全快
「あぅっ!? ごめんね、痛かった?」
突然体をびくつかせた直後、急に力が抜けてへたり込んだ俺を見てミーティアが驚いた後心配そうな声音でこちらの具合を確かめてくる。
「いや、驚かせてごめん。とりあえず大丈夫になったから今のうちに診てもらっていいか?」
俺はひとまず俯せの状態から体勢を片膝立ての状態にし、ミーティアに驚かせてしまったことへの謝罪をする。そして痛みを感じなくなった足からブーツを抜き取ると、怪我の具合を診てもらうために少し足を前に伸ばす。
足先を見てみると全体的に腫れぼったくなっていて、所々に内出血のようなものが見られる。…これ大丈夫なのかな?
「え、え? 大丈夫に、なったの? 何で? 治ったの?」
「少し前に話したスキルのおかげだよ。その効果で今俺は痛みを感じなくなってるだけだよ」
大量の疑問符を頭の上に浮かべたような不思議な表情でこちら見てくるミーティアの疑問に答えてあげると、彼女は胸の前で手を合わせ、目をぱっちりと大きく開き、瞳をキラキラと輝かせこちらを見てくる。
「へぇー! すごい! そんなことまでできるんだねスキルって!」
そう言って、興味津々な様子でこちらを観察してくるミーティア。
だが、胸当てをしていて尚分かるほどに発達した胸部と凄まじいまでの美貌を兼ね備えたミーティアが、両膝立ちで手を地面につきながらこちらに躙り寄ってくる様は、正直に言ってエロい。思わず反応してしまいそうになるほどに。
そんな気恥ずかしさを何とかしようとして、俺は、すぐ目の前に居るミーティアの頭に手を乗せると、髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜた。
あ、サラサラして気持ちいい。
「ふぁ? え、何? どうしたの、アスマ?」
「あー、いや、その。あれだ、あんまりのんびりしてる暇もないし、怪我の具合診てもらってもいいか?」
「あ!ごめん、そうだったね。うん、すぐ診るよ」
何とか無事に状況を修正することには成功したが、少しもったいなかったと思う気持ちがないでもない。
でも、実際レイエルの現状が不明な今、ゆっくり休んでいる暇はないから怪我の具合を確認したら早く移動しなければならない。
軽傷ならいいけど重傷の場合、痛みを感じない今無理に動かし続ければ後々にその後遺症が残ることも考えられるため、処置ができるのであれば今のうちにやっておきたい。
ミーティアのほっそりとした指が俺の足に触れ、様々な角度から眺める。少しして一通り診察し終えたのか、俺の足から手を放したミーティアは少々考える仕草をした後、一度頷くとこちらと視線を合わせてきた。
「うーんとね。私もお医者さんじゃないから確実なことは言えないけど、たぶん、筋肉が千切れちゃってるのかもしれない」
「…おぉぅ。それはまた難儀な」
筋肉の断裂というのがどの程度の怪我なのかは知らないけど、あれほどの痛みだ。限界突破が発動していなければ足を動かすことすらできなかったのだから、間違いなく軽傷ではないだろう。
この状態のまま下手に歩き回るのは止めておいた方が賢明だろう。というか、筋肉が断裂しているのなら歩くことができないかもしれない。症状が悪化したら嫌だから試しはしないけど。
とはいえ、どうしたもんか。移動ができないんじゃ本当に俺はただのお荷物だ。レイエルのもとへ行くどころの話じゃない。
それでもこの状況をどうにかするために思考を巡らせていると、ミーティアが腰に下げているポーチの中から、何かの液体が入った小瓶を手渡してきた。
何かとてつもないデジャブを感じるんだが、パターン的にこれってもしかして…。
「はい、これ使って」
「…えっと、それは?」
「回復薬だよ」
…うん、そうだと思ってたけどさ。
「いや、さっきも強壮薬もらったばっかりなのに、回復薬までもらうのはさすがに悪いよ。これってすごく高価なんだろ?」
「そうだねー。でもその怪我をそのままにはしておけないし、それに元はと言えば、その怪我を負ったのだって私たちのせいだし」
は? なんで?
「いやいや、違うよ。これは俺が使いこなせない力を無理に使ったから悪いんだ。自業自得だよ」
「ううん、違わないよ。だって、そもそもアスマは戦う必要なんてなかったんだもん。それなのに、私たちのために戻ってきてくれて、一緒に戦ってくれたんだもん。だからね、これぐらいは受け取ってほしいな。ね?」
そうは言っても、正直俺がやったことといえば、場を引っ掻き回したぐらいだし、俺が居なければそれはそれで三人で何とかしていたと思うんだけど。
その対価としてもらうには些か値が張りすぎているというか…。
どうしようかと思いミーティアの顔色を窺ってみると、絶対に退かないという意志がその瞳から窺えた。…これ以上相手の善意を拒み続けるのは却って失礼か。
「…分かった。じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ」
「うん!」
手渡された回復薬の蓋を開け、中の薬液を自分の右足に振り掛ける。
すると、腫れていた部分が瞬時に元通りになり、内出血の痕も完全に消え去った。
自分で使ってみたのは初めてだったけど、怖いぐらいに一瞬で回復したな。回復魔術とは大違いだ。
試しにその場で立ち上がり、足踏みをしてみたり、軽く跳び跳ねてみても何も問題はない。至って正常だ。
「うん、全快だな。やっぱりすごいなこれ」
改めてとんでもない薬効だ。
今回はミーティアの善意からこの回復薬を譲ってもらったけど、いずれこれも何かの形で返した方がいいだろうな。
本当にどんどん負債だけが増えていってる気がするけど、そろそろ本格的に返していきたいな。




