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虹色の光をまとう転生少女は、神に生き様を見守られている。  作者: 三月べに


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◇21 童心と初練習。



「あとは、次期ボスの支持の派閥だな。若い【ギア】覚醒者は今のところ、お前の他に三人いる。分家のレテシエアの長男と次男。二十代だ。同じく分家のサムディの長男で成人している。オレはどんな人格をしているかまでは知らねーな」

「じゃあ、悪い噂も耳にしてない?」

「ああ。その辺も、なんとか聞き出しておく」


 話はこれくらいにし、三時のおやつの時間の前に、アルトを帰すことにした。

 もうイターリーに帰るそうだ。それで三週間後に、また来る。


「あ。……【約束の広場】に入る方法、あるかどうか、訊きそびれた」


 まっ、いいか。

 どうせ難しいことだ。もう少しだけ、待ってもらおう。

 翌日に、買い物に出掛けると知ったクロードお兄ちゃんは、自分も行くと言い張った。

「オレが二人を護衛する!」と息巻く。「あと、エコーちゃんの新しい服、選びたい」とそんな本音もぶっちゃけた。

 学校があるので、お兄ちゃんが下校してから、街の子供服店に行った。

 三着でいいのに、お母さんとお兄ちゃんが迷いに迷って、五着を購入。


「エコーちゃんが運動かー……早起きして、オレとランニングする?」

「……学校行く前に、疲れたりしない?」

「ははっ! お兄ちゃんの体力を甘く見ちゃだめだぜ! 最初はエコーちゃんに合わせて、軽いランニングだ!」


 ……頷いていないのに、決定してしまった。

 そういうことで、翌朝は新しい服を着て、お兄ちゃんと一緒に敷地内をぐるりと一周することに。

 丸い襟がついたシャツは、半袖がバルーンのように膨れている。短パンとハイソと、運動向けのブーツという格好。

 一周で、へとへとである。思い知る、体力のなさ。

 庭先で足を投げ出して座り込む私を、お兄ちゃんは笑って抱っこして、家の中まで運んでくれた。

 ぐったりとした私に、申し訳なさそうにしていたお母さんをお楽しみのお茶会へと送り出す。

 もう私が事件に遭ってから、行けなかったそうだし、完成した編み物を披露するためにも見送った。お母さんの趣味だもの、お茶会参加。

 やっと、一人になれた。

 寝込みたいところだけど、せっかくのチャンス。

 私は一つ背伸びをしてから、執務室へ真っ直ぐに向かった。

 本棚を押して、隠し本棚を露にする。


「……ええっと、【ギア】を発動して、肖像画の後ろに手を当てる……だっけ?」


 ワンナの肖像画をずらして、以前触っても何もなかった壁を見つめた。


「…………【ギア】……発動……」


 ……どうやるんだ。

 帰宅してから、入浴ですら、一人にしてもらえなかった。練習する隙なんてなかった。

 【ギア】を使ったら、下手したら【ギアヴァンド】も出るものね……。迂闊には、練習が出来ない。

 お父さんもそろそろ帰ってきそうだし、今こそが【ギア】と【ギアヴァンド】の練習チャンス。

 虹色の瞳に変える。

 あの時は、視覚的に変化はなかったはず。

 瞳の色が変わるだけで、視界は変わらない。

 とりあえず、鏡を見て、確認しよう。【ギア】を発動できなければ、隠し部屋を開けられない。始まらないのだ。

 手鏡を持って来て、隠し本棚の前で、鏡と睨み合った。

 じとー。

 目を凝らす。……変わらない。


「んー。イメージって言ってたわよね……」


 魔法のように、イメージが肝心。

 【ギア】の源だって、血の中にある魔力とは別種の力。

 瞼を閉じて、虹色をイメージ。

 目を開くと、視界の端が、オーロラのような波打つ光りをまとった気がする。それは、刹那の間だけ。

 鏡に映る瞳は、オパールのように、キラキラと様々な色で煌めく。

 おお……【ギア】が発動した。

