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【第40話・ついていってみようか その3】

 【第40話】


  □■□


「レーベン!レーベンっ!」


 先生が見知らぬ男に連れられこの場を去った後、刺された傷のため、うまく動かない足を引きずり、レーベンの側に駆け寄った。

 名前を叫びながら肩を揺らし、顔を覗きこむも、目は開かなかった。しかも、何か吐いたのか口の周りが黒く汚れてる。


「レー・・・ベ・・・ン・・・?うわああぁぁぁぁっ!」


 膝の力が一気に抜け、その場に崩れるように彼にすがり泣いた。その時、頭を撫でられる感触がした。慌てて顔を上げると、いつの間にか目を覚ましたレーベンが私を見て笑っていた。


「おいおい、人が死んだみたいに泣くんじゃねぇって。」


「レーベン・・・生きてた。」


「勝手に殺すな。俺が簡単にくたばるわけねぇだろ?」


 嬉しかった、レーベンが生きていた。

 先生に一撃を受けた時の飛ばされ方といい、私の呼びかけに最初、答えなかったことといい、悪い予感が頭を過ったけど、取り越し苦労で良かった・・・。

 再び彼の胸に顔をうずめた。すると彼の心音が力強くトクントクンと脈打っている。

 すると、いつの間にか側に来ていたタケツルが言った。


「レーベン、さっきのあの一撃の事なんだけどニャー、あれ、わざと受けたんニャろ?何か狙いがあったようニャけど、ギャンブルするにも程があるニャ。」


「どういう事?」


「理由はわからんニャ、ちなみにボクもヤツに飛ばされたあの一撃はわざとなんだニャ。まぁ、ボクの場合は不死身っていうのもあってニャ、反撃のチャンスを伺うためだったニャけど、レーベンはそのまま気を失ってしまったニャ。当たり所が悪ければ死んでたかもニャ。だから聞いてるニャ。」


 タケツルの言葉を聞いて思った。確かにその通りだ。


「レーベン、どうして?」


 そう、彼に訊くと


「何だよ、うまくごまかせたと思ったのによ。タケツルにバレてんじゃあ、先生とやらにもバレてたりしてな。まぁアレだ、リステル、俺の能力、覚えてるか?」


「えぇ、『増幅』ってやつでしょ?でも、先生の力を増幅させたら意味無いんじゃないの?」


「まぁな、ただ・・・『増幅』が出来るってことは、反対の力もまたしかり・・・ってことさ。」


「『減退』・・・ってこと?」


「そうなるな。効果が出るまで、ちょっとした時間差は出来ちまうんだが、一時的に能力は封印出来たはずなンだ。そのためには、ありったけの力を体の一部に叩きこまなきゃならねぇ。向こうは()る気マンマンだったしな、チャンスはあそこしかねぇって思ったんだよ。タケツルが吹っ飛んだ時、すぐにわざとだって気付いたからな。能力さえ奪ってしまえば、後はタケツルが何とかしてくれんだろ、って思ったのさ。しかもコイツ、普段とぼけてっけど、相当強いぞ。」


 そんなレーベンの言葉に


「一言余計ニャ、褒めるなら素直に褒めて欲しいニャー」


 だからか、だからマリブの目の前で術の効果が切れたり、先生の呼びかけに草も土も反応しなかったんだ。そんなことを思っていると


「ふぇ・・・ふえぇぇぇぇ・・・。」


 力を使い果たし子供の姿に戻ったマリブが、先生が居なくなった後、呆けたように座りこんでいたはずなのに、動けるようになったのか、泣きながら走ってきた。

 そして、そのままの勢いで、私に飛びついてきた。


「みんな・・・みんな、無事でよかったよぉ。あたし、また一人ぼっちになっちゃうかと思ったんだもん!怖かったよぉ!うわーん!」


 私の胸の中で、マリブがぐじゅぐじゅ泣いている。そんな彼女の緑色の髪の毛を撫でた。

 それにしても良かった。誰も欠けることがなく、このピンチを乗り切ったんだ。でも・・・元はといえば、私が先生の誘いにホイホイついていったせいなんだよな。


「みんな・・・ごめんね。私のせいで痛い思いや、悲しい思い、させちゃったね。」

 

 そう言って、みんなに頭を下げた、するとレーベンが『やれやれ・・・』と、言いながらゆっくりと立ちあがり、私を抱え上げた。


「れっ・・・レーベンっ!あなたまだ無理していい体じゃないでしょ!」


 慌てて言うと、彼はそのまま私をギュっと抱きしめ言った。


「何言ってんだ。その言葉、そっくりそのまま返すぜ。それにさっきタケツルも言ったろ?あれはわざと喰らってんだ。急所くらいきっちり外してらぁ。リステル、お前は脚を刺されてンだぞ、黙って抱えられてろ。」


