目覚め
真っ暗だった。いつの間にか見える光景に色がついた。
白い、薄暗い白。
その白い中に明るみの違う白色で映像が流れている。
黄金色の長髪を揺らしながら楽しそうに歩く女性、アルク。それに連なって笑顔を絶やさず談笑しながら続く男性、アッシュ。
そんな彼らのそばにいるもう一人の男性、あれは自分。
三人でのいつまでもそんな日々は続く、続く、続かない。
アルクはなぜあんなことを、追いかけ、飛びついて映像は止まった。
最初からだ、これが続くのか。
それから何度目だっただろう、変化がようやく訪れた。
「やっとだ、始まるよ」
声が響いた。それに反応するように白く周囲を包んでいった
〇 〇 〇
目に入ってきたものは何一つ見おぼえない部屋だった。聞こえるのは冷暖房の音。
周りを見回す、白いベッドの上に横になっている状態。ほかには机と椅子とロッカーがあるだけの質素な部屋。
体はどうだろうか、左腕は問題なく動く。右腕は……見覚えのないものがついていた。元々は義手だったのだが、ねじと鉄板を組み合わせたようなものが肘から伸びている。
ためしに動かしてみるがしっかり繋がってはいるようだ。
部屋には持っていたものは何もない、服も、大切なペンダントもない。
どこかにないかと見回しているとカチャリとドアノブの回す音が響く。
「おっ、ようやく起きたっすか」
扉の向こうから明るい声の先には黄色いジャケット青年が立っていた。全体的によれよれな服装、ぼさぼさになっている短い茶髪は清潔感はあまりなさそうな印象を受ける。
「調子はどうっすか?」
「大丈夫、右腕がこれだが」
椅子に座って向き直して苦笑いしながらこちらを見る。
「応急処置っす。むき出しだと目立つっすから。ここまで連れてくるだけでも大変だったんすよ」
「……助かった」
「どうしたしましてっす。貸しっすからね!」
白い歯を見せながら言う言葉は含みを覚える。椅子から立ち上がり、ロッカーから彼と同じ服を手渡された。
使っていないのか、しわ一つないきれいな状態だった。
「とりあえず、着替えてもらうっす。服とかは処分したっすからね」
「処分? そこにペンダントはなかったか」
無くしてはいけない。あれだけは替えが効かない今の自分には必要なもの。
彼の反応次第では、彼の反応は驚いたように目が開いた。
「ペンダント? あー! そうだったっす!」
再びロッカーを開いてごそごそと漁りだし「あった!」と叫んだ彼の手には青の力で覆われた三つ葉のチャームが付いたペンダント。間違いなくアルクからもらったものだ。
「これっすよね! 忘れてたっすよ。50日くらい前のことで」
「お前、何でこれを」
「頼まれたっすからね、あっ何でもないっす。必要なものっすよね!」
「誰だ、俺のことを知ってるやつだよな? これが大切だって知ってるってことは」
「言えないっす! ダメなんすよ、それだけは。ペンダントを返す代わりと言うことにはいかないっすかね」
理由は分からないが、そこは言えないのか。ここがどこだかもわからないし、この男と対立している場合じゃないな。
「わかったよ、せめて場所と日時くらいは教えてくれないか」
「242日目、ここは『ゴールディ』っすよ」
「年は、クリアス歴」
「112年っす」
記憶があるのは112年180日目。62日か、結構経ってるな。
それに『ゴールディ』か黄と赤の頂点が立てた街。歩いても数日かかるほど離れてる。
「着替えたら、ここを案内するっすね」
「ああ、助かる」
外は夜、点々と灯る明かりがほんのりと照らしている。静かだが、人の気配はそこかしこに感じる。『ゴールディ』は巨大な建築物の中にある街、外からの光は何一つ見えない。代わりに黄色とピンク色の光が照らしている。
「あんまり離れちゃだめっすよ。今回は案内だけっすから」
うなづいて返事を見回していく、明かりはほとんど店と思われる電飾。さまざまな色で彩られ見慣れない雰囲気に気圧される。
歩きながら酒場、食堂、雑貨屋などを教えられ、それ以外は入らないように口酸っぱく注意される。
「さーて、ここが一番教えておきたいところっす」
店のある通りを抜けると、急に町全体を照らすような赤褐色の看板が。『シアン闘劇』と輝いていた。
「君にはここで頑張ってもらうっす!」
嬉しそうにその一際輝く建物を指さした。
明らかに他の建物と雰囲気が違い、普通の建物ではないことがひしひしと伝わった。
中へ入っていくとエントランス、奥にカウンターがあり黄色と赤色が目立つドレスを着た女性がカウンター越しに待っている。
「それじゃ、あそこで登録を……名前はなんっすか?
「クロウだ」
「クロウさんっすね、あそこで登録していくっすよ」
こうして彼に何の説明のないまま奥へと連れていかれる。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「彼を登録するっす、すぐにマッチングしてほしいっす」
「ですが今は――」
「大丈夫っす、そのまま登録するっす」
遮られて少しむっとした表情を漏らしながらも「ではこちらに名前を、記入お願いします」そういって紙と書くものをカウンターに置かれた。それを彼は勝手に書いていく。
「コハクさん、本気で言ってるの? これ」
「良いんすよ、ねえクロウさん」
二人の緯線がこっちに、コハクという男は片目を閉じて嬉しそうに、受付は困った表情。
普通なら拒否するところ、だけど現状は孤独。恩もある、何を隠してるかわからないが今回だけだ。
「良いですよ、問題ありません」
「ほら、言ったじゃないっすか」
「うーん、マッチングは間違いなく、あれだからね」
「わかってるっすよ」
彼の言葉にため息を漏らしながら表情は笑顔に「本日はご登録ありがとうございました。明日の二試合目が決まりましたので、よろしくお願いいたします」口調も営業らしくなった。
「それじゃ、帰るっすよ」
嬉しそうな彼の様子に不安しか覚えなかった。




