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婚約破棄と新たな力

「眠っている間、君の中の魔力は凪の状態だが、覚醒している時は、馴染むために嵐だった。成人した今日と言う日に君が虹の魔法を使う、それも覚悟を持って使えれば、魔力の安定の証明となり、空くじらの召喚が叶う。」

未だに外にはキラキラとした霧雨が降り、見上げる空には大きな魚、空くじらが泳いでいるだろう。

「私の契約している空くじらは、存外に嫉妬深くてな、私の相手と自分の番を契約させようと考えていて、ファティマが、他の魔獣や動物と契約を結ぶのを嫌がった。」

もしかして、と彼を見る。「ファティマが魔獣をテイム出来ない原因は空くじらの嫉妬を魔獣達が恐れたからだ。決してファティマにテイマーの才能がない訳ではない。」

「でも、才能の花は咲かなかった。」

学園に入ると同時に適性検査を受けた。けれど、私の前には何の花も咲かなかった。

彼は大きなため息を漏らした。

「ファティマのテイマーの才能の花は、精霊獣の里で咲いている。精霊獣の里は少し違う場所、空間にあるから、こちらまで影響が及ばない。」

ここで、中庭が騒がしくなった。

何事かと意識が向いた。

「ゼファ……。」

見てギョッとした。淡い色調の七色の髪を靡かせる美丈夫。なんか、まぶ、眩しい。

『お前の花だ!』

キラキラと光る青い花。

花はゆっくり私の中に入っていった。

『我が番には、こやつの番に召喚主になってもらわねばならんからな。』

ふんぞり返る派手な人。

「ゼファ、お前がくるとややこしい。サイファに怒られて返しに来たのだろう?私に渡せば良かったんだ。」

『主の番をこの目でみたかったのだ!』

ぐははっと笑う豪快な人は、中庭に戻り空高く去って行った。

「なんか、豪快な方ですね、」

「ゼファには、もし、ファティマが虹魔法を使わなくても花は、返せと言っていた。」

えっ、と彼を見る。あ、こっちも眩しい。

「君が、覚悟を持って虹魔法を使わなかったら、今日、私は、ここに来られなかった。ありがとう、ファティマ。」

あぁ、眩しいっ!

裁判長の咳払い。

振り向くと複雑そうな顔をしたお父様とお兄様達、ニコニコしているお母様と叔母様、そして、呆然としているあちらさん達。

私は彼にエスコートされて法廷内へ、でも、濡れてるし、どうしよう……。

「乾けって、願えばいい、風と火の精霊が力をかしてくれる。」

耳元に囁かれる彼の声。

本当?

「乾けっ。」

小さく唱えると私を包む暖かい風。ふわりと靡いた髪が乾いたことを教えてくれた。

「凄い……。」

「ファティマの力だよ。」 

そう言われて嬉しくなった。

長い詠唱も、魔術陣も、魔石もいらないんだ。

「さて、法廷内に居られる皆様、ファティマ嬢の無能とは何だったのでしょう。今日、この時を待ちさえすれば良かったのを、彼は自身の不貞により契約を反故したのです!」

弁護士が高らかに告げる。

向こうの弁護士は、お手上げのポーズをする。

「閉廷!」

カンカンと木槌が打たれた。


「あの、……ここは?」

法定を出て屋敷に帰ることになった私達家族は彼とゼファに促されるままとある空間にいた。

ふわふわの柔らかいパステルカラーの空間に応接セットが置かれている。

色合いだけ見たら、可愛い女の子の部屋のようだ。

「落ち着かないかもしれないが、座ってくれ。」

ふわふわのソファもパステルカラー。お父様とお兄様達には似合わない。

「ここは、空くじらの中だ。」

私を含めた皆がギョッとした。気が付くと人型ゼファが嬉しそうにお茶の用意をしている。お母様と叔母様は、すでに馴染んでる。

「あら、ファティマの好きなお茶だわ。」

お母様の言葉に驚いて一口。

「……美味しい。」

ゼファが、得意そうな顔をしている。

「貴殿らの騎獣は、ちゃんと格納庫にて寛いでいるから、安心してくれ。」

裁判所に付いてきた従者や侍女達も別室で待機してくれているらしい。

彼も一口お茶を飲むと家族に向けてニッコリと笑った。

「聞きたいことがあれば、どうぞ?」

お父様が姿勢を正した。

「では、まず…私共はあなた様を何と呼べばいいでしょうか。あなたの名前は発音が出来ない。」

彼はチラリと私を見ると、

「そうですね、エドガーと呼んで下さい、父上。」

と言って微笑み、お父様は眉をひそめた。

「まだ、父ではない。」

一言漏らすとお母様が扇でお父様の頭を叩いた。

「ほほほ、気になさらないで下さいまし。で、この人を父と呼ぶと言うことは、あなたは、ファティマを望んでいると言うことでよろしくて?」

お父様とお兄様達の視線が私と彼を行ったり来たりしている。

「もちろんです、母上。」

「し、しかし!森の民は我々とは違い長寿だと聞いたぞ!どう考えてもファティマの方が早く老いる。」

お父様の言葉にハッとする。そうだ、私と彼は同じ時を刻めない。

「その件なら気にしなくて良いですよ、南の森はまだまだ父に統治してもらいますし、私は、ファティマと共に生き、老いることを望む。そして、互いに魂だけの存在になった時、2人して精霊に転生し精霊界に、森の民となるつもりです。」

見上げる彼と目があった。

「森の民にとって、ほんの少しの間、私は、人として生き、彼女と同じ精霊使い、エレメンタリーとしてこの辺境のため生きることを誓います。」

ポカンとしている家族。

「今頃、私の本当の体は精霊界の奥で将来ファティマが宿るであろう肉体と共に眠りについていることでしょう。」


ファティマ・ロイエンタールは、精霊騎士と呼ばれた夫と共に辺境の地で幸せに暮らすのである。


これにて、一件落着。

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