ハートの女王
「ここは……」
周囲を見渡して、アリスは思った。
「ありす と 初めて会った場所だわ」
アリスはポケットから扇子を取り出すと、美しい顔を輝かせて笑った。
「ここで使うのね。 ありす 私の手を握って」
「う、うん」
ありす は 理解しないままに アリスの手を握りしめた。
アリスが 身体の大きさを確認しながら扇子で仰ぐと、二人の身体は徐々に小さくなっていった。
「よし、この位ねッ!」
調度、鍵のかかった扉に入れるサイズになると、アリスは扇子を閉じた。
「行くわよ ありす」
「うんっ」
カチャ
アリスは金のカギで開けると、勢いよく扉を開いた。
「うわぁっ。たくさんの きれいなバラ」
ありす は瞳を輝かせた。目の前には美しい庭が広がっていた。
庭では手足の生えたトランプが庭木の手入れをしていた。
「無駄な努力は虚しいわね」
「え? なに?」
「何でもないわ。それより そろそろ、お出ましね。見つかったら厄介だわ。ありす、こっちへ」
アリスは周囲を見渡すと、ありす を誘導して走った。
「どこまで行くの?」
「黙ってついて来なさいッ!」
「だって……遠い~」
「身体が小さい所為よ。でも、我慢して。あのババアに見つかると厄介なのよ」
アリスは冷たく言い放った。
「そこの者~~~!!死刑~ッツ!」
ハートの王女は声を張り上げた。庭木の手入れをしていたトランプたちは死刑宣告を受けた。
「来やがったッ!ありす 早くッッ!」
「待って~~~」
「そこに居るのは…… あ~り~す~~~!!!待っていたよッツ!!」
「ヤバイ! バカッッ!!」
「え? 何? わたし??」
ありす は立ち止まった。
「何、立ち止まってるのッ?!!」
「だって」
「だって、じゃないッッ!! あ~~!!! もうッ! 利口な子かと思ってた私が馬鹿ねッツ!!!!」
アリスは ありす を庇って前に出た。
「ババアッ! 久し振りねッッ! 光栄でしょ? このアリス様に再び会えるのはッツ!!」
「アリスッ! お前は私の言う事を 何一つ 聞かなかったッ!!! お前は嫌い。
嫌いだよッ。 大っ嫌いな アリスだよッッツ!!!」
「あ~ら、覚えていてくれて、光栄だと…… 私も言うべきかしら?」
アリスは体が小さいのも忘れて、足を広げて腕を組むと、女王を見下して笑った。
「アリス! お前は 死刑だよッ! 死刑だ、死刑~~~~ッツ!」
「五月蝿いわねッ、死刑は あんたよ、ババアッツ!! 裁判を要求するわッ!!!」
女王を指さし、アリスは高々に戦いを挑んだ。
ハートの女王は アリスの態度に ハンカチを噛むと、 キィッ と歯を鳴らした。
城では布告役と裁判官役が裁判の準備を行われた。
アリスと ありす は陪審員の動物たちに混じって裁判が始まるのを待った。
「アリス……だいじょうぶなの?」
心配そうにアリスの足を掴んで小さくなっている ありす に アリスは、振り返ると 優しく微笑んだ。
「大丈夫よ。ありす。あなたが心配するような事は、何もないわ」