 しげしげ、と見つめてしまう。ワンナと同じ瞳だ。

 そうだった。【ギア】発動中に、壁に手を当てて、開けないと。

 またワンナの肖像画をずらして、ぺたりと手を当てた。

 すると、ガコンッと壁がへこんだ。

 ギギッと重たい音を立てて、隠し本棚が動く。押して開くタイプのドアになるらしい。押してみれば、中に部屋があった。

 こてん、と首を傾げる。

 流石に、暗いし、埃くさい。

 この仕掛けって、一体どうやって作ったのやら……。魔力とは別種の力に反応させて仕掛けを作ったのだろうけれど……誰なら作れたのか。ちょっと気になる。

 とてとて、と早足でランプを取りに行って、中を照らした。

 小部屋サイズの空間。

 奥の方に、箱がある。……モロ、宝箱って感じの木箱だ。

 ワンナ……あなたは、永久に童心を忘れなさそうね……。

 ランプを持ったまま、鍵のない宝箱を開いた。

 その拍子に、一枚の金貨が、カランッと床に落ちたので、そっと閉じた。

 ……想像以上に、遺産があったわ。

 中身は、金貨が山積み。絶対に、一生遊んで暮らせる金額に違いない。

 ランプの光りを反射した金色で、目が潰れるかと思った……。

 次、アルトが来たら、連絡の魔導道具代を渡しておこう。


「遺産は置いといて、【ギアヴァンド】の練習ー!」


 宝箱の上にランプを置いて、部屋の中心に立つ。

 手鏡を確認すれば、まだ【ギア】状態。維持する意識は、なくていいようだ。


「ちゃんと【ギア】の指南書とか遺してくれれば…………そんなタイプじゃないか」


 ワンナは、日記すら一日で断念するタイプに違いない。

 隠し本棚だって、ワンナ以外の人が書き遺したであろう本が並べてあっただけ。


「……キャットリーナは……遺さなかったのかしら」


 ワンナはともかく、キャットリーナは日記や日誌を書き続けていそうだ。

 なのに、どうしてだろうか。

 何も遺っているはずがない――――だなんて、強く思ってしまった。

 小首を傾げたけれど、練習を始める。

 先ずは、【ギア】での魔法のアップの確認。

 水を出してみれば、その場で一回転してみれば、周囲を覆えるほどの水量となる。

 二倍、いや三倍にはなっている、かな。

 身体能力の方はあとで調べることにして、色んな属性の魔法で、通常との違いを比べる。

 火、風、雷、土、木。

 んー……あまり練習してこなかった属性の魔法だから、ちょっと違いがイマイチわからない。

 わかるのは、まぁまぁ強力だってことぐらいだ。

 攻撃に使えば、威力は十分って感じだろう。

 先ずは、防御として使う方法を学ばないと。防御優先。

 お兄ちゃんだと、適性属性は土だから、盾にするコツを教えてもらおう。土が一番、防御に適しているしね。

 お兄ちゃんは学校でも、土の魔法では右に出る者がいないほどの実力だって、胸を張っていたほどだ。誇張ではなく、事実らしい。

 一回、お兄ちゃんの土の魔法の腕前が見てみたいとポロっと言ったら、見せてくれた。

 お父さんも居合わせていたので、お兄ちゃんの素晴らしい土の魔法の扱いとともに、お父さんの剣さばきを見せてやると二人して張り合ったのだ。

 お兄ちゃんが投げつける土の塊を、剣で切るのではなく叩き潰していた。……今思えば、絶対にお父さんって剣士じゃないな。

 使いこなすお兄ちゃんの教えなら、堂々と練習も許してもらえそうだから、頼んでみよう。


「……………出ないなぁ……」


 本命の【ギアヴァンド】の練習に移ってみたけれど、かれこれ30分経っているが、わからない。

 手鏡で【ギア】中だと確認しているけれど、虹色の光りは出てこなかった。

 あの時の光景を頭に浮かべていても、それが実現しない。

 ワンナとキャットリーナの場合は、【ギア】発動中のワンナとキャットリーナが接触をするだけで発動した完全無欠モード。

 一人の場合は、何が発動のスイッチになるのやら。

 ワンナの話によれば、魂に【ギアヴァンド】の力の源が宿っている。

 魂に意識を向ければいい?