「あ・・・うん。でも・・・。レーベンとタケツルには、痛い思いさせちゃってるし・・・。」


「俺らが痛ぇだの痛くねぇだの。関係無ぇさ、それに、わかっていてやったことだ、でもな・・・」


 と、レーベンが先生の消えていった方を眺めた後、私を見て優しく言った。




「一番痛かったのは俺でもタケツルでもねぇ。リステル、お前の心だろ?」




  □■□


 宿に戻った頃には、遠くの空がうっすらと白んだ、明け方になっていた。

 刺された傷はまだ痛むものの、レーベンが応急処置をしてくれて、血はすでに止まっていた。

 とはいえ、動くことはままならないので、様子を見るために、もう一日この街に滞在することになった。

 本当なら、この日は、タケツルとマリブで、PTAの建物に潜入するはずだったけど、万が一のこともあるからと、マリブとレーベンが残って、私を看てくれることになったのだ。

 タケツルは・・・といえば、『魔王様からの仕事はきっちりとこなすニャ』とか言って、白昼堂々、潜入するために出かけて行ったんだよな。


「リステル、戻ったぞ。」


 部屋のドアを勢いよく開けて、レーベンが入ってきて、ベッド脇のソファにどっかりと腰を下ろすと、紙袋を私によこした。

 チラッと中を見ると、いろんな食べ物が入っている。中から果物を一つ取り出しながら、レーベンに言った。


「お帰り、それで?街の様子はどうだった?」


「それがな、不思議なことに何も変わっちゃいねぇ。先生とやらと、突然割って入ってきた男、動きから間違いなく幹部クラスだろ?間違い無く大騒ぎになってるとおもってたンだが、予想が外れたか・・・」


「情報が行き渡っていないか・・・ってことね。」


「そうなるな。まぁ、今の状況じゃ、ありがたいっちゃあ、ありがたいんだがな。それはそうとリステル、脚の具合はどうだ?」


「うん、大分痛みは引いたよ。走るのは無理だけど、歩くくらいならなんとかね。」


 そう言いつつ立ち上がる。やっぱり脚は痛むけど、このくらいなら何とかなりそうだ。そして、試しに二三歩踏み出したその時、脚に鋭い痛みが走ってよろけてしまった。

 そんな私をレーベンが咄嗟に受け止めつつ言った。

 

「無理すんな、しかしまぁ、ここにはあまり長居したくねぇな。早々に引き揚げるとしようかね。当分リステルは俺の背中だな。と、それで?これからどうすんだ?まさかとは思うが、先生とやらを追いかけるつもりじゃねぇだろうな?また襲われようものなら、今度はもっと苦戦するだろうな。やっこさんも対策を練ってっくるだろうし。さっさと日本ってとこに還る方法を見つけた方が、いいんじゃねぇか?」


「いや、先生を追いかけてみる。日本に還るのはそれから。あの時、感じたんだけど、あれは先生じゃないような気がする。いや、姿形は先生なんだけどね。うまくはいえないんだけど・・・。誰かに操られているみたいな感じがしたのよね・・・。」


 私はレーベンの手を離れ、ベッドに座り直した。すると、レーベンもソファーに腰を下ろしながら言った。


「確かにな、戦いながら俺も感じてたんだ。普通なら、相手の呼吸とか予備動作で、動きは大概、予想できるンだがよ、アイツにはそれが無ぇ。暗殺者として育てられたから、そういったクセは消してンだろうけどよ、それにしても無さ過ぎだ。そして、ところどころちぐはぐなんだよな、動きが。畳みかけるチャンスなんて何度もあったのに、あえてスルーしているというか、らしくねぇところがあったんだよな。」


「でしょ?後でタケツルにも訊いてみよっか。」


「だな。しかしアイツ、あんだけ戦い慣れしている動きをしていて、なぁにが『ボクは戦闘向きじゃないニャ』だ。アイツが戦闘向きじゃなきゃ、世界に大勢居る用心棒なんて、ただの一般人だぜ。」


「そんなに凄いの?」


「あぁ、気を失う直前に、うずくまったままのタケツルが俺だけに聞こえるように言ったんだ。『レーベンは動かない方がいいニャ。あのレベルなら、後の事はボクが何とかしてやるからニャー』ってよ。俺のことは完全に子供扱い、ちょっとマリブの気持ちがわかったぜ。とはいえ、そのまま気絶しちまったがよ。」


