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カイルと戦った次の日から、エルヴィの訓練時間は増えたという。
それを僕は今日こっそりと見に来た。レグネルと共に中庭でお茶をしながら、エルヴィの様子を見ている。
雲一つない快晴の中で必死に剣を振りまわし、稽古相手と打ち合いしているエルヴィの姿が目に入る。
洗練されたその動き、俊敏性にも優れており、その辺の騎士と戦わせても絶対にエルヴィが勝つだろう。……だが、彼女が戦いたい相手はカイルだ。一筋縄ではいかない。
「噂によると、エルヴィとの戦いであの赤鬼が少し怯んだって聞いたんだが」
「ああ、そうだよ。エルヴィは本当に凄かった」
「それでも我が妹は認めてもらえないと? ……正直なところ、エルヴィを魔物退治に優先的に向かうような騎士団になど入れたくはないけどな」
レグネルは複雑な表情を浮かべる。
確かにそうだ。彼女を危ない場所へと向かわせたくない。
それは僕も同じ想いだ。…………だが、彼女のその才能は隠しておくには勿体なすぎる。
それぐらいエルヴィ・ケーレスという存在は異端なのだ。
「あの様子だと認めてもらえるまで赤鬼に戦いを挑むつもりだぞ。……お前のせいだからな、ヴィナス」
「エルヴィが選んだ道だからね」
「……はぁぁぁ、ただでさえ社交界で浮いているのに、さらに浮いてしまう。勇者落ちで、ヴィナスの婚約者で、さらに、騎士団に入る? ……俺はエルが心配だよ。可愛い妹の進む道があまりにも困難に満ちていて、どうなることやら」
「全てを敵に回しても、僕がエルヴィを守るから安心して。……僕はたった一人の女の子にとっての英雄になりたいから」
「一国の王子が何言ってるんだよ」
呆れた様子でレグネルは僕を見る。
レグネルは僕がそんな発言をしていることを心配している。いくら妹が可愛いとはいえ、そこまでの愛があることを恐れているのだろう。
「エルのことを好いてくれているのは嬉しいが、傾国しないように頼むぜ」
「好いているなんてものじゃないよ」
「は?」
「エルヴィがいない世界なんていらない」
「まじか……。ヴィナスがエルにぞっこんなのは知ってたけど、そこまでなのか……。あのヴィナスが女にのめり込んでいるなんて……」
僕の発言にレグネルは目を大きく見開く。
そんな彼を無視して、僕はゆっくりとエルヴィの方へと視線を向けた。
エルヴィは時々水分補給をするぐらいで、朝からずっと剣の稽古をしている。どうやら、もう終わったようだ。
稽古相手がエルヴィにお辞儀をして去る。エルヴィは彼が去った後もまた素振りをし始めた。身体を巧みに動かし、汗を流しながら剣を振っている彼女の姿はとても美しかった。
今までもずっと鍛錬を積んできたのだろう。……だが、そんな努力を一瞬で打ち消してしまうほどの強敵に出会った。
あれほどの実力差、もう諦めてしまう人がほとんどだろう。……それなのに、彼女はまだ挑むつもりだ。
その熱意があまりにも眩しい。
「レグネル、君は魂を震わせるぐらいの恋に落ちたことはある?」




