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「なんか、嫌な雲行きだな」
クラスメートの宇良原夕時が、空を見上げてつぶやいた。
「うん……早く帰んなきゃ、降り出してきちゃうね」
初夏の生暖かい空気が、ねっとりと辺りを包み込んでいる。
僕たちふたりのいる校庭は無風。
にもかかわらず、空を行く雲の流れは、まるで嵐の真っただ中のように速かった。
僕は時奈零樹、中学二年生。
外で遊び回ることとゲームをすることが大好きな、ごくごく普通の男子中学生だ。
……と自分では思ってるのだけど……。夕時には、よく変だと言われてしまう。
そういう夕時だって、かなりの変わり者だと思うのだけど。
「しっかし、どうして俺たちが校庭掃除なんかしなきゃならないんだ?」
「……罰でしょ? 掃除サボりの常習犯の」
すかさずツッコミを入れる。
夕時とは家が隣同士で、幼稚園からの腐れ縁。なにをするにもいつも一緒だったのだ。
……おしおきを受けたりするのも含めて。
「お前がトロいから見つかったんだろ!」
「なんだよぉ! そそのかしたのは夕時じゃんか!」
「話に乗った時点で共犯だっつーの!」
と、いつものように口ゲンカを繰り広げつつ、僕たちは歩いていた。
校庭から昇降口へ戻るには、中庭を通る必要がある。
園芸部が丹精込めて育てている花壇から、心地よい香りが漂ってきていた。
…………?
そのとき、僕はなにかを感じて空を見上げた。
突然視界が暗くなり、なにやら布のようなものが目の前に――。
ドガッ!!
衝撃が走る。
物理的な意味合いで。
途端に、目の前は真っ暗になっていた。
どうやら、なにかが上から落ちてきて、僕に直撃したらしい。
「お……おい、零樹! 大丈夫か!? しっかりしろ!!」
夕時の叫び声が、朦朧とする意識の中で響く。
「おい! しっかりしろ! ……キミも! 大丈夫か!?」
――キミ……も?
でも、それ以上はなにも考えられなかった。
僕の意識が闇の中へと落ちてしまったからだ。
☆☆☆☆☆
一面の暗黒世界。
なにも見えない。なにも聞こえない。
――あっ! なにも見えないのは、目をつぶってるからか。
夕時がいたら、なに大ボケかましてんだ! と怒鳴り散らされるところだ。危ない危ない。
ともかく、僕は目を開けた。
――はて……、ここは……?
見渡す限り地平線が広がり、地面には色とりどりの花々が、まるで絨毯のように敷き詰められていた。
空は七色に輝き、雲ひとつない。
太陽は見えないけど、気持ちのよい暖かさが感じられる。
――僕、死んじゃったのかなぁ……。ここってあの世へと続くお花畑ってこと? とすると、向こうからお婆ちゃんが現れて、僕を手招きしたりするのかなぁ?
そう思って周りを見渡していると、向こうのほうからひとつの人影が近づいてきた。
――あれ? お婆ちゃんじゃない……?
帽子を深くかぶっていてよくわからないけど、どうやらそれは若い女性のようだ。
白いワンピースから微かに見える白い足をまったく動かさず、スゥーッ、と僕のほうへと向かって滑るように移動してくる。
――知らない人、みたいだけど、やっぱりあの世の人なのかなぁ……?
と、その女性は僕の目の前で立ち止まり、顔を上げた。
そして、ふわっと真綿のようにやわらかく微笑みながら、こう言った。
――零樹……生きて!
辺りが真っ白に輝いた。
僕の耳には、彼女の澄みきった、それでいて悲しみを含んだような声の響きだけが残っていた――。




