6-2.国王夫妻との朝食会
6-2.国王夫妻との朝食会
「ボタンの掛け違いとは?」
陛下の問いは短い。
「はい…。まず、穴が開いた原因は、魔族の陰謀ではないようです。穴の魔族側はボリス伯爵の領地とのことですが、伯爵家もこの穴には迷惑している立場のようです。 彼らの陰謀でも、魔王の命令でもないようなのです。」
「何じゃと?」
王は目を丸くした。マルタ王妃は静かに聞いている。
「して、原因は?」
「申し訳ございません。私にも原因は分かりませんでした。ただ、現地の村人も、魔族側も、原因を知るものがいませんでした。しかし、大きな鍵らしきものに行き当たりました。」
「エレナのいう鍵とは?」
――エレナはワンテンポ置いた。
「精霊です。」
いよいよアレックスの顔が曇った。
「精霊…?」
「はい…。穴の拡大には、数多の精霊が関与しています。」
アレックスはまだ全貌を掴めない。エレナは水を飲んだ。
「精霊は、魔界から人間界に魔素を持ち出し、こちらに精霊の王国を作ろうとしています。そして、魔界ではこのために魔素が枯渇し、魔素が豊かになった人間領にゴブリンやコボルトが溢れています。そして、厄介なことに、魔素が薄いと下級魔物は狂化して暴れます。この『狂化』が大変なので村の駆除隊が魔物を駆除しているわけです。実際、村の防衛戦はギリギリで、騎士団を送らないとそこから王国が侵食されかねません。速やかにフランツら騎士団を村に送って頂く必要がございます。」
「分かった。」
陛下は執事に命じた。
「フランツに騎士団を与えて村に向かわせよ。輜重隊も出すように。」
執事はかしこまり下がった。即座に伝令が飛んだ。
「騎士団を送ってもらえばまず安心で、その後は、入念に検討したい情報です。」
王妃は満足そうに聞いている。
「その検討事項とは?」
陛下は短いが要点を聞いてくる。あくまでも穏やかだ。
「はい。穴の拡大には精霊が関与していそうです。これもあくまでも仮説なのですが…。そして、精霊には、穴で悪さをしている自覚がないようです。蟻のように精霊が増えていましたが…何か原因でもあるのでしょうか?それと…精霊が見えるほどの優秀な戦士ほど、怪我をしやすいです。
ロナウド隊長、サミュエル副長、そして、王女近衛筆頭のゲルト。3人とも精霊に気を取られて負傷しました。」
「なるほど。それでは、対策は?」
「実はゲルトが負傷したのは私のせいなのです。」
エレナは申し訳なさそうに語った。
「そなたを庇ったのではないのか?」
「いえ…私は危険に陥っていませんでした。」
エレナは、懐から眼鏡を取り出した。
「こちらは魔道具、精霊透視の眼鏡です。実は――
――三人の負傷者はみな、武芸に優れ、その共通点はとても目が良いことでした。つまり、戦闘中に精霊が見えると、気を取られて負傷しやすいのです。」
とエレナはまとめた。そして、アビーと三人で眼鏡をかけて出撃した結果、穴の周りは数多の精霊がおり、一瞬行動の止まったゲルトが咬まれたと、淡々と説明した。
陛下は続きを無理に促さず、黙考した。口を挟む時間ではないと判断し、一通り話すとエレナは水を口にした。
マルタ王妃は、静かにナイフとフォークを運びながら、食事を続け、要所で静かに頷いていた。
「単なるゴブリン騒ぎではないな。」
重い口を開いて国王は言った。
「おそらく、仰せの通りかと。」
「まだ、お前なりの仮説や疑問があるのだろう?」
「はい…。」
チラリと王妃を見る国王、王妃は優しく頷いた。
「お前の意見や推測も含めて話してみよ。」
王の下問は、核心に迫った。




