混沌の中で見たもの(11)
「これで分かっただろう? お前が現実から姿を消したら、どれほどの人が傷ついてしまうのかを。そしてどれほどの人がお前のことを想っていたのかを」
「……はい」
「さあ、では改めて聞こう。成松雄慈郎、汝は現実への帰還を望むか、それとも死を望むか、どちらだ」
「はい、俺は……」
先ほどとは違う、笑顔で俺は返した。
「俺は、現実へ帰ります」
そう言うと、使いの人はにっと笑った。
「俺、気付けませんでした。みんなが俺のことをそんな風に思ってくれていたなんて。だからってわけじゃないんですけど、俺はこれから精一杯、自分に自信を持って、楽しく過ごしていきたいです。俺は、生きたい、生きたいです」
「うん、そうか、お前の想い、しかと受け止めたぞ」
「はい」
「では……戻らせてやろう」
そう言うと同時に、俺の体はふわっと宙に浮き上がった。
「目が覚める頃には、お前は現実に戻っているはずだ。……しっかり頑張れよ、もうお前とは会うことはないだろう。今日が、最初で最後だ」
「そうですか……ありがとうございました。俺一生忘れないです、あなたのこと……」
「ふ、そうか。さあ、早く戻れ。みんなが待っている」
「あ、最後に一つ教えてください」
「何だ?」
「あなたの……名前を教えてくれませんか?」
「……ふ、いいだろう」
使いの人は、柔らかな声でこう言った。
「私の名は――“ベクター”だ」
その瞬間、俺の体は急下降を始めた。
「う、うわああああっ!」