後日談:魔王ヴィットーリオの飛翔
暴力(殺人?)描写があります。苦手な方はご注意ください。
「見つけたぜ魔王ヴィットーリオ! あんときゃあよくも殺ってくれたなあ!」
「またですか」
トーリは軽くため息をついた。
岸壁で平和に釣りを楽しんでいたのに、無粋な客に邪魔されるとは。
リスポーンした魔人のお礼参りはこれで何件目だろう。
最初のころは律義に数えていたが、10件目を超えたあたりで数えるのをやめた。
殺した魔人は40体以上。
その全員がお礼参りに来るわけではないが、まあ7~8割は来るだろう。
魔人は野生の魔力の塊なのだから、ほとんどが荒々しく好戦的だ。
平和を好む温厚な性格の魔人などそう多くはない。
子どもの守護者であり、子どもの夢を叶えるために生まれたサンダー・クロスでさえ、殺されたら殺しかえす報復主義だ。
まあ彼の場合、相手が手出ししてこない限り自分からは手を出さないので、魔人としては十分に温厚で平和的と言えるのだが。
目の前にいる魔人は温厚さとも平和主義とも無縁のようだった。
「この俺様を忘れたとは言わせねえぜ!」
「記憶する義理もありませんけどね」
忘れたか忘れていないかで言えば、半分忘れて半分憶えている。
詳しく言えば、その見た目には覚えがある。
頭部だけ雄ライオンで、体は筋骨たくましい人間の男性だ。
その『動物マスクかぶってる?』と聞きたくなるような容貌は印象に残っていた。
が、それだけだ。
名前などは憶えていない。
自分の肉体を改造するため、たくさんの魔物を狩り、たくさんの魔人を狩った。
数えきれないほどの獲物の中の一匹、ただそれだけの存在だ。
魔人狩りをしていた時はリスポーンを知らなかったため、こうして生き返ってお礼参りにやってくるという結果を予想しなかったのだが……鬱陶しい。
「冥途の土産に覚えとけ! 俺様の名前はサ…」
「うるさいですよ」
最後まで聞かずセリフの途中で叩き切った。
何を切ったか。
魔人の首だ。
ドサリと落ちたライオンの首が抗議するように口をパクパクさせたが、喉が肺とつながっていないので空気が流れず声が出ない。
やがて瞳から生気が消え、動かなくなった。
「鈍すぎるんですよ、何もかもが」
反応できず仁王立ちしたままの胴体をトンと突いてやると、切り口から血を吹き出しながら倒れた。
心臓がまだ動いているのかもしれない。
魔人は普通の生き物ではないから首を落としただけでは死なない可能性もある。
「海岸を汚すのもよくない。消毒しておきましょう」
魔剣レーヴァテインを軽く振って付いた血を飛ばし、片手で炎を放つ。
膨大な魔力から生み出される青白い火柱は一瞬にして魔人の首と胴体を真っ白な灰にした。
風が灰を吹き散らせば、そこには何も残らない。
ただ打ち寄せる波と岩があるだけ。
「脳筋は嫌いなんですよ。力量の差も理解せず、挑戦すればいつかは勝てると思い込んで。人間でも魔人でも同じだ。死ねばいい。死んでも直らないなら生き返ってくるな。ずっと死んでろ、邪魔くさい」
殺されて、リスポーンして、力量の差を思い知って、おとなしくしているのならそれでいい。
自分から狩りに行こうとはもう思わない。
だがお礼参りと称して襲いかかってくる者には虫酸が走る。
かつて殺したことを詫びるつもりもないし、償う必要も感じない。
魔人は野生の生き物、野生のルールは弱肉強食。
魔人など、自分にとってかつては獲物、今は雑魚。
例外は一人だけだ。
魔王となった自分と対決して唯一人、生き残って勝利した魔人。
自分と同郷の、思い出を共有する人。
純粋な戦闘力で言えば魔人の平均より下であろう、馬鹿馬鹿しいほどふざけた男。
だけど優しくて温かい人。
彼のことを思うと自然に顔が綻ぶ。
楽しい気持ちで満たされる。
「さて、そろそろ帰りますか。遅くなると心配されますからね」
人里離れたログハウスで同居人が待っている。
友への土産は獲れたての新鮮な魚だ。
カジキマグロに似たそれは十分に大きく、美味そうだ。
きっと彼も喜ぶだろう。
なぜなら彼は元日本人。
日本人は魚が好きだから。
ふわりと空へ舞い上がる。
飛ぶのは気持ちがいい。
空は清らかに澄んで美しい。
重力の頸木から解き放たれて、どこまでも高く、どこまでも自由に、思いのままに。
魔力を見えない翼に変えて、どこへだって飛んでいける。
行きたい所はいつだって同じ。
さあ帰ろう、友の待つ家へ。
心はいつも貴方の傍に。
ふと思い立って後日談書いてみました。
相変わらず友情だか恋愛だか分からない感情で執着しているトーリくんです。
サンダー以外の魔人は虫けら扱い。
過去の嫌いだった人と重ねてるのでしょうか。
屈折してますね。
人間には戻れないけど、魔王にもなりきる寸前で止まってしまって、中途半端な状態です。
いつかは自分の在り方を決めねばならないのでしょうが、今は気楽な居候の暮らしが気に入ってるようなので、まあ当事者同士がそれでいいんなら、いいか。




