26話 動き出す事態
主人公視点ではありません。
コウキ達が「狐晴亭」から出てからクウは一人考え事をしていた。
「二ホンかぁ……」
クウにとって『二ホン』という国は生まれ故郷なのだが、自分の赤ん坊の頃に母親がこのミレハイムにクウを連れて移動してきたのでどんな場所かはクウの記憶にはない。
「お父さん元気してるのかな?
と言ってもお父さんの顔も分からないんだけどね……」
クウの母親の『ハル』は、
「お父さんは二ホンで大切なお仕事があるから向こうに残ったの」
と言っていた。
クウが、
「どうして私とお母さんは二ホンから出たの?」
と何回か聞いたことがあったのだが、
「クウがもう少し大人になってからね……」
と毎回言われて、結局何でなのか聞けずじまいになってしまった。
「いつか私も二ホンに行ってみたいな……」
そうクウが一人呟いた時、不意に入口の扉がコンコンと叩かれる。
「あっ、もしかして新しい募集の人かな?」
日の落ちる前には来ると言っていた若い女性の募集者だったのだが、クウが考え事をしているうちに日は落ちる寸前にまでなっていた。
「はーい」
そう言ってクウは入口に向かって扉を開ける。
「ど、どちら様でしょうか?」
そこにいたのは若い女性ではなく、歳のいった老人であった。
募集の人は若い女性だったはずなのでこの老人は誰なのかとクウが聞くと、
「ふぉっふぉ、わしか? わしは『マモン』というものじゃ。
おぬしがクウとやらかの?」
「はい、そうですが……」
クウは少し警戒気味に返事をする。
「いや、なに。
わしはこの街の貴族の『トト・リッチナー』と取引の関係で仲良くしておっての。
奴がお前さんにえらく執着しておるんじゃよ」
そう言ったマモンと名乗る老人からクウは少し距離をとる。
「ふぉっふぉ。 そんなに警戒せんでもいいよ。
ここに男1人の女性5人組の者達がおったはずじゃ。
わしがリッチナーと話していると奴の部下がまるで化け物にでもあったかのような顔で帰ってきてのう。
そやつらの事が少し気になってのう。 気になって来てみたというわけじゃよ」
クウがマモンから話を聞く限りこの老人の興味は自分ではなくコウキさん達だと思い、
「あ、あの。 コウキさん、あっ、いえ、私を助けて下さった方はここにはもういません。
私を助けたくれた後すぐどこかに行ってしまわれたので……」
本当は食事を作ったり、話をしたりして長い間この狐晴亭にいたのだが、あえてクウはそう言った。
それとうっかりコウキの名前を口に出してしまったことを後悔する。
「ふぉっふぉ。 そうかそうか、コウキというのか。
では、別の所へ探しに行こうとするかの」
マモンはそう言って後ろに振り返り、入口から出ていこうとする。
クウは内心ほっとするが、マモンがいきなりこちらを振り返り、
「それはそうと、お嬢さん。
えらく変わったスキルを持っておるようじゃの?
わしの鑑定でも詳細が分からん……」
「な、何の事ですか?」
クウは自分のスキルは【危険察知Lv1】と【料理Lv9】しかないと思っている。
この世界ではスキルを得たり、スキルLvが上がったりすると頭の中に声が響くことで自分がスキルを持っていることが分かる。
一応、ギルドなどに鑑定石というものもある。
鑑定石とは自身の魔力(MP)を通すことにより自身のステータスやスキルが分かるものなのだが、母親から子供の頃から使用しては駄目だと言われていた。
しかし、一度だけ黙ってギルドで使わせてもらった事があった時にクウには魔力がないみたいで使用できないみたいと言われてからは使用していない。
獣人には魔力のない者も珍しくないのだが……。
そういったことからクウは物心ついてから取得したは先ほどあげた2つのスキルしか持っていないと思っている。
「ふぉっふぉ。 なんじゃおぬし。
自分のスキルなのに分からんのか?
鑑定石は……、ふむ何故かMPが空じゃのう。
それもスキルの所為か……」
そう言ってこちらを見るマモンがにんまり笑う。
「ひっ」
その気持ち悪い笑みにクウは思わず後ずさる。
それにさっきまで反応していなかったクウの【危険察知】のスキルが反応している。
「気が変わったわい。
おぬし自身には興味はないがおぬしのスキルは興味深い……。
少し付き合ってもらおうかの。
それにおぬしを攫えば、コウキとやらがまたおぬしを助けに来て会えるかもしれないからのう」
「い、いやです。 私、これでも獣人なんですよ。
老人のあなたくらいなら私でも何とかできます」
獣人は普通の人族に比べて魔力が低いかわりに身体能力は高い。
女性であるクウは人族の若い男性には負けるかもしれないが、目の前の老人くらいは何とかできると考えそう言うが、
「ふぉっふぉ。 お嬢さんには怪我はさせたくないからのう。
仕方ないのう。 ほれっ」
そう言ってマモンが手をクウにかざすとクウはよろける。
(な、なに? 意識が遠くなって…………)
そのままクウは倒れて気絶してしまう。
「ふぉっふぉ。 どれ、スキルの方は時間がかかりそうだし、まずはリッチナーの館に運ぶとするかのう」
マモンは老人とは思えない動きでクウを肩に担ぎ、
「どれ、コウキとやらが気づきやすいようにしとくかのう」
マモンはそう言って指をパチンとならす。
すると、部屋の中の床に火がつく。
「あとは……、おや、ちょうどいいところに」
マモンがそう言った時、入口の扉が開く。
「す、すみません、遅れました。 えっ?」
扉から出てきたのは若い女性だった。
クウを担いだ老人と床についた火を見て女性はびっくりする。
「ちょうどいいところにきたな。 伝言を頼みたいのだがいいかな?
リッチナーの屋敷でマモンが待つ、と。
相手は、男1人に女性5人組で男の名前がおそらくコウキという名前だ」
もしかしたら女性の中の1人の名前がコウキかもしれないのでマモンはそう言う。
口調の方も先ほどクウと話していた時とは違っていた。
「では、頼んだぞ」
そう言ったマモンはクウを担いだままその場から一瞬で消える。
「えっ? …………あっ、早く火を消さないと!」
女性は目の前の老人が言ったことと、一瞬で消えたことに驚いて少し動けなかったが、目の前で広がっていく火を見て我に返り急いで誰かに助けを求めに行くのだった。
ようやく事態が動き出します。
少しづつブクマや評価が増えてきてとてもやる気になります。
本職の方が忙しいですが、できるだけ更新スピードはあげていきたいと思います。
次回は10日の土曜日の8時の予定です。
これからもよろしくお願いします。




