土地を受け取りませんか
モングレルは とちのけんりしょ を てにいれた!
こうしてモングレルはレゴールで幸せに暮らしましたとさ……。
俺達のバスタードソードはこれからだ!
おわり。
……まあ当然終わるわけもなく。
いや、俺だって土地は欲しいし家も欲しいけどさ。その中でも特に土地なんてのは……とりわけ今を煌めく発展中のレゴールで土地をもらえるってのは、俺みたいな根無し草以外の人だって喉から手が出るほど欲しいもんだけどさ。
そもそもこれ効力あんの? って思いがまず出てくるじゃん、普通の人なら。
考えてもみてくれよ。借金のカタに“金で返済するのが難しいからコレで頼むわ!”って言われてデカい壺を貰ったようなもんだよ? 今の俺。
だってブレーク爺さんだぜ……?
前世で持ってた月の土地の権利書の方がまだ効力がありそうな気がするよ俺は。
……けどまあいきなり破り捨てるわけにもいかないもんなので、権利書については詳しく調べてみることにした。
調べてみて、こいつがただの紙切れってことになったら爺さんに突き返すことにするが……。
「レゴールにお家なんてすごいっスよ先輩」
「あのなぁライナ……こういう話を聞いてもあんまり夢見て飛びついちゃ駄目なんだぜ?」
「なんでっスか。最高じゃないスか。家っスよ家」
「詐欺に気をつけろよライナ……」
そんなわけで、俺とライナは権利書に書いてあった土地を下見することにした。
まだ外も明るい時間帯なので、とりあえずチラッと見てから判断しようというやつだ。
権利書に書いてあった住所はレゴールの北西部。通りの番地、簡単な地図からして……と考えた辺りで、俺の中では既に思い当たる物件があったのだが。それでもまあ、一応見に行くことにはした。……ライナも見たがってたしな。
「ここだな」
「はぇー……すっごい大きい……え、普通に綺麗で立派なお家じゃないスかこれ」
俺達がやってきたのは、レゴール内でもそれなりにお行儀の良いというか、東門付近と比べれば相当に立地条件の良いエリアだ。
そんな住宅街の一角に、ブレーク爺さんの権利書に記されていた物件はあった。
というかここアレですわ。以前俺がブレーク爺さんの手伝いで家具の運び出しを手伝った家ですわ。
……なので、ここがブレーク爺さんの持ち物であったことは間違いない。
「でもブレーク先輩がこんな綺麗な家を持ってるなんて想像できないっス」
「あー、爺さんはここに住んでたわけじゃないからな。爺さんの弟さんの家だったそうで、その人が亡くなってからは空だったらしい。……中も綺麗なもんだったよ。こざっぱりしてるって言い方のほうが正しいけどな」
「……さすがの私でも、ポーション一つとこの家が釣り合わないことはわかるっス」
「なんか怖いだろ」
「なんか怖いっス」
今の俺達は、餌入れにドザーッと溢れんばかりのペットフードを与えられた猫の気分に近い。
何考えてやがる……そういう警戒心がヒリついてるのよ。
「え……じゃあモングレル先輩。この家、どうするんスか?」
「いやどうするって言われても……まず地下を切削してデカい氷室作るじゃん」
「……ん?」
「そんでもって一階を大幅に改築して風呂作るじゃん。あとは喫茶店やるためのカウンター席とテーブル席を用意して、俺の武器コレクションを壁に飾るじゃん」
「ちょ、ちょちょちょ、先輩ストップ。ストップっス。欲望が先走り過ぎてるっス」
「うおっ危ねえ……駄目だ。夢のマイホームに正気を失いかけてたわ」
「夢見て飛びついてる人そのものだったっスよ……」
マイホーム……甘美すぎる響きだ。宿屋生活で収まりきらなかった俺の欲望が爆発しかけたぜ。
夢が広がり過ぎて両腕を広げて空に飛び立つところだった。
「やっぱりこういうのって役所とかに行って確かめてもらったほうが良いんじゃないスかねぇ? 私も全然詳しくないっスけど」
「だよなぁ……まあ役所に行ってみるか……そこで相手にされなかったら、仕方ない。詳しそうな人に聞いてみるしかねえか。ジェルトナさんなら何かしら知ってるだろ、多分」
「……あなたたち、この家になにか?」
往来でそんなことを話していると、隣の家で鉢植えの手入れをしていた女の人が怪訝そうに声をかけてきた。
まあ怪しい二人組だよな。ギルドマンが閑静な住宅街で何してるんだって思うのはよくわかるぜ。
「あー、実はここの家に引っ越し……するかもしれなくて。それでちょっと家の下見をしてたんすよ」
「下見って……あなたたち、この家の持ち主が誰かわかってるの?」
「ブレーク爺さんでしょう。いやね、どうもそのブレーク爺さんが借金のカタとして、この物件を譲ってくれるかもしれないって話になってまして」
「あらまあ……ええ、本当に?」
黒髪ロングの品の良い女性は、驚きというよりは喜びの割合が大きそうな表情をしていた。
「ブレークさんってあれでしょう? あの酷く乱暴なお爺さんでしょう。前の家の持ち主は静かで穏やかな人だったのに、亡くなってから継いだブレークさんが持ち主になって……この辺りの人たち、みんなハラハラしてたのよ。あなたたち……はギルドマンだけど……いえ、でもいいわ。ブレークさんの家じゃなくなってくれるなら、誰でも歓迎よ。もし引っ越してくるようだったら、よろしくね」
