158 大切な日
夏休みが終わり9月の初め。5日。これまで文化祭の準備を怠らずしてきた。
今年は例外で土曜日だが始業式があった。そして放課後に生徒会の集まりがあった。
「文化祭のパトロールは文化祭でフリーになる蟻音と陽君と春斗君、担当です。代わりはいません」
モンは威圧的に話し始めた。
「パトロール? 何するんだ?」
「とりあえず、見回ってください」
「遊んでもいいのか?」
陽は目をぎらつかせる。
「遊ぶのではなく、不良がたまり場で通行妨害していたり、悪漢がいたら3人でとっ捕まえてください。普段から鍛えているのでできるはずです」
「えーやだな、俺、友達と回りたいクラスがあるんだけど」
「俺とたいだけでもいいよ」
「会長命令です」
「回ればいいんでしょ! 分かりましたよ!」
春斗は強気に返して、生徒会室を後にした。
「さてと、9月に入りましたが、ポスターやアーチや栞はできていますね?」
「「「頑張りました」」」
1、2、3年生は声をそろえた。
「そうですが、文化祭で窓に貼る看板と体育館につける花飾りがまだなので今日中に終わらせましょう」
「ええーー!」と皆が大ブーイング。
「春斗、さては逃げたな」
「あいつぅ!」
といとと陽が怒る。
「1、2、3年生とクラスの文字を画用紙に書いて貼るだけです。花飾りも、後30枚作ればオーケーです」
「モンが書けよ」
「私はやる事があります。では明日までに仕上げてくださいね。来週は文化祭なので」
「待てよ、やる事ってここでできないのか? どこ行くんだよ?」
僕がモンの言葉尻を捕らえる。
「いいとこ床屋の縁の下です」
「はあ?」
「それでは」
モンは僕らを見回し、退散していった。
「モン君まで帰られたんじゃ仕事になんねえよ」と唯盛。
「できることをしよう。一昨年と去年の文化祭を思い出して」
陽が励ます。
「仕方ねえ、たー坊は3年の1組、2組、3組の窓に貼るやつをポスカで書け。えな君は2年、1年の藤井君は1年に指揮を執ってやってくれ。3年が花飾りを作るから、残った奴は体育館に行き、花飾りをつけろ」
「はいよー」
「「了解です」」
全員が忙しそうに準備に取り掛かった。
僕はうまく役に立ちまわれたかと思ったが、問題発生した。
「たー君、字、きたな」
ダメ出ししてきたのはといとだ。
「読めればいいんだよ」
「裏に書き直すか。陽君、頼む」
唯盛は冷静に言うので、僕は少し傷ついた。
「よしできたな。じゃあ貼ってきてくれ」
「俺とたいで貼るね」
陽は僕の腕をつかんで引っ張る。
「そんなに強く引っ張ったら服が破けちゃうだろうが!」
「破れるのは2人きりの時でいいよ」
「欲求不満か」
「はーい、行ってらっしゃい」
さんぽに養生テープと生徒会室の鍵を渡されて、生徒会室を追い出された。外ではミンミンゼミがうるさい。
僕らは無言で3年1組に入っていった。
「この辺かな」
「うん」
僕らはいたって普通に窓に貼る。陽が押さえて、僕が四方に養生テープでとめる。全部で4つ、後3つだ。
「明日、葉阿戸さんの誕生日らしいね」
「え? そうなんだ!」
「SNSでお祭り状態だよ。去年も凄かった」
「もしかして、モンの奴、プレゼントを買いに行きに……? ……教えてくれてありがとう」
「いや、まさか付き合ってるのに知らないなんてね」
陽の言葉が胸に刺さった。
「いやさぁ、何も言ってなかったから」
「ふっ、ここは俺に任せて早く帰りな」
「頼りになるな! ありがとう」
僕は葉阿戸の誕生日を一生懸命祝おうと思った。生徒会室の明かりが消えている。
(チャンス!)
いそいで帰り支度をして、陽に鍵を渡して、こっそりと下校した。葉阿戸らしいものを作ろうと必死だった。
◇
次の日。
僕は葉阿戸の家の前までやってきた。
(心臓がどきどきする。これ渡しても引かれないかな?)
