中立地帯リャンにて
ハルメニアの領地を襲いに来た好戦的な隣国のベザールと殆ど同じ外見でありながら、ベザールの悪しき所を捨て去ってもっと悪しきものへと変わったのがリャンという中立国である。
リャンには自由市というものが外貨獲得のために乱立されている。
つまり、近隣国の略奪品が商品として並んでいたり、戦地で手に入れた捕虜が奴隷市で売り出されていることもあるし、誘拐犯が人質と金を交換する場所となっていたりもするのだ。
ただし、どんなに悪辣な街でも敵味方なく利益を追求できる場所と言えるからか、他国から侵略される事は無い中立地点として栄えていられる。
ノーマンと出会ったシュクデンの街は、聖人であるシュクデン様の慈悲により隣同士の仲の悪い国の緩衝地として作られた経緯があるためか、同じ中立地点でもまるきり違うという印象だ。
私は荒くれや人買いや盗賊団だって集まっているだろう殺伐とした街の中を怖々と歩き回りながら、どうしてこんな事になったのだろうと考えながらノーマンたちと約束していた宿屋に入った。
そして、遅れてきた私を目の前にした男達は、私を労うどころか、全員が全員、全く同じ顔を私に見せたのである。
つまり、ノーマン達全員が目玉が零れ落ちるくらいに目を見開いて、彼等の心臓が止まったのかと邪推するほどの驚いた顔をして見せたって事だ。
「ええと、君は?あの、エレメンタイン様はいずこへ?」
ノーマンが間抜けのような口調で私に尋ねて来たのは当たり前だし、絶対にそうなるだろうと私は待ち合わせの場所に辿り着くまでに何度も考えていた。
考えて考えてどう答えようかと、ぐるぐると頭を悩ませていたのだ。
正直に話そうか。
別人の振りを通そうか。
――――――
ハルメニアは私をコテンパンにのした後、エンシェント・ウィッチのくせに本来の力を全く出せない私には修業が必要なのだと言い放ったのだ。
「わたくしはあなたに出会えて最高の幸運をつかんだと思ったのに、全く成長しようとしないあなたに失望も抱えているの。」
だからって、この仕打ちは無いであろう。
私は彼女の攻撃によって魔法力を剥ぎ取られて丸裸にされ、そして、外見までも変化されてしまったのである。
どうして十歳の子供の姿なのよ!
もちろん彼女には抗議はした。
だが、ハルメニアという魔女は私に左の眉をあげただけだった。
「答えてよ!魔法を奪っただけじゃなくて、どうして肉体まで子供に戻したのよ!これじゃあ私は戦えない。単なる足手まといだわ!魔法を奪われたから自分の家にだって帰れない!私はどうやって暮らせばいいのよ!」
「あら、魔法は使えるわよ。砂魔法を封じて杖を没収しただけじゃない。リジーったら大げさね。小枝や棒で頑張って魔法陣を描けばいいでしょう。そうそう、詠唱だってずるしないでちゃんと唱えればいいじゃない。杖にほとんどの詠唱をダウンロードして詠唱の短縮化なんて、姑息な技が使えないってだけでしょう。」
私は今まで出来る限り人を殺したいとは考えないようにしていたが、ハルメニアだけは絶対にいつか絞め殺してやろうと心に誓った。
そんな私の殺意を知っている酷い魔女は、子供を遠足に出す母親のようにして、私に適当な金と食料を持たせると彼女の領地そのものから追い払ったのだ。
「はい。これはサービスよ。リャンの街に行ってらっしゃい。」
――――――
「ねえ、君は、あの、ティアだよね。」
ノーマンは驚きの顔を殆ど泣きそうな顔に変えており、私はその表情が昔見た初恋の人が浮かべた表情と同じだと認めた。
認めたからには真実を伝えるしかない。
「ハルメニアに魔法で負けたの。私は外見通りに、十歳ぐらいの頃の魔法力しか持たないわ。高度魔法で隠した自分の家にさえ帰れないの。しばらく一緒にいさせてくれる?足手まといにはならないから。」
ノーマンは私の告白とお願いを聞くや顔を真っ赤にして怒りの表情を見せた。
顔だけでなく、彼は叫び声だって上げたのだ。
「畜生!やっと口説けると思ったのに!あの魔女め!俺の行動を見越していやがった!」
私は少しだけハルメニアへの怒りが消えていた。
いつもの私だったら、野獣なノーマンに押し倒されていたかもしれない。