「は、はあ……ははは、なんか、歓迎されてるんだかされてないんだか……まあその時になったら、お隣さんとしてどうぞよろしくお願いします」
ハーフのギルドマンが突如隣に引っ越してくる……。これは正直、この国の一般的な感覚で言えば“嫌だなぁ”となるイベントだと思う。
けどそれを上回るレベルでブレーク爺さんの家であることが嫌っていうのが、近隣住民の本音であるらしい。そこまでか……いや、気持ちはすげぇわかるけどね。嫌だよな、お隣が反社ってのは……。
「……とりあえず、役所だな」
「っス。権利書が本物かどうかが大事っスよね」
というわけで、今度は役所に行くことにした。
役所は、俺がレゴールに来てからあまり足を運んでいない施設である。
というのも、ギルドマンに関してはほぼギルド単体で解決してしまうせいだ。ギルドマンは税金に関してはほとんどがギルドを通して払っているんでね……レゴールの住民でもなければ、ほとんど利用する機会がないのである。
そんな役所はレゴールの中心、やや北寄りに存在する。都合の良いことに、爺さんの持ち家からは歩いてすぐであった。
石造りのしっかりした建物に入り、誰も並んでいないカウンターにススっと入って用件を告げた、のだが……。
「土地の権利書? あなたがこれを?」
「ええ。ポーション代として貰ったはいいものの、こういうのって契約とか必要だったりすんじゃないかと思いまして。詳しくないんすけどね」
「もちろんその通りです。土地や家屋の所有権の譲渡など、そんな軽々と行って良いわけがありません」
「ですよねー」
さらば夢のマイホーム……! いや、ブレーク爺さんがそういう細々としたやり取りを面倒くさがってるだけで、ちゃんと爺さんを連れてきたりすりゃなんとかなるのかもしれないけどさ。
「……ん? しかしこの権利書、こっちの書面は譲渡契約書だ……既に支払済み? ってこれ、ブレーク……ブレーク!? あのブレークの持ち家か、これは!」
「なにっ、今ブレークって言ったか!? 見せろ、ブレーク案件は一人でやるもんじゃない!」
と思いきや、何やら受付の向こう側で役人さんたちが慌ただしくなっている。
どうやらブレークという名前に反応しているようだ。
「ブレーク先輩、なんかどこ行っても腫れ物扱いされてるっスね……」
「いやまあ、されるだろうぜ……あの爺さんだからな……」
「よくお酒奢ってくれる気の良いお爺さんなんスけどねぇ」
「……俺自身も爺さんとの関わりは結構深いけど、ライナも相当だな……」
けど一般人目線で見たらあの人は間違いなく関わり合いになりたくないタイプの模範的ギルドマンで間違いねえよ。あの人の悪い噂だけで打線組んでワ・リーグ作れるレベルだからな。
「色々と足りてないものはあるが……この書類、さっさと通してしまった方が良い」
「……良いので? さすがにそれは不味いのでは……」
「あの爺さんの気まぐれでまた何か起こされてみろ。その方が不味いだろう。ここはレゴールの治安のために清濁併せ呑む時だろ。この地域まで悲惨なことにされたらたまったもんじゃないぞ」
「……確かに。ここは……慣例を覆してでも、やるべき時か……」
なんか役所であんま聞かないタイプの話し合いがなされている気がする……。
「……あー、そちらのギルドマンの方」
「あ、はい。モングレルです」
「モングレル……ん? ああ、聞いたことがあるな。都市清掃とかやってる人?」
「あれ、ご存知ですか。いやまあ都市清掃よくやってるけど、普通に討伐もやってますよ俺。レゴールでギルドマン登録してもう十年近いんすよ。はいこれ認識票」
「ふむ……顔の広い真面目なギルドマンという話は聞いたことがありますね。ブロンズ3ならまあ……」
マジかよ、役所の人にまで名前覚えられてるのか俺。
そうなんすよ、ちょくちょく市内で仕事やってるんでね。顔は広いんすよ俺。
「……ブレーク爺さんと比べれば、天と地の差だ。押し通して良いんじゃないか。爺さんも既に金を払って、この譲渡契約書にサインしているしな。その気ではあるんだろう。相手方の名前がないから、普通だったら完全に無効にすべき書類だが……」
「そこは我々が頷けばいいだけの話だ。……ゴホン。あー、モングレルさん。こちらにサインを。……それで、契約は成立。ということになります」
えっ、いいの?
「……あの、それでいいんです? 本当に?」
「良い。……ということにします。問題ないので、サインしてください。そうすればこちらの土地と物件は貴方のものです」
いや本当に良いの!? やっぱ色々と怖いって!
絶対に普段はやらない感じの手続きしてるだろ!
……サインはするけど!
2026/2/28に小説版「バスタード・ソードマン」7巻が発売されています。神秘的で強そうなダークエルフの表紙が目印です。
店舗特典および電子特典がありますので、気になる方はチェックしてみてください。
特典付きはメロンブックス様、ゲーマーズ様、BOOK☆WALKER様の電子版となっております。
特典内容は以下の通りです。
メロブ短編:海蝕の輪
メロブ長編:先輩バルガーとレゴールの夜明け
ゲーマーズ短編:サリーさんの評判
ゲーマーズ長編:ハープと角笛
BOOK☆WALKER電子版:鹿肉で作る簡単おつまみ




