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「あのね、私、幼稚園くらいまではこの町にいたんだけど、引っ越して遠くの町に行ったんだ。でね、最近になってこの町に戻ってきたの。それで、イトコの翔くんに連絡を取ってみたら、ちょっと相談があるって言われてね。だからここ最近、何回かふたりで会って話してたのよ」
辺りはすっかり真っ暗になっている。
僕たちは道の端に寄り、街灯の下で清美さんの話を聞いていた。
当然そばには詩織ちゃんもいて、姿を消して僕たちの会話にじっと耳を傾けている。
「相談……ですか……」
「うん。なんか、瞳さんのことを意識しちゃって、恥ずかしくてまともに喋れないって言うのぉ~。可愛いよねぇ~♪」
けらけらと笑う清美さん。
……そっか、姉ちゃんの言ってたことで、ほぼ合っていたってわけか……。
「でもまぁ、ふたりっきりで会ってたのは、マズかったかな。瞳さんに心配かけさせちゃったわねぇ♪」
と言いつつも、楽しんでいるような口調。
「そうですね。水沢さん、どんどん悪いほうへと考えちゃうみたいで……」
「あはは♪ でも翔くんって人気あるからねぇ♪ 瞳さんも頑張らないと、他の人に取られちゃうゾ、な~んて言っちゃおうかな♪」
――やっぱり、完全に楽しんでるな、この人……。
「もしくは、私が取っちゃうゾ、とか♪」
「え゛?」
「冗談だってば! あはは♪ 私、彼氏いるしぃ~♪」
むぅ……。僕まで、からかわれてしまった……。
「でもでも~、ほんと、おかしぃ~♪」
そしてまた笑い始める。
ほんと、明るくてよく喋る人だなぁ、清美さんって。
「あ……ところで、さっきなにか買ってたような……。あれって……」
「ああ~~、あれね~! あれは……」
と言いかけたその瞬間、背後からふたつの人影が現れた。
「あれ……? 夕時……?」
そう、現れたのは夕時と……もうひとりは水沢さんだった。
「あ……あれ? どうして???」
「こんばんは」
困惑する僕をよそに、水沢さんは慌てた様子もなくペコリとお辞儀をする。
夕時のほうに目をやると、ニヤニヤしながら口を開いた。
「話はすべて聞いたぞ。今日は水沢さんとふたりでお前らのあとをずっとつけて、様子をうかがってたのさ」
「えええっ!?」
「お前が警官に見つかって大慌てで逃げる様子もバッチリ見てたぜ! ね、水沢さん」
「あ……はい」
う~~、夕時の奴め~~。
用事があるとか言っておいて、また僕に内緒でそういうことを……。
まぁ、そういう性格だからな、コイツは。今さらどうこう言っても、仕方がないか……。
「ふふっ。あなたが瞳さんね。初めまして! 翔くんから、よく話は聞いてるわ! ほんと、仲よしなのよね♪」
「ど……どうも、初めまして」
清美さんの勢いに若干の戸惑いは見せたものの、水沢さんは照れ笑いを浮かべながら答える。
「ああ~~っ! でも、さっきの話も聞かれちゃったのね! ちぇっ! 私が取っちゃうゾ、って、からかってあげたかったのにぃ~~!」
ははは……。やっぱりこういう人なんだな、清美さん……。
冗談で言っているだけのはずだけど、水沢さんは不安そうな表情を崩せないまま。
なんだか心なしか冷たい風が通り過ぎる。
初夏とはいえ、この時間になると、まだちょっと涼しかった。
「今日はもう遅いし、明日、翔くんも呼んで話す、ってことにしないか?」
夕時が提案する。
「うん、おっけ☆ それじゃ、また明日ね♪ ……そうね、美島公園に十時ってことで、いいかしら?」
「はい」
美島公園というのは、近くにある大きな噴水が特徴的な公園だ。
敷地は広くはないけど、全体的に清潔で綺麗な印象で、とても雰囲気のいい場所なのだ。
お金のない学生にとっては、デートするには持ってこいの場所、とも言える。
「翔くんには、私から電話しておくわね♪」
「……余計なことは言わないで下さいよ」
楽しげな口調の清美さんに、念のためツッコミを入れておく。
「大丈夫、大丈夫☆ 私を信用しなさいって♪」
――いや、信用できないから言ってるんだけど……。
ともかく電話は清美さんに任せて、今日のところは解散することになった。