「ええい、ままよ!」
インターフォンを押して葉阿戸を待っている間、一台の軽自動車が通り過ぎずに目の前で止まった。
「誰?」
そうこうしているうちに玄関のドアと車のドアが一斉に開いた。
ドアから出た葉阿戸は僕らを見てぎょっとした。
「お誕生日おめでとうございます、葉阿戸様」
車から出たモンが狩衣姿で赤いバラの花束を持っていた。
不釣り合いな姿に僕は吹き出しそうになった。
「えっと、誕生日おめでとう! 葉阿戸」
「ありがとう。朝から騒がしいと困るんで、2人とも中に入りなよ。……で、ところで何で君ら俺の誕生日知ってるの? 誰かに聞いたの?」
2人とも家の敷地に入り、しばしの間、唇をかむ。
「それは一昨年も去年もお祝いしたじゃないですか。生徒会員ならだれでも分かりますよ。ね、蟻音?」
モンは僕にケンカを売るように浅沓で僕の足を踏む。
「えっと、僕は陽に聞いて」
「ケーキは明日姉さんがさっき焼いてくれたよ。フルーツタルトだけど食べる?」
「うん! お邪魔します」
「はい! お邪魔します」
モンの縦烏帽子が玄関の上にぶつかって、葉阿戸は心配そうに見ていた。
「脱いでいいよ」
「はい! ありがとうございます」
3人は玄関から二階のリビングに移動した。
明日多里少の姿はない。
「葉阿戸、これ誕プレ」
僕は両手で持てるほどの小さな包み紙を渡した。
「何だろう、開けていい?」
「うん」
心臓がやけにうるさい。
「え? 可愛いー。たい、こういうの得意なんだね!」
スイーツのデコレーションした写真立てだ。水色の写真立てにデコクリーム、デコクッキー、デコ飴、デコパウダー、リボンをつけた、1点ものだ。
「葉阿戸様、私からはこれを」
大きな包み紙を開けると薄いピンクのリュックサックだった。ウサギのチャームがついている。リュックの中からうさぎのカチューシャが出てきた。
僕は葉阿戸の横顔をじっと見つめる。
(好印象ではないなあ。それに、このリュック買う時、恥ずかしくなかったのかな?)
「……あ、撮影の時に使うね!」
「普段使用してください」
「あー……、とにかく2人ともありがと、椅子に座って」
葉阿戸は僕らをテーブルのある椅子に座らせる。
「たー君じゃん!?」
1階の階段からケーキとナイフを持った明日多里少が出てきた。
「げ! 明日姉さん」
「何がげ、なんだ。痩せたな?」
「何で疑問形なんですか! 痩せましたよ。そんなことより会社の方はどうですか?」
「順調そのものさ。茂丸も雷神会社に入るようにあーしが斡旋するぞ? たー君はどう?」
「えっと、大学に行くために勉強してます。ありがとうございます」
僕は明日多里少にケーキの皿を押し付けられた。
「モン君、元気?」
「お姉さま、ご無沙汰しております。元気です」
「ん? 何これ。葉阿戸、趣味悪! うさぴょーん」
明日多里少は葉阿戸の横の椅子に置かれた、リュックサックとうさぎのカチューシャを発見し、大爆笑している。カチューシャをつけている。結構似合って可愛い。
「それは……」
「私、用事思い出したので帰ります」
「あーし、乗せてくよ。でもケーキは食えよ」
「分かりました」
モンも葉阿戸も僕も気まずい空気になる。
「せっかく衣装着てきたんだから、写真でも撮るか?」
「いいですね! さすが葉阿戸様」
そういうモンはケーキを食べ終えた。
自撮り棒で葉阿戸が写真を撮った。
僕は明日多里少に頬をつねられる写真も、撮られた。
「帰りますね」
「うん、気を付けて」
「いや、蟻音も帰るんです」
「え~? ケーキ食べただけだよ?」
「いいから来い。葉阿戸様と2人きりになるな」
「ブラックモンが出てるよ。お昼の準備もしないといけないよね、帰るね」
僕はあっけなくお祝い会が終了して心が沈んでいった。
「たい、またご飯一緒に食べよう?」
「ハッピーバースデー、葉阿戸、グッドラック! お邪魔しました」
僕は自転車に乗りながら、ふと考える。
「葉阿戸が女の子だったら、今よりモテモテだったんだろうな」
我に返った。そんなことどうしようもない事だってわかっている。
(今の言葉は葉阿戸に言わないようにしないと。反省、反省)




