手を結ぼう 第六話
常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。
楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。
「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。
宗盛記0087 永暦二年一月 から
宗盛記0094 永暦二年六月 青墓宿 まで
この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。
永暦二年四〜六月
静かすぎた。
伊豆は、こんなに静かだったか。
港に立っても、怒鳴り声はない。
荷は動いている。
船も出入りしている。
だが、どこにも無駄な音がない。
……終わった、んだな。
八千騎が集まった騎射の会。
相馬御厨を巡る大きな政。
あれだけの人と力が動いた後なのに、
伊豆は、何事もなかったように回っている。
それが、少し怖い。
畑へ行く。
綿花の芽は揃い、葉の色も安定している。
大豆の列は、去年と違う配置になっていたが、
もう誰も驚かない。
農夫たちは、淡々と鍬を振るい、
桶を運び、
鶏糞を混ぜる。
文句もない。
相談はある。
だが、怒号は消えた。
「……慣れた、ってやつか」
それが一番、危ない。
峠道を越える。
切り通しの工事は続いている。
だが、ここも音が整いすぎている。
石は無駄なく運ばれ、
削り屑は次の資材に回され、
誰も声を荒げない。
戦場より、整っている。
港へ戻る。
沈められた木箱が、波を和らげ、
船は以前より静かに出入りしていた。
港が、「完成」に近づいている。
「……これ、終わったら、どうなるんだ?」
誰にともなく、そう思う。
夜、屋根の上。
伊豆の町を見下ろす。
灯りは増えた。
だが、動きは落ち着いた。
忙しいのではない。
回っている。
盤面が、固まった。
これが一番、黒装束的に言えば――
嫌な状態だ。
崩れるなら、ここからだ。
だが、崩れない。
揺れもしない。
宗盛という男は、
盤面が固まったあとも、
さらに細かく整えている。
畑。
港。
峠。
宿。
全部、少しずつ、少しずつ。
……飽きない人だな。
黒装束の教えでは、
「完成」は、慢心の始まりだ。
だが、あの男には、
完成という概念が、ない。
夜半、北条の館の方角を見る。
政子姫の顔が、一瞬浮かぶ。
「……あっちは、まだ動く」
勘だけが、そう告げている。
伊豆は、いま、静かだ。
だが、これは終わりの静けさじゃない。
次に備える静けさだ。
梟丸は、屋根を蹴った。
走る理由は、もうない。
だが、走らずにいられない。
――昨日と違う、を拾うために。
黒装束の若手は、
今日も、影の中を巡る。
盤面が、崩れないことを、
どこかで祈りながら。