 そう言うと、悔しそうに天井を見上げた。 

 そうなんだ、レーベンが気絶する前・・・ってことは、タケツルは、マリブが来る事は計算に入ってないんだよな。それなのに、そんなことを言ってたんだ。

 そしてふと、窓の外を見た。昨日の事が無かったような青空が広がっている。そういえば昔、こうやって先生と二人で空を見てたっけ。



 先生・・・あの二人で過ごした日々は、嘘じゃないですよね・・・。



  □■□


 街を出て、再び魔王の城がある迷いの森の中、後で合流したタケツルと共に、私達は居る。

 あの後、タケツルにも宿であった話をしたところ『そういえばそんな感じもしたニャ。でもボクは戦闘向きじゃないニャから、よくわからんけどニャー。』なんて言っていた。

 その言葉に、一人苦い顔をしていたレーベンの表情がちょっと、おかしかった。

 それから魔王のお城へ行く分かれ道まで来たところ、タケツルが言った。


「ボクはここまでだニャ。お城に帰って、魔王様にあの街であったことを報告しないとニャ。また縁があったら会おうニャ。」


 そう言って手を振りながら去っていった。

 旅の仲間が減ったのは寂しかった。そして、一番ショックを受けているのは、彼のことをモフモフし倒していたマリブだった。


「えー・・・。一緒に行こうよぉ。タケツルが居ないと寂しいよ・・・。」


 なんて言ってたけど、私とレーベンが説得して、嫌々ながらも納得してくれたみたい。

 ややしばらく進むと、森の出口が見えた。その時レーベンが振り向き、背中の上私を見ると言った。


「リステル、これからどこに向かう?あてもなく歩いてもしょうがねぇぞ?」


「大丈夫、ちゃんと考えはあるから。それはね・・・。」


  □■□


 ~時を遡り、リステルが街を出て、数日経った頃~


「・・・ゼルバーンよ。・・・ゼルバーンよ。」


 自分以外、誰もいない真夜中の寝室、どこからか声が響いた。

 いきなり起こされ、ボーっとした頭で周りを見回したものの、誰かが居る気配は無かった。すると再び


「・・・ゼルバーンよ。・・・ゼルバーン・・・。」


 同じ声、だんだん頭がはっきりとしてくると、声の主がわかった。

 あれは・・・泉の精霊。珍しいな、あっちから俺を呼ぶなんて。それに何か悲しげな声を出している。

 その呼びかけに誘われるように、近くにかけてあった薄手のコートを身にまとうと、泉へと向かった。

 屋敷の裏の細い道を泉に向かって進む、幸いランプが無くても月明かりを頼りに歩くことが出来た。

 それにしても体が軽い、リステルって娘のお陰だな。今では杖無しでも歩くのに支障は出ない。あの子の願いが通じているようだ。しかも、あれから悪いことは起こっていないようだ。

 そんなことを思っているうちに、泉に着いた。その時、目の前のことに驚いた。そこには・・・



 泉の精霊が岸辺でうずくまっていたのだ。



 彼女に近寄り声をかけた。


「泉の精霊よ、一体何があった?」


 すると、俺の言葉に顔を上げた、しかも目には涙を浮かべている。そして悲しげな声で言った。


「ワシは・・・完全に力を失ってしまったようじゃ。水にも潜れんようになってしまってな・・・。」


「一体何があったんだ?」


「何もかにも、リステルとやらの願い事が悪いんじゃ!泉の精霊として、願いを叶えてやり、その代償で生み出された負の力を吸うことにより力を保ってきたのじゃ。なのにあの娘の願いからは代償による負の力が出せなんだ。ただただ力を消費するのみでの、この有様じゃ。もうここには居られない、なのでな、ここから去る前にヌシに恨みごとの一つでも言ってやろうと思って呼んだのじゃ。」


 膝を抱え、(うずくま)ったままで言った。


「精霊よ、一つ訊いていいかな?」


「何じゃ・・・?」


「ここから去ると言ったな。これからどこに行こうというんだ?」


「決めておらん。力を失った精霊は、ただの役立たずじゃ。どこぞでひっそりと暮らすとするかの。」


 良く見ると、相当寒いのか、小刻みに震えていた。そういえば、ずっと気にしてなかったけど、全裸なんだもんな。昼間は温かいとはいえ、夜の水辺は結構冷えるんだ。

 今までこの精霊には相当苦しめられてきたし、俺の言う事に全く聞く耳を持ってくれなかったが、周りで起こる代償とやらが引き起こす不幸のことで、彼女と話す機会も多かった。

 でも今、力を失い、弱々しく言葉を発する彼女を見ているうちに、俺はコートを脱ぐと、彼女に羽織らせていた。


「な・・・何をする。」


 突然の事に戸惑いの声を出す精霊に俺は言った。


「寒いんだろ?カゼ引くぞ。」


「何を今更。憐みのつもりか?ワシにそんなもんは要らん!」


 そう言うと、羽織らせたコートをその体から引きはがそうとしている。その姿に俺は不意に、彼女をぎゅっと抱きしめてると、柔らかい、女性の体の感触が伝わって来た。

 俺は彼女の耳元で静かに言った。


「行くところが無いんだろ?それなら俺の家に来いよ。ここよりはずっと、温かいぞ。」


 その言葉に、最初は抵抗し、俺の腕を振りほどこうとしていた彼女だが、次第に俺の体に身を預けてくるのがわかった。そして、しばらくそのままだったが、不意に呟くように言った。


「ヌシの体・・・あったかいの・・・。」 



 つづく

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