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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
エンシェント・ウィッチ
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ノーマン隊のそれぞれの思考、いいえ、嗜好か?

 私の苦境を知るやノーマンは、散々に喚き散らかす野獣となった。

 しかし散々に喚き散らしたから落ち着いたのか、冷静となった彼は脳みそを切り替えた。切り替えてそれかと思うが、彼は私を手懐けることにしたらしい。


「ごめん。一番騒ぎたいのは君なのに、愛する君の苦難に俺こそが耐えられなくなった。本当にごめん。でも、大丈夫だよ。俺の君への愛は変わらないし、俺は今ままで以上に君を守りたい」


 彼は慰めるつもりか子供となった私の手をそっと両手で覆った。だが、私は彼の優しさに絆されるどころか、彼の危険性を唱えるアラームが頭の中で鳴り響いていた。

 終には、大人の姿にしばらく戻らなくてもいいかと、私の意識は変わっていた。


「ほら、ノーマン。ティアを早く室内に入れてあげて。ねえ、ティア、疲れたでしょう。私があなたの面倒を見るから心配はいらないわよ」


 ノーマンの後ろからひょいっという風に姿を現わせたディーナのほほ笑みは、私の張り詰めていた気持ちがゆるっとくるくらいに素晴しい。やはりディーナが一番気安いと感じる自分がいて、ディーナに甘えたいとまで考えてしまった。


 だけど、ディーナの告白を聞いたばかりの私としては、私においでと優しく微笑む彼に警戒心を抱かないことこそ失礼なのかもと、脳みその片隅がそっと囁いてもきているのだ。


「え、えと。身の回りの世話は自分で出来るわ。ええと、外見は子供でも、私は赤ちゃんじゃないもの! 大人の男の人に甘えるのはよろしくないと思うの」


 ディーナは焦った私の物言いにうふっと微笑むと、私が胸にぎゅうっと抱いていた荷物袋を優しく私の腕から抜き去った。それから、合格と言って私の額にちゅっと軽いキスをした。


「ディ、ディディディディディディ」


「うふふ。ほんとうにおぼこさんだわ、あなたは。真っ赤になっちゃってなんて可愛いの。それに、ええ、本当に優しい子。ふふ、私は何もしないわよ。安心して私に守られなさいな。この荷物は私の部屋に入れておく。これからは私と一緒に寝起きしましょう」


「ちょっと! ディーナ! いや、ビラーニャ赤伯爵様。その子、俺の妃です。お妃さま候補ですから、俺の部屋にティアの荷物をください」


「あら。あなたはもっとティアに嫌われたいの?」


 ノーマンは本気で脅えた様な表情を顔に浮かべると、違うよね、と顔にしっかり描いてある顔つきで私を見返した。


「ええと、」


 答える前に私はひょいと大男に持ち上げられた。


「あ、この子は狩りはしない子ですね」


 驚きで硬直した手足をブラっとさせてしまった私も情けないが、ドゥーシャのその判定は猫に対するものでは無いだろうか。


 ドゥーシャの本気なのか冗談だったのかわからないこの行動で、ノーマンは「それは猫じゃないよ」という顔でドゥーシャに手を差し伸べた姿のまま固まり、笑い上戸らしいディーナはしゃがみ込んで小刻みに揺れている。


 守りたいと言った男二人に見捨てられた格好となった私は、床に下ろしてもらうタイミングをうしなった。私はそのままドゥーシャによって彼等の部屋の奥へとどんどんと連れ込まれた。

 二つの部屋が扉で繋がっている、続き部屋の窓が無い側の部屋だ。


 その窓が無い部屋には、知らない顔の男が椅子に縛り付けられていた。

 あの兵隊の指揮官だと男の様子から理解したが、ノーマン達に拷問を受けていたのか、満身創痍という哀れな姿である、私は少々の同情が湧きだした。


 服から出ている肌には引き摺られて出来ただろう裂傷が幾筋もあり、右目の周りは殴打による真っ青な痕がある。また、何よりも彼を哀れにさせているのが、彼が強いアンモニア臭を放っているという状態にあるということだ。


 あの水球で見たあれだと、崖下に旗のように引っ張られて連れ去られたものねえ。凄い恐怖だったことでしょう。


 アシッドと年齢が変わらないような目の前の捕虜は、焦げ茶色の髪に焦げ茶色の瞳、そして、この地方独特の浅黒い肌をしている。

 また整ってはいるが彼は十代にも見える幼い顔立ちをしており、一見細身ではあるがノーマン隊の誰よりも弛んでいると言える肉体をしていた。

 目の前の若い男は、きっと初陣だっただろう。

 今日の出来事で、どれほどの恐怖心を掻き立てられているのだろうか。


「あの、ドゥーシャ。ええと、私はこの捕虜の見張りをすればいいのかしら?」


「いいえ。可愛いあなたにこんな小汚い男の世話なんかさせませんよ。ただし、あなたは瞬間洗浄の魔法を以前は使えたでしょう。今もできますか? こいつはとっても臭くて、身代金と交換しなければいけないのに殺したくなるのですよ」


 ああ、ドゥーシャ怖い。私もおしっこを漏らしそうだ。

 私は急に抱き上げられて固まる猫の気持ちがわかるほどわかったと思いながら、恐ろしいドゥーシャにぶら下げられた状態でぶらぶらするしかなかった。


「ああ、おできにならない。では、陛下の部屋に行きましょうか」


「あなた、とっても性格が悪いって言われない? こんな手足がぶらぶら状態で何が出来るって言うの」


「ですが、床に下ろしたらあなたが危険になるじゃないですか」


「え? 床に何かあるの?」


「誰の部屋に連れ込まれたいですか? 勢いに乗れなかったアシッドも小さなあなたを手懐けようと狙っていますよ」


「何をあなたは」


 ドゥーシャは本気で笑えない冗談ばかり言う男だと視線を適当に流しただけだが、私はドゥーシャが笑えない冗談など言わない人だと知った。

 続き部屋のドアがほんの少し開かれていて、そこから獲物を虎視眈々と狙う緑色の瞳と目が合った。……怖い。


「ねえ。元の姿の私よりも今の子供の姿の方があなた方に積極的に狙われている気がするのはなぜかしら」


「幼い女の子を自分好みに育ててから戴くのが男の夢だからでは無いですか?」


 冗談よね?

 あなたはやっぱり笑えない冗談を言う人なのよね?


 目の前の捕虜を綺麗にしてあげたら、彼の逃亡も助けてあげようかしら。

 私はドゥーシャの笑えない冗談に対し、乾いた笑い声をあげながら皮肉に考えた。

 皮肉というよりも、必死だわ。

 ノーマン隊怖い。

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