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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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親善試合


 サルバドールの数十歩後ろを歩きながら、森の中で魔物の気配を探る。

 バロアの森の奥地には浅層では出てこないような魔物が結構な種類おり、その中でもルナパンサーなんかは初見殺しに近い俊敏性を持っているので、サルバドールにけしかけることができれば最高だ。


 が、サルバドールが放つオーラのせいなのか、あるいはしっかりと魔物除け対策を整えているせいなのか、歩いていても一向に魔物は寄ってくる気配がない。

 楽に奇襲できると思ったんだがな。


「過去のサングレール人にとって、山を越えた先は全てが未知の土地であったことだろう。果てしなく続く森に、沼、氾濫する川……豊かではあったが、広大な手つかずの自然全てが牙を剥いていた」


 サルバドールの歩みに翳りは見えない。

 少しでも情報を得るために装備に注目するが、聞いていたものと大差はなかった。


「不幸だったのは、開拓間もない頃にサンライズキマイラの塒にかち合ってしまったことだろうね。派遣された軍は幾度も幾度も魔物によって全滅させられ、サングレールは西部の大半を魔境であると誤認した。開拓に及び腰になったのだ」

「開拓にビビったって言うだけでその文字数かい?」

「これは手厳しい。だが、森が恐ろしいというのはサングレール人にとって深くから根付く共通認識だったのさ。森には恐ろしい虫が、蛇が、獣が潜んでいる。森を畏れるのは、正常な人の認識なのだよ」


 開けた場所までやってきたサルバドールが立ち止まった。

 辺りには古代のサングレール人の遺跡だったり、朽ちることなく蔦に呑まれた黄金色のモーニングスターであったりだとか、ハンマーだとかが散乱している。


 サルバドールは背中の大きな円盾に触れ、柄の一本を掴んで回した。

 ガラガラとゆっくり回る盾が、ある時点でピタリと停止する。


「故にこそ、恐ろしいものに立ち向かうのは力ある者の責務だ。騎士であれ、戦士であれ、兵士であれ、あるいは君たちのようなギルドマンであれ……私のような、憲兵じみた者であってもね」

「随分と目立つ憲兵さんだ」

「象徴なのさ。人は綺羅びやかで美しいものに憧憬や神聖を見出す。これもまた、責務のひとつだよ」


 こちらに向き直り、ニワトリの面を向けてくる。

 ……正直俺の感覚からすると美しいというよりはちとズレてるのだが、わからないでもない。


 ……ここまで色々と雑談を交わしてきたが、そうか。もう話は終わりか。

 トイレ休憩やメシ休憩って雰囲気ではなさそうだな。


 まあ、ここまで魔物が乱入してくる素振りもないし、相手が疲れた様子もない。

 これ以上進めばサンライズキマイラが出てきてもおかしくないだろうし、ここでやるっていうのなら構わないぜ。俺にとっても好都合だ。


「話はおしまいか?」

「ふーーーむ、そうだな……まだ何か……ああ、そうだ。私のギフト“光輝粛清(トショカール)”について聞きたいかね?」

「お、それは面白そうだ。聞かせてくれよ」

「素直でよろしいことだ」


 ギフトの情報を喋ってくれるのならありがてえ。どんどん教えてくれよ。


「“光輝粛清(トショカール)”は剣に用いるギフトでね。私の持つ“親”の剣で“子”となる者の剣に力を注ぐことで発動するものだ」

「親と子ね……」

「子は親に似るものだ。親の剣に込められた“標的”を、子の剣も記憶する。“標的”相手に剣は硬さと鋭さを増し……標的を仕留めるごとに、親は喜ぶ」


 サルバドールは背中の盾から一本の剣を抜き取った。

 ……長く幅広いが、随分と薄い刀身だ。抜き取る際に完全に刃全体が曲がっていたぞ。


 サルバドールは剣を眼の前の地面に、無造作に突き立てた。


「たとえばこれは“スピキュール教区を陥れようとする敵を粛清する”ための“親”の剣だ。これは憲兵たちの持つ剣の多くの親となっている。これまで随分と不穏分子を始末したのか、なかなか切れ味も育ったものさ」

「ほー……」


 真偽はともかく、面白い話だ。事前に聞いていた話とも矛盾はしていない。


「そしてこっちの剣は、“この森に存在する敵を粛清する”剣。私が最も最近“光輝粛清(トショカール)”で親とした波刃剣(フランベルジュ)さ」


 次に抜いた剣は……剣としては同じだが、刀身が放つ輝きが違っていた。

 白く光っている。……魔力がそのまま輝きを放つというのは、純粋に強いエネルギーを持っているか、光の魔力を持っているかだが……あの光り方は多分、光属性だろう。強い破壊の力を持つ魔力だ。


