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「魔物だ!! 魔物が出たぞ!」
どこからか微かに声が聞こえた。
人の声!!
私はバロンに「あっちに行くよ!」と声をかけ、声が聞こえた方へと進む。
恐怖に負けてなんかいられない。……なんのために今まで苦しい鍛錬をしてきたと思ってるの。
次第に声が大きくなっていく。もうすぐ魔物のいる場所へと着く!
「こっちだ!! 俺に任せろ!!」
「クソ! ジェフがやられた! 誰か! 救護を頼む!」
「助けてくれ! 援護を!」
「グアァァァ」
騎士たちの叫び声が次々と飛び交う。
血生臭い戦場を私は今日初めて目の当たりにした。容赦なく日々鍛えられた騎士たちが血を流して倒れていく。片腕を切り落とされも、剣を片手で握り魔物に立ち向かう騎士の姿が目に入る。
…………私が甘かった。なんて甘かったのだろう。
手の震えが止まらない。
これでよく勇者になりたいなどと言えたものだ。助けたいのに、恐怖で体が動かない。
とんでもない臭いだ。……今まで嗅いだことのない猛烈な異臭。思わず顔を顰めてしまう。
人間の血と魔物の臭さと森特有の臭いが混ざって、吐き気を催す。
「逃げたい」
最初に出た言葉がそれだった。
ただ、この場から逃げ去りたかった。なんて惨めなのだろう。
目の前で多くの者たちが容赦なく命を落としていく中で私は何もせず眺めているのだ。
今、彼らが戦っている魔物は上級クラスだ。「ナルシェス」と言って、森の木よりも高く、首が六つもある巨大蛇だ。漆黒の鱗を持ち、尻尾には毒針がある。
そして、なにより魔法が効かない。とんでもないモンスターだ。剣で戦うしかない。
勝つ方法はただ一つ、頭六つを切り落とさなければならない。
魔物の中でもトップ中のトップだ。
そんな大物がどうしてこんなところに……。
それと同時に一つの疑問が浮かんだ。今までの勇者はこれと戦って来たっていうの?
あり得ない。だって、そんな能力…………。初めての魔物退治に皆恐怖で動けなかったに違いない。動けたとしても、倒せるとは思わない。
じゃあ、今まで一体誰が…………。
「危ない!!」
誰かの野太い声が大きく耳に響いた。
その瞬間、私はハッと我に返る。一つの蛇の頭と目が合う。私に襲いかかろうとしていた。
逃げないと、死ぬ。そう頭では分かっているのに、身体が動かない。息をするのを忘れて、私はただ蛇を硬直したまま蛇を見ていた。
……まずい。私、ここで終わる。
目をギュッと瞑る。
人生に悔いなし、と言いたいところだけど、全然悔いだらけだ。私は死を覚悟したのに、人生に対して未練ダラダラなことに気付く。
やっぱり、ヤダ!!
そう思って、目を開けた瞬間、視界に入ったのは、蛇の頭ではなく透明感のある金髪だった。
何かを切り裂く重量のある音が耳に響き、ドンっと地面に蛇の頭が落ちる。
この場に似つかわしくない高貴な香りが鼻をかすめる。
「遅くなってごめんね、エルヴィ」
顔にナルシェスの返り血を少し付けた美男子がこちらを振り向いた。




