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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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37 ヴィナス・ジェガナ 十八歳

 言い伝えを思い出した。

 過ぎ去りし時代への愛着を絶ち、太陽の瞳を持つ少女が闇夜で輝く日が来るだろう、と。

 この伝説を研究している専門学者は、国を守ってくれる者が現れる、という解釈をしている。

 俺はエルヴィを客室のベッドで寝かせて、彼女の顔を見つめる。

 ……カイルと戦った時の彼女はまさに戦士だった。あそこまでの能力があるとは思いもしなかった。

 最後に空高くに舞った剣を握る姿に釘付けになった。

 魔法を使える者と使えない者がこの国にはいる。その割合は五分五分ぐらいだ。その中で、エルヴィは魔法を使える。……それも、かなり上位魔法を扱っている。

 カイルは魔法を使えない。……が、騎士としての実力は卓越している。 

 その二人の戦いで、エルヴィは魔法を一つも使わずにあそこまで立ち向かった。

 なんという精神力……。

 あの場にいた誰もがこの子に惹かれただろう。この美しい令嬢があれほどまでの剣術と身体能力を兼ね備えているとは思いもしなかっただろう。

 王家直属、ましてやカイルのいる騎士団に入るのはかなりの試練を乗り越えなければならない。

 だが、カイルとあれほどやり合えたのだ。入団できる実力はあるだろう。

 ……だが、カイルが認めない限りは入れない。

 あの騎士団はカイルに任している。私が無理やり彼女を入団できることも……まぁ、できなくはないが、それはエルヴィが嫌がるだろう。

 コンコンッと扉を叩く音が部屋に響く。

「殿下、先ほど連行した捕虜の件で」 

 ああ、折角の癒しの時間が終わってしまう。エルヴィの寝顔を眺めていると心が安らぐ。

 これほど愛おしい人に出会ったことがなかった。彼女の傍にいるだけで心が満たされる。

「すぐ行く」

 僕はエルヴィの髪を撫でて、軽く口づけをした。

「ゆっくりお休み、僕のエルヴィ」

 そうして、僕はこの場を後にした。

 


「やぁ、君はどこから来たのかな?」

 僕は捕虜が繋がれている牢獄へと足を運んだ。魔法が使えないように細工されている鎖で男の手と足を繋いでいる。

 長い黒髪はぼさぼさで、半裸になっている上半身は鞭で打たれた酷い傷跡が多くあった。目には生気がなく、何日もご飯を食べていないのか頬はこけており、放っておけばいつ死ぬか分からない状態だった。

 僕の質問には何も答えない。

 ……拷問をする前に、気力を取り戻してもらわないと困る。

 もう死んでもいい、と思っている人間に何をしても無駄だ。

「飯と水を与えておけ」

 近くの衛兵が「はっ」と返事をする。

 僕は男の首にかかっていたシルバーのペンダントを乱暴にちぎった。……ロケットペンダントだ。

 オーバル型のペンダントを開くと、そこには小さく描かれた茶髪の女性がいた。

 ……恋人か?

 俺はチラッとボロボロになっている男の方へと視線を向けた。

 この男は王家に侵入しようとしてきた他国の者だ。すぐに捕まったが、言語が一切通じなかったらしい。

 どういう目的でここに来たのか分からない。……もう少し様子を見るか。

「こいつが喋る気になったら報告しろ」

「口を割らせるにはオーカス副団長が良いかと」

「あいつに任せたら、殺すかもしれないだろう」

 僕の言葉に衛兵は、たしかに、という表情で黙り込む。

 ……だが、オーカスが適任であるというのも分かる。僕は小さくため息をついた。

「あいつにはくれぐれも『殺すな』と伝えておけ」

「は、はい!」

 王家に侵入してくる者など本来いない。

 スパイとして紛れ込むことはあっても、こんな風にすぐに捕まるような侵入者などまずいない。

 なんとしても、事情を聞き出さなければならない。

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