妹フォリーの願い(ヤンデレお兄様をなんとかしないといけませんわ)
番外編です。
フォルトゥナータ、愛称フォリーは冷徹な観察眼を持つ令嬢である。
そのフォリーが身内ならではの遠慮のない視点で見たところ、実の兄ヴィットーリオは可愛い顔してヤバい奴である。
優しげな顔に隠されたヤンデレ気質を妹フォリーは幼い頃から見抜いていた。
だってお茶会してると割り込んでくるし。
プレゼントもらったと報告するとじっとりとした目つきで見てくるし。
非常に独占欲が強いのだ。
自分以外の子どもが優しくされるのが許せない、といった具合に。
サンダーが他の子どもにプレゼントをあげたと知ると、その場ではなんでもないふりをして、陰でぬいぐるみをドスドス殴っていたりする。
兄にサンダーからのプレゼントは見せてはいけないとその時肝に銘じた。
それと同時に呆れもした。
確かにサンダーは兄の親友だが。
だからって執着の仕方がおかしいとフォリーは思うのだ。
『フォリーを無事に生まれさせたのは僕とサンダー。だからフォリーは僕とサンダーの間に生まれたも同然』
と言われた時には、この兄大丈夫か、と兄の頭の出来を疑った。
フォリーはお父様とお母様の間に生まれたに決まってんでしょうが。
生物学的にも、法的にも。
なんでお兄様とサンダー様の子になるのよ。
馬鹿なの?
お兄様、馬鹿なの?
フォリーが見る限り、兄の頭は悪くはないが、好きな相手への独占欲が絡むと合理性を失い、迷走するのだ。
そこがまたフォリーを呆れさせる。
なんでサンダー様の事でそんなに迷走するのよ。
いくら好きでも同性の友達でしょうが。
馬鹿なの?
お兄様、馬鹿なの?
恋愛感情ならまだわかる。
恋人に執着して判断を狂わせるのはよくある話だ。
だけどサンダーは兄の恋人ではない。
年上の友人だ。
ヤキモチを焼く理由がないのだ。
しかし兄はヤキモチを焼く。
焼きまくる。
そんなにサンダー様が好きなら、サンダー様の家の子になれば?
…と小さい頃は思っていた。
だが12歳になった今、思うのだ。
あれって恋愛感情だったのでは……と。
恋愛感情と友情の区別がついていない子は女の子にもいる。
特定の同性にべったりくっついて、他の子と遊ぶのを嫌がるのだ。
そういうのに似た、もっと仄暗く、根深いものを兄には感じる。
兄がサンダーと会えなくなって6年。
いつ正気に戻るかと様子を見ていたが、どうやら戻るどころか渡ってはいけない川の向こう側へ渡って行きそうな気配である。
魔術の研究と称して家に帰らなくなった兄を連れ戻そうと一度は考えた。
叩きのめしてでも正気に返そうと。
だが冷徹な眼で俯瞰してみると。
無理に連れ戻すのは悪手かも、と思う。
手の者に調べさせた兄の行いはもはやまともではない。
魔物の血肉を食す、それも良いだろう、力を得るためならば。
そういう事をする武人はたまにいる。
だが『去っていった友にもう一度会いたいから』というその理由は駄目だ!
女々しいにもほどがある。
大きくなったから『子どもの守護者』に会えなくなって寂しい、それはわかる。
でもだからといって『人間辞めたら会えるはず』はおかしいでしょ!
理屈に合わないでしょ!
なぜ兄の思考回路はこう残念なのか。
思わず拳を握りしめるフォリーであった。
大体、サンダーへの執着が止まないのなら、殴ったって正気にならないだろう。
実家に連れ戻したら、サンダーとの物理的距離が近くなるのだから、どんな奇行に走るかわからない。
『サンダー・クロス捕獲用トラップ』なんかを庭中に仕掛けられたらサンダーにだって迷惑だ。
彼に迷惑をかけるべきではない。
兄は変態だが、サンダーはまとも……いえ、あちらも変態かしら?
赤い服ばかり着ている変な人ではあるけれど……。
善人か悪人かで言えば善人だと思う。
常識人か変人かで言えば変人だと思う。
では変態かそうでないかは…?
ちょっとその辺はよくわからない。
少し混乱したフォリーだったが、兄を強引に連れ戻すのは良くない、という結論に変わりはなかった。
トドメに、父が三人目の妻を迎えた。
18歳だという義母を紹介されて、フォリーは思った。
『自分の子どもくらい若い子と3度目の結婚をするオッサンより、変態でも一途な兄の方がまだマシなんじゃない?』
どっちがどれだけマシなのか一概には言えないが、フォリーの中で父の株が下がり、相対的に兄の株が上がった。
※
「……というわけで、お願いしていたスペシャルプレゼントはキャンセルさせていただきたいのです。無理に連れ戻してサンダー様にご迷惑をおかけしてもいけませんし。ああ見えて重度のヤンデレですから、監禁やら無理心中やらに発展しないとも限りません。お気をつけくださいませね、サンダー様。万が一、兄が悪さをしましたら、遠慮なくおっしゃってくださいませ。私、妹として責任持って腕の二、三本もへし折ってやりますわ」
「なんか知らんけど、わかった」
人間の腕は三本も無いけどなー、なんて呑気に笑っているサンダー・クロス。
危機感の乏しさに呆れながら、フォリーは上品にお茶を飲む。
二人のお茶会も今年限りだ。
フォリーはもうすぐ13歳。
大人の入り口に立つのだから。
ああ、でもどうか出来ることなら、フォリーが本当の大人、そう例えば16歳のレディになる頃には、兄の努力が実を結んで、この年上の友人と和解が成立していますように。
フォリーは願う、愛を込めて。
美しい友情として和解が成りますようにと。
成らずに兄のヤンデレが暴走したら、その時は。
軍人の娘として、妹として、肉体言語で説得を。
一本目は腕、二本目は脚、それでも駄目なら三本目にへし折るのは………首ですわね。
フォリーちゃん、ドライでクールで辛辣だけど、家族と縁の薄い兄を本気で心配しているのです。
もしもボロボロ状態の兄が転送されてきたら、鱗があろうが無かろうが、とりあえず介抱して、ある程度元気にしてからしばき倒したことでしょう。
肉体改造済みの兄をしばいても、フォリーちゃんの手が痛いだけな気がしますが。
実はトラップボックスの機能が「フォリーに届ける」なので、フォリーという呼び名の別の誰かに送りつける事もできました。
候補として魔人フォルネウスが候補に挙がっていました。
そっちを選べば転送先が水中(海底)なので、陸生生物であるトーリくんは溺死するか魔人フォルネウスに殺されるかです。
降参しなかったら魔人のフォリー(フォルネウス)に送られたかもしれません。
結構えげつない罠でした。




