美男子という華による花園の主
ハルメニア・ヴィーンゼット。
薬草と治癒の女神の化身、神々しい金色の光に包まれた美女と、様々な人々から最高の美辞麗句で飾られている御年120歳の魔女様だ。
彼女はお年のせいなのか、百を完全に忘れ去って永遠の二十歳と騙られる。
まあ、五百歳と思わせて十九歳の私がいるのだから、彼女は二十歳と見せかけての百二十歳ではなく、本当に二十歳なのだというのが真実なのかもしれないが、友人でもない私にはどうでもいい事だ。
また、美青年好きの彼女が誰にもその美青年漁りを咎められないのは、彼女が金も名誉も大魔女という肩書に裏付けられた確固たる立場を持っているからでもあるが、彼女が常に口にする言葉に対して女性は憧れて男性は彼女の所有物に選ばれたいと望むからでもあろう。
「すべてを手に入れているわたくしが男性に望むのは、美しさだけですのよ。」
そんな魔女に我が家を急襲させてしまったのだ。
入れ墨があっても品格や知性を失わないドゥーシャや、そこいらの美女では太刀打ちできない美しさを持つディーナを見て、それであの女が連れ去ろうとしないわけがないのだ。
そして、間抜けなノーマンこそ、ハルメニアが大好きな外見だ。
彼は筋肉質の大柄でも線が細く、しなやかにも見える肢体は美しい。
全体的に見て男らしいと言い切れるのに、スタイルの良い体と整った顔立ちによるものか、中性的な雰囲気もあってむさくるしく感じない。
つまり、大体の女性が嫌がる男臭さが抑えられているのに大人の男でしかない、という見事なバランスを持つ男なのである。
それを見逃した?
私との子供がいるからと?
――お祝いにディーナとドゥーシャを返してくれるって言っていたよ。
「あ、完全に騙されている。ノーマンったらお馬鹿。すっごいお馬鹿。どうするの?あなた?私とあなたの間に子供が出来ていたらお祝いにディーナとドゥーシャを返してくれるらしいけれど、あなたは子供の顔を見た途端にさようならよ。連れて行かれてしまうわよ。」
「え、嘘!俺は騙されたの!」
「騙すでしょうよ。あなたはハルメニアの理想の男性像ですもの。たくましいけれど男くさくなくって顔立ちも整っている。あなたこそターゲットでしょう。」
ノーマンは脅えるどころか嬉しそうに微笑んだ。
「君は俺をそんないい男に見てくれていたんだね。外見だけしか見てもらえないのは悲しいが、それは俺の努力が足りなかっただけだよね。うん、頑張るよ。あなたはうちも外も私の最高だわって、君に言ってもらえるように頑張るよ。さあ、お互いをもっと知るために寝室に戻ろう。あそこは夫婦のベッド何でしょう。」
「あなたは口を開くたびに自分を台無しにしているって気が付いている?まあ、いいわ。ほら、アシッド笑いすぎ。とりあえず私はハルメニアの所に行ってくる。その間にこの間抜けの面倒を頼むわね。」
「頼まれなくとも、彼こそ俺の上司ですって。ハハハ、本気で奥様ですね。」
アシッドの言葉に聞き捨てならないという風に、私は鼻の上に皺を寄せた。
ああ、ローブを被っていたんじゃあ、アシッドには私の表情はわからないか。
私はローブのフードをすいっと下ろした。
「アシッド。私の部屋を荒らされないように、あなたの上司を見張って下さるかしら。それから、私のローブじゃ無くて何かお洋服を上司様が着て下さると嬉しいわ。」
アシッドは私の言葉に馬鹿にされたと思ったのか肌を真っ赤に染めたが、大人の男らしく私に怒った顔を見せるどころか笑顔を作って返してきた。
それも、私に初めて見せただろうアシッドの魅力全開ともいえる微笑だ。
男爵様という称号付きも頷ける、とても素敵な微笑だ。
赤い頬が少し台無しにしていたが。
「すいません。二度と上司の奥様なんてお呼びしません。俺の奥様と呼びたいですからね。いってらっしゃい。リガティア。」
「おい!ちょっと待てよ!アシッド!」
「ほえ?」
何が起こった?
私は混乱している自分の居場所から、混乱はしていないが混乱させてやりたいハルメニアの居所へと飛んだ。
わぉ!
ハルメニアの世界は、彼女の生業である医術の為に必要な薬草の育成のためにどこかの高い山に作られている。
彼女の大農園のゲート前に飛んできた私の目に映る世界、門の柵の隙間から見える彼女の楽園には大きく広がる薬草園と温かさを必要とする植物の為の温室がいくつもある様子が広がり、私はその光景にいつものようにただただ羨ましいと息をのむだけであった。
四大元素を使えて、金属のような茨だって呼び出せる私でもあるが、ハルメニアのように植物を育てて、人の身体を完全に癒す事の出来る魔法など使えない。
私にハルメニアのような能力があれば、彼女のように一大王国をたててのんびりと平和に暮らせるだろうにと、私は彼女の世界に憧れも抱いてもいるのだ。
私は黄緑色の魔法で植物や自然の力を弱った生き物に生気として注ぎ込めるし、壊れた人体をオレンジ色の魔法陣によって治す事は出来る。
だが、実はオレンジ色の魔法陣の魔法だけはハルメニアから買ったものである。
つまり、私は彼女の魔法を買って杖にダウンロードさせ、その分だけ回復魔法を使うことが出来るのだ。
完全回復魔法を持っていないせいで不幸を呼んだ過去がある私としては、常に完全回復魔法を一つだけ持つようにはしていた。
今はラガシュに使ってしまって持っていないが、それゆえにハルメニアにノーマンの為のSOSを出してしまった事が本当に悔やまれる。
すぐに買い足しておけばこのような面倒は無かったのに!
完全回復魔法は二千万バイツするからとモタモタと買い足さなかったせいで、ハルメニア自身を動かすというもっと大金が必要となった上に、友人を奪われるという失態までする事になったのだ。
私はハルメニアの閉じ切った門の柵に両手を掛けるや、私が来ている事もここにいることだって知っている癖にガン無視の魔女に大声をあげていた。
「お客さんよ!開けて!」




