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君に三食昼寝付きを差し上げます!  作者: 蔵前
彼は王の旗を背負うもの
36/106

祈りを捧げなくとも私は膝をつく

 私は遅かったと膝をついた。


 私達を出迎えた人はにこやかに事の次第を私に簡単に告げ、私に私のお陰だと感謝をも述べてくれたが、私は私のスペアの黒いローブをガウン代わりに羽織っている全裸の男からローブを奪い返すどころか誰もがいなくなった居間の中心でぺたりと座り込むしかなかった。


「ああ、想像がついたじゃ無いの。どうして私はあの時にこんな選択をしてしまったのだろう。」


 私の隠れ家にいて私とアシッドの帰りを待っていた筈の男性達は、私の隠れ家から姿を消していた。


 床に膝をついて嘆く私の後ろで立ち尽くすのは、事態の展開についていけるわけはない唯一残った全裸に黒ローブ男である。


「えっと、ええと、すまん。ディーナとドゥーシャが俺を治した駄賃として連れて行かれた。」


「あなたはこそどうして連れて行かれなかったの?彼女は綺麗な男には見境が無い人でしょう。」


 この世界での最高のヒーラーでもある魔女によって完全復活した男は、自分の悪戯の結果を飼い主から隠せるか悩む飼い犬の表情を見せた。

 虹色の瞳を心配そうに曇らせた表情はベイルにもよく似ていたが、ノーマンはベイルでもない上に大人の男でしかないので、私は彼に向かって片眉をあげて見せた。


「答えはどうしたの?」


「ティア、隊長が無事だった事に喜びましょうよ。凄いや、あんなに死にかけだった隊長が、今や傷一つない新品同様ですよ!」


「アシッド。そんな無邪気な言葉を吐くのならば、もう少し無邪気な言い方にしましょうよ。とりあえず言ってみた感が強く出過ぎよ。」


 誰もいなくなった家の居間の真ん中にいる私達と違い、居間の端っこで所在なさげに立ち尽くしてもいた男は、数秒前の台詞を不甲斐無いだけのものとしてしまったリベンジか、今度の台詞には物凄い適当さという抑揚をつけていた。


「あ、すいません。いやー、ほんと。俺もどうしていいのか。この事態は姉達をあの凄い魔城に置いてくるので手間取っちゃったからですよね。ほんっとにすいません。」


「え、魔城にも行っていたの?俺を置いて?だから帰りが遅かったんだね!俺はあの魔女に連れて行かれないように必死で一人で頑張っていたのに!」


「だから、あなたはどうして見逃されたのか言いなさいよ!ハルメニア・ヴィーンゼットは美しい男にかしずかれるのが大好きな人なのよ!男攫いの人なのよ!見つけた獲物は絶対に逃さない人なの!あなたは一体何をしたの!」


 ノーマンは観念したようにぎゅうっと両目を瞑り、だが、彼を睨む私が睨むことをやめないと数秒で悟ったからか、瞼を恐る恐るという風に開いた。

 まさに、怒らないでね、という風に耳を後ろに倒した犬の表情だ。


「あなたは、何をしたの?」


 聞き返しては見たが、私こそ彼がハルメニアになしたことを聞きたくも無い気持ちにもなっていた。

 この人は一体何をしでかしたのか、と。

 このまま黙っていてもらって、ディーナとドゥーシャは幸せにしていると忘れてしまった方が良いのだろうか。


――ティア、私を飼わない?


 どうして腕自慢で剣だけでも生きていけそうなディーナが私にあんな言い方をしたのかと思い返せば、この世界の事情を嫌になるほど知っている私には簡単に答えが出てくるというものだ。

 彼は奴隷に落とされた事で自分自身への自尊心などを失っていたに違いない。

 やはり、彼を取り戻してあげないと。


「これから生まれる子供の顔が見たいって言ったら見逃してくれた。」


 突然の突然なセリフに私は頭が真っ白になった。

「子供?え、どこの子供?生まれる?これから?」


 ノーマンを訝し気に見上げる私に対して、ノーマンは人を安心させるための笑顔を満開にして返した。

 まるで、俺の懐に入って来いと羽織っているローブの前を開きそうなほどに。


「もちろん。君と俺の子供だよ。それで、ええと。さあ、子作りしよう!嘘じゃ無くて本当だったらお祝いにディーナとドゥーシャを返してくれるって、あの魔女は俺に誓ってくれたよ。」



 私が居間に転がっていた手近なクッションをノーマンにぶつけたのは言うまでもない。

 こんな男、内臓出血であの世に送っておけばよかった。

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