「“光輝粛清(トショカール)”によって育まれた“子”の剣の鋭さは、剣の持ち主の死によって、“親”へと還元される。子が死んだ時、親は悲しみ……そして、怒る」

「……その輝きが、あんたがこのバロアの森で捨て駒にした連中の価値ってことかい」

「必要な贄さ。元はといえば、魔物や君たちギルドマンの命によって贖われたものだろうがね」


 輝くフランベルジュを片手で構え、サルバドールが身に纏う魔力が刺々しさを増す。


「モングレル、君を敵として認めよう。君が何者であれ……君からは、私に対する強い殺意を感じる。私は君のその想いに応えなければなるまい。君との因縁を帯びたこの剣でね」

「……それが責務ってやつかい」

「いかにも」

「けど――!?」


 話す途中で剣が振られた。距離はある。だが“何か”が飛来した。


 地面に突き立てていた方の剣だ! 剣で剣を弾き飛ばしやがった!


「あっぶねぇなオイ!?」


 寸前で弾く。が、飛ばした剣を追うようにしてサルバドールがすぐ目の前にまで飛び込んできていた。


「防がれるとはね」

「騎士道精神ねえのかよ」

「ははは、無いよ。そのようなもの」


 輝く剣が撓り、縦横無尽に振るわれる。が、鞭ほど無軌道ではない。

 俺はバスタードソードで何度か弾き、前蹴りをサルバドールの腹へと放った。


「ほう? その力は凄まじい」


 綺麗に入った。が、鎧が硬いし重い。今の俺の全力で蹴っ飛ばしてやったつもりだったがさほど飛ばなかったし、サルバドールは堪えた様子もなかった。

 その代わり、俺の力と反応速度に対して警戒するように、何歩か距離を取っていた。


「ふーーむ、そしてこの剣と打ち合っていて尚刃毀れしていない。わかってはいたが只者ではないね」

「おいおい、あのふっ飛ばした剣どうするんだよ。お前のホームで使ってる大事なもんだろ、拾ったらどうなんだ?」

「今や無価値なものさ」


 ……“光輝粛清(トショカール)”は対応する相手にしかその効果を発揮しないってことか。思い切りが良いな。

 ってことは、背中の剣の……下手すると過半数は鈍らだと考えて良さそうだ。危険度は輝きを見ればわかるだろう。良いことを知った。


「色々教えてくれてありがとうな。お礼と言っちゃアレだが、こっちの手の内も教えてやるよ」

「ほう?」

「と言っても、俺の手の内なんてそっちも多少わかってるだろうからお礼にはなんねえかもな」

「……?」

「いや、知ってるだろ? 知らないわけねえさ。ああいや、見れば思い出してくれるかもな、あいつみたいに」


 武器を身につけている時だけ発動できるギフト。

 発動条件は……それだけ。他には一切何もない。

 “身につける”には“装備を荷物として背負っている”ことすら含むという緩すぎるおまけつき。


「四本の剣を持ってたボルツマンも、見てから思い出してたもんな」

「ッ!」


 俺の魂から溢れ出る光と闇の魔力が全身を、剣を、装備を包み込む。



「“(イクリプス)”」



 光の魔力が輝く白い骨となり、闇の魔力は黒い炎となって揺らめいた。


 右手のバスタードソードは黒く染まり、左腕にランタンシールドが被さり、斧付きのヘルムが頭部を覆い、拍車付きのグリーブは脚に絡みついた。

 黒い炎と一体化した装備は瞬時に身体に適合し、最適化される。



 全てはサングレールを討つために。


 あの世にいるシュトルーベの皆を慰めるために。


 お前が急拵えした贄とやらで、この剣が防げるかどうか。


『祈れ』

「――」


 俺が無造作に振り下ろした剣が届く寸前、サルバドールは何かを呟いた。

 スキル名だった。防御系だったのだろう。手応えは思っていた以上に硬く、何かを断った感触というものがなかった。


「……!」


 一撃を上手く受け流し、サルバドールが大きく土煙を上げながら退がっている。

 ニワトリ型のヘルムの中の眼は、やはり防御スキルの影響か青く光り、震えていた。


「“シュトルーベの亡霊”、だと……」

『ひでえ呼び名だよな』

「人間が……亡霊の、正体」

『まだ死んでないんだぜ』


 俺が笑うと、声はヘルムの中で低く、禍々しく響いた。


『いつになったら終わるんだろうな』

「……ハ、ハハ、ハハハハハッ! シュトルーベの亡霊! 君が亡霊の正体か! モングレル! 君がたった一人で我らの侵攻を何十年にも渡り防いでいたと! そういうことなのかね!?」

