4-3.開封
4-3.開封
「さ」
すっとイリナが置いたのは、イヴァンが魔王様からの手紙を開封する時などに使う伯爵執務室のペーパーナイフだった。取っ手に髑髏が掘ってある銀製である。イヴァンに使い込まれて味わいのある風格があった。
「これって…。」
「シーッ。」
イリナは唇に人差し指を当てて、ウィンクした。
「こういうのは形が大事です。魔王様の書類を開封してきたナイフです。どんな手紙も開封できます。」
それにどれほどの意味があるのか、分からなかったが、魔王の書類を開封してきた歴戦のナイフと聞いて、ツノなしの剣士の手紙を恐れていたことが我ながら微笑ましく思えてきた。
「い・・・。行くぞ。」
比較的スムーズに開封できた。
「人族語だな。」
「これくらいは読めます。時々、王都へクッキーを買いに出ていますから。」
執務室から王都の菓子屋まで神出鬼没らしい。
「読んでくれないか。」
「はい。」
――。
ボリス伯爵家令嬢、ミレナ殿
「何々?」
――元々害意はなかったこと。
――ゴブリンは狂化しており、ミレナ様を襲おうとしていたので蹴り飛ばした所、体を入れ替えられてミレナ様を蹴ってしまったこと。
――それをイヴァン様に誤解されて斬り合いになってしまったこと。
――押し返すだけのつもりが、伯爵が一瞬固まり、致命傷を負わせてしまって申し訳ない。不幸な事故だと思っていること。
――何より今後も対話を望んでいること。
「・・・と言うことのようです。」
イリナは読み終えると水を飲んだ。
ミレナはさめざめと泣いていた。
――父上は死ななくて良かったのではないか。
――しかし、仕掛けたのは父だった。
――ミレナでは止めることは出来なかった。
俊太郎側から見た顛末は理解した。
しかし、イヴァンは帰ってこない。泣いても、泣き止んでも、父はもういないのだ。
――イリナ、イリナ。どうしたらいいんだろう?
イリナは何も言わず、ただ抱きしめて背中をさするのだった。




