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(翌日)

本編最終話の翌日です。

 ハイドヴァン家での朝。

 昨夜のことは、本当だったのだろうか?

 王子様とダンスをして、気持ちを告白された、なんて。

 夢だったとか、すごい妄想しすぎだし。

「おはようございます、ミーア様」

 いつものようにハンナが部屋に入ってカーテンを開ける。すでに昼に近い時刻のようだ。ベッドを降りて、ハンナに手伝ってもらいながら昼用ドレスに着替える。今日は、大ぶりのリボン飾りが腰についた華やかなドレスだ。

 日常使いでは派手かなと思うけど、顔がニヤついている今日はこれでいいや。

 隣の部屋に朝食の準備ができているようだ。夜会の後は、部屋で食べることが多い。

 夜会で美しく気飾った奥様をずーっと離さない王弟殿下のせいだと思う。こういう日は、奥様だるそうだから。で、王弟殿下はご機嫌。昨夜は私が一人で先に帰ってしまったから、その後のことはわからないけど、たぶん。

 遅めの朝食を終えると、王弟殿下が書斎で待ってるという。


「おはようございます。お義父様」

 書斎のデスクで書類を見ていた王弟殿下が手にした書類を置き、立ち上がる。

「おはよう、ミーア。座りなさい」

 勧められるままソファーへ座る。王弟殿下も、私の前の一人用の椅子に腰かける。

「実は、今朝、ヴィルフレドが来て、午後には君を王太子棟に引越しさせると伝えられた」

 やっぱり、昨日のことは夢じゃなかったんだ。王弟殿下の前なのに、ぼんやりと話を聞く。

「こういうことは、教えておいてほしかったな」

 腕を組み、いかにも作った感じの残念ですって顔を向けられる。しかし、私も昨日始めて知ったばかりなので、何とも言いようがない。なんて。意識的に口に力をいれてないと、にへら顔になってしまう。

「妻も、昨夜は、君に話してもらえなかったと、それは落ち込んでいたんだよ?」

 それが可愛いかったが、と小さな声は、聞こえなかったことにするとして。昨夜?もしかして、気づかれてたの?何を?

「ああ、知らなかったんだね。あの部屋のテラスは、舞踏会場のバルコニーから見えるんだよ。シルエットだけだがね。その後そちらの廊下から歩いてくるカップルを見れば誰でも、事情は把握できるさ。そういう部屋なんだよ、あそこは」

 そういう部屋、だと、王子様が知らなかったのだろうか。知ってて?

「えっと、つまり、お義父様とお義母様は、バルコニーで見た、と?」

「そうだね。いろんな方々が」

 少なくとも複数の目撃者がいるらしい。恥ずかしくて、顔を上げられない。昨夜の、昨夜は……。暑くて自分から湯気が出てるんじゃないかと思った。


 その日の午後、王弟殿下と王宮へ向かう。奥様は体調不良ということで、不参加。お別れの挨拶に、部屋を訪れたら、泣かれてしまった。私がいて楽しかったからはじまって、寂しくなるとなり、終いには、絶対一緒に行きたかったのに王弟殿下の馬鹿、になっていた。このお二人は、ほんとにラブラブで、羨ましい。私はどうかな?とか思うと、また顔がニヤける。何とか顔の筋肉を引き締めた。


 二人で王宮の一室に通される。こんなところは初めて来る。王宮の表、つまり、王様が執務や接客を行なうところのようだ。豪華絢爛な客間で、かなり身分が高い神官や側近(と思われる)の方々がいた。そこへ、王様と王妃様、王子様が入ってこられる。なんだか、場違いなところに居るようだ。

 官吏がテーブルに紙を広げ、神官様がそれを確認し、王弟殿下に指し示す。私を連れてテーブルに近寄り、王弟殿下がその紙の内容を見て頷く。王子様が紙にサインをしている。王子様から、ペンを差し出され、手に取る。向かった先の紙は、結婚誓約書だった。なぜ?どうして?なんて聞ける雰囲気ではない。この場面で、書かずにいられる人はいないと思う。王族とお偉いだろう側近方や神官様を前にしては。

 今日は、ただの急な引越しでは、なかったの?

 私がサインを終えると、その後、王様のサインが入れられた。これで、私は、王子様との結婚を王様に承認された、らしい。儀式や披露は国事として来年大々的に、そういう会話が目の前で交わされている。が、展開についていけず、まわりに促される通りに行動することで、その場を乗り切ったのだった。


 「いつでも帰っておいで」という言葉を残し、王弟殿下はハイドヴァン家に帰って行った。

 そして、私は王太子棟へ帰ってきたが、住む部屋は以前とは違う部屋になっている。大きな部屋だなとあちこちを見ていると、出入り口とは違うドアから、王子様が入ってきた。


「ミーア、この部屋はどう?前のミーアの部屋からコーディネートさせたんだが、気にいらなければ変えてくれ」

 にこやかに私に近付き、腕に抱き込まれる。待て、待て、待とうよ、ちょっと。

「ね、今日は引越しだけじゃなかったの?」

 王子様を見上げる。非常に上機嫌だ。昨日どころではない、ものすごく上機嫌で、舞い上がっているといってもいいほどだ。

「父上がすぐに結婚した方がいいと、朝一で手配してくれたんだよ」

 陛下が、朝からなんでそんなことを? すぐに結婚? そうだ、私、結婚したことになるんだ。私の背中に腕を廻して撫でまくってる、この王子様と。

「すぐって、昨日の今日なのに。陛下は何を考えてらっしゃるのかしら」

「王太子妃なんて面倒なものにはなりたくないと思われたら結婚話が壊れかねないから、勢いで進めておくべきだと言ってね。母上も賛成してたから、トントン拍子に進んだんだよ」

 王太子妃?

 そうよ、王子様なんだから、その結婚相手は”王太子妃”なのよ。考えもしなかった。その後、王妃様になったりなんかする……。あぁ、嘘でしょう。そんなもの、なりたくない。いや、なりたくなかった、と言うべきか。すでに過去なのだから。そうとわかっていれば王子様と結婚なんて承諾しなかったかもしれない。”王太子妃”だなんて。そんなもの無理だと思う。今でも。でも、もうキャンセルできない。

 恐るべし陛下。女心がわかってらっしゃるとは。

 それにしても、凄いところに嫁に来てしまったみたい。姑と舅が、王様と王妃様だなんて。こんな平凡とは程遠い世界で、生きていくことになるんだ、私。王子様にここへ連れてこられた時から、平凡な生活はなかったのかも。

「王子様」

 その言葉に、むっとされる。

「名前で呼んで欲しいな。あなた、でもいいけど」

 な、名前で? 腕の中で固まっていると、膝をすくわれ、腕に抱え上げられる。

「いくらでも時間はあるから。何度でも呼んでもらえるように努力するよ」

 降ろされた場所は、ベッドの上。

 え、え、え?


 訳がわからないと思っていた王子様の言葉は、その後いやというくらい理解した。させられた。

 昼間にこんなことするなんてっ。

 と、抗議すると、もちろん昼だけじゃなく朝も夜も努力するよ、と再び彼の努力は再開されてしまった。

 奥様が王弟殿下の『馬鹿』って言ってた意味はこういうことだったのかも。でも、そういいながらにじみ出ていた感情が、今の私からも出てるんだろう。

「ミーア」

 嬉しそうに私の名を呼んでくれる人に、笑顔を返そう。

 いつまでも。



~The End~

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