『お前を刈り取れば終わるのか?』

「ぐッ――」


 ただただ力任せに踏み込んで、剣を振るう。それだけ。

 ただのそれだけが、ギフトを使わなかった時の全力よりも圧倒的に疾く、強い。


 剣と剣の衝突とは思えない破裂のような音が何度も響き、その度に白い火花が大きく吹き上がる。


 サルバドールが構える剣は上手く俺の剣戟を防いでいるが、その度に明らかに魔力が剥落していた。


「魔力が私の武器を浸蝕しているのか」


 一気に地を蹴り、サルバドールが距離を取った。たった数回の剣戟から、俺の魔力の性質に危機感を覚えたらしい。勘の良いやつだ。俺の魔力がジワジワと相手の武器の力を削り取ることに気付いたか。

 だが距離を取って良いのか。そこにいたからって安全ではないんだぞ。


 俺は左腕の盾をサルバドールに向けた。

 盾を前に出し、あたかも防御を固めるかのような姿勢だ。


「防御? いや――」


 だが黒く染まったランタンシールドの中では、白く輝く高圧の魔力が今にも溢れ出しそうに暴れている。

 照明用の穴から漏れ出る輝きは、盾を皆既日食のように不吉に染めていた。


『“金屎吐(コンフリクト)”』


 盾の内部が炸裂し、爆音とともに火炎が噴き出した。

 黒い炎はそのまま大砲のように宙を駆け、サルバドールを襲う。


「! “死掠閃(ソウルリーパー)”ッ!」


 こいつはお気に入りの初見殺しの技だったが、サルバドールは対応した。残念だ。楽できると思ったんだが。

 奴は退がりながら二度剣を振るい、迫りくる黒い爆炎を切り裂き、霧散させてみせたのである。


 良い腕だ。仮に俺がやれって言われてもできないだろうな。

 雰囲気だけの奴じゃねえってことか。


「……フ、フフフ……ハハハ。もはや、サンライズキマイラどころではなくなったな」


 だが無傷とはいかない。今の一連の攻防で、既にサルバドールの持つ“この森に存在する敵を粛清する”剣はボロボロだった。宿っていた光の魔力も大半が剥がれ落ち、今にも輝きは消えようとしている。


「まさか、このような土地で君と出会えるとは思わなかったよ……シュトルーベの亡霊。いいや、モングレル。いや、思えばこの盾の回りが歪んでいたのも、君が近くにいたからなのだろうね」


 手にしていた“この森に存在する敵を粛清する”剣をぞんざいに放り捨て、サルバドールは盾の真上に伸びる柄を手に取って、抜刀した。


「“シュトルーベの亡霊を粛清する”ための剣……まさか、この剣を抜く時がやって来るとは思っていなかったよ」


 その剣は抜き放った瞬間から、先程までの剣とは比較にならないほどの圧を放っていた。

 暴力的な輝きは剣の形に収束し、まるで純白の剣のようにすら見える。


 なるほど、それは俺のための剣ってことか。

 名指しで用意した俺専用の剣……嬉しいね。父さんから貰ったこのプレゼント以来だぜ。


「不思議だ。私をして初めて見る輝きだというのに、まるで生きて帰れる気がしない」

『臆病風にでも吹かれたか』

「その通りだ。それでも私は、君に挑まなければならない」

『また責務かよ』

「けじめさ」


 地面には壊れたフランベルジュが無造作に捨てられている。

 サンライズキマイラを討つために用意したその剣が使用不能になった以上、サルバドールにはもう後がないのだろう。


 奴は俺との戦力差を良く理解しているらしい。

 それでも、俺と戦う道しか遺されていなかった。


「象徴として挑むことを許されなかった私が……これも神の思し召しということか」

『お前の祈りは通じたのかい』

「フフ……そうかもしれないね」


 サルバドールは右手に白い剣を、左手には背中から外した分厚い円盾を構え、ヘルムの中の目を金色に輝かせた。


「さあ、フィナーレといこう。……後光のサルバドール、いざ参る」


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― 新着の感想 ―
>武器を身につけている時だけ発動できるギフト。  発動条件は……それだけ。他には一切何もない。 306話で先端を少し尖らせただけの枝を「自衛武器」と言っていたのが違和感バリバリだったけど、”蝕”発動条…
魔力バチバチ使ってるからサンライズキマイラさんが乱入してきそうでドキドキやわ
盛り上がりまくってきました!
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