 魂といえば、胸の中にあるといわれているものだ。

 ……胸に手を当てて、集中。

 なにも、おこらない……。

 そういえば、と思い出す。

 あの時は、死ぬという恐怖に襲われた。それで、心音は激しく高鳴っていたけれど、銃声とともに掻き消すような鐘の音が響いたのだ。


   ゴーンッ。


 耳に残っている鐘の音を思い出すと、それが響いた。

 虹色の光りが、放たれる。

 ステンドグラスが砕け散るように、周囲に飛んで、宙に漂う。

 キラリと虹色に艶めくガラスが、様々な大きさと形で、浮遊。


「わあ……」


 手を伸ばして、顔ほど大きなガラスのような形の虹色の光りをつつく。

 本当に、美しい光景だと、いつまでも眺めたくなる。


「えっと……魔法強化もあるけれど……そのままでも、武器になったわよね」


 【ギアヴァンド】モードでの魔法威力は、あの爆破の際の火の魔法を思えば、強すぎるので、ここで試さない方がいい。

 この浮遊する虹色の光りを、操れるはず。

 ガラスの破片を飛ばすみたいに、放ったもの。

 手を突き出して、壁に放つイメージをして、力を込めた。

 ヒュッと飛んだ虹色の光りのガラスが、グサグサッと壁に突き刺さる。

 お、おお……出来た。

 力を抜けば、すぐに壁の虹色の光りは、私の前に戻る。


「んー……力を込めれば……?」


 放つイメージで力を込めて操れたのなら、同じ要領でいけるはず。

 そう思って、また試してみた。

 翳した手に沿って、虹色の光りが揺れる。右へ、左へ。キラキラと輝く。

 カラン。

 キリン。キン。

 ピキン。

 リリン。

 鈴の音のように、軽やかな音を響かせて、くっついては、弾き合って、割れていく虹色の光り。

 不思議な光りだ。

 なるほど……。こうして、動かすのも可能か。

 魔法を使う時とそう変わらないから、この虹色の光りは放つ魔法に混ざっていき、威力を上げるのだろう。

 よし。理解した!


「…………どうやって解くんだろうか?」


 次の問題は、オフにすることだ。

 前は、気を失ったから、多分その瞬間で消えただろう。

 気力を消費するものらしいから、気を失えば当然か。

 問題は、今だ。どうやって解除すればいいのやら。

 もちろん、オンオフを覚えないといけない。

 力を抜いても、変化はなし。

 意識することなく、完全防御をしてくれるものだ。

 どうしたら、解除が出来るのか。

 意識的に消す……?

 模索したけれど、これまた苦戦。

 気力。それはつまり、精神力。

 精神統一?

 全力で【ギアヴァンド】の解除を念じてみた。

 ……だめだ。変化なし。


「……発動の逆……と言っても、どう発動したのやら……」


 逆を試そうにも、発動方法がわかっていない。

 ど、どうしよう……。気力が尽きるまで?

 お母さんが、帰ってきたらどうしたらいいのか。

 ……まずいなぁ。

 【ギア】は虹色のイメージで、発動した。

 目を一度閉じてみても、変わりなし。

 ……。

 …………よし。仮眠をとろう。

 都合よく気絶は出来ないので、眠ることにした。

 隠し部屋では、不衛生なので、執務室の机の椅子に座って目を閉じる。

 無害なものは、自動で避けるらしく、机も椅子も傷付けることなく、ただ浮遊していた。

 ちょっと、うとっとしたら、フッと虹色の光りが消える。

 やっとか。

 時計を確認して、悩む。

 【ギアヴァンド】の解除は、難しすぎる。

 次は、お母さんが帰ってきてしまうかもしれない。

 瞳も、元の青色に戻っている。【ギア】も解除された。

 とりあえず、【ギア】のオンオフの練習をする。

 やっぱり、虹色のイメージが、発動のコツだ。

 【ギア】の制御が出来るなら、【ギアヴァンド】は勝手に発動しない。

 今日は、これくらいにしておこう。

 明日は【ギアヴァンド】のオンオフを身につける。


「たっだいまー! エコーちゃん! お父さんが帰ってくるんですって!」


 帰ってきたお母さんの報告を聞いて、予定を変更することになった。

 当分、【ギアヴァンド】の練習はお預けだ。



 

2024/07/23

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