葉には重みがある。クラウンド先生は、私に沢山の事を教えてくれて、今、私がこうして強くあれるのはクラウンド先生が様々な事を教えてくれたからだ。
クラウンド先生やアサギ兄様にまた会いにいこう。尊敬できるあの二人と会話が交わせたら、さびしいなって気分もなくなることだろう。
そんな風に思いながら本を読む。周りにはもちろんウェンたちがいる。ルサーナは居ない。自分からルサーナをウッカのもとにやったくせに、やっぱりさびしい。
そうしていれば、
「あ、あの」
声をかけられた。
視線を上げれば、茶色の美しい髪を持つ一人の少女が居た。彼女は確か、ユング伯爵家の娘だっただろうか。次女で、聡明だと噂の少女のはずだ。
身分が下のものが、身分の高いものに声をかけることは社交界でならばマナー違反だろうが、一応この学園では身分は関係ないものとされている(一応だ。実質的には身分が物を言っている)から問題はないだろう。
「なんでしょう?」
「い、いつも本を読んでいらっしゃいますよね。エリザベス様は本がお好きなんですか?」
問いかけられた言葉に、私は驚いた。緊張しながらも告げられた言葉は予想外だった。そんな風に、”ナザント公爵家の娘”ではなく、私自身に対する質問が飛び出てくるとは思わなかったのだ。
「本を読むことは好きよ」
「私もなんです! エリザベス様はいつも本を読んでいらっしゃって、私、本の事でエリザベス様とお話ししたいって、そう思って。あ、厚かましいお願いかもしれませんが、時々でいいので、私と話してくれませんか!」
キラキラした目でそんなことを言う彼女は、心の底から本の事を話すお友達が欲しいと告げているのが見て取れた。
本が好きで、だからこそ、本を読んでいる私とお話をしたいと思ってくれたらしい。
私はそんな申し出に、
「……私でよろしければ、喜んで」
と気づけばそんな風に答えていた。
だって話したいと思ったのだ。こんな風に、勇気を出して本の話がしたいと私に面と向かっていってきた彼女と。
そして彼女となら、友達っていうものになれるのではないかと、そう期待したから―――。
その日、そんな思いから話すようになったミモリ・ユングと長い付き合いになるとは私はその時想像もしていなかった。




