【第3話・試行錯誤してみようか】
「それじゃあ先生、行ってきます。」
「あぁ、気を付けてな、何もなくても、手紙ぐらいは書くんだぞ。たまには帰って来いよ、そして・・・」
ひょんなことから、日本のハローワークから、異世界に迷い込んだ私は、本腰を入れて、還るための旅をすることにした。
見送りに来た、この世界で、今まで親・・・というより、お姉さん代わりになってくれた、この村で変換師の卵を育成する、猫と人間の合の子、『亜人』と呼ばれる種族の先生が、名残惜しそうに、私を心配して、色々と言っている
「大丈夫ですって、顔を見せに、帰ります。だってもう、ここは、私の故郷みたいなものですから。」
「そうか、アタシはずっとここに居るから、いつでも帰って来い。そして最後に一言いいかな。」
「何ですか?」
あぁ、絵に書いたような、感動的な別れ、そして旅立ちのシーンだなぁ。それに、『最後に一言』だって、泣かないように気を付けないと。そう思った矢先。
「リステル、立てたフラグは、ちゃんと回収するんだぞ。」
・・・。
・・・。
「どういう意味ですか?」
「まんまの意味だ。オイシイところはちゃんと抑えていかないとな。」
「・・・先生、何かこう、色々と台無しですよ。」
□■□
春の陽気を思わせる、柔らかな太陽の日差し。そして、石畳が延々と続く街道の脇には、赤や黄色の花が咲き乱れていた。
ここに来て三ヶ月くらい、季節が移り変わってもいいようなものだけど、ずっとこんな感じだった。
日本では、四季があるのが当然。そう思っていたが、ここは異世界、四季が無くても驚くことではないのだろうか。
一人、どこまで続くかわからない道を、トボトボと歩く。
当然、車や、バスなんか無い、あるのはタクシーの代わりになる馬車。
使いたいのは山々だけど、この世界のタクシーは馬鹿みたいに高く、少しの移動でも、一泊宿を取れるくらいの値段がする。
ギルドの依頼で、移動するときは、代金は、ギルド持ちなので、その辺は気にしなくていいのだけど、個人で頼むと、それは目玉が飛び出るくらいの値段になる、最初、私用で馬車を使った時、先生が代金を払っているのを、横目で見て思った。
なので、先の見えないこの旅では、なるべく無駄な出費は避けたい。
再び足を進め、小一時間くらい歩いたところで、とうとう膝にきた。
「イタタタタ・・・今までの運動不足がたたったか、異世界に飛ばされるってわかってたら、ジムとかに通ってたのになぁ。」
一人呟き、地面に腰を降ろした。
今までの、物に溢れた生活から一変、電気も水道も、ガスもない、この世界。
慣れたとはいえ、不便極まりなかった。
とはいえ、不満を漏らしても、始まらない、ここに座り込んでいても、人っ子一人いない、この街道では誰も助けてくれないのだ。
とりあえず、歩くか、そう思い、地面に手をついたとき、柔らかい草の感触が伝わった。
その時、急に閃いた。
「もしかしたら・・・もしかするかも。」
体勢を変えて、地面に両手をつき、頭の中に、自転車をイメージする。そして
「・・・サブスタンスチェンジ。」
言葉に呼応するかのように、掌が当たった草が光を帯び、形を変化させていった。それが、みるみるうちに、私の想像した自転車へと形を変えていく。
「フフフフフ、大成功!カゴ付き、六段変速、電動アシストが付けられなかったのは残念だけど、やってみるもんね。」
と、意気揚々と、草で出来た自転車にまたがった瞬間。
【ベショッ。】
私の重みで、真ん中から『く』の字に折れ、腰から地面に落ちた。
「イテテテテテ・・・やっぱダメか、いや、でも歩くのは嫌だ、形は何とかなる、後は強度か。」
その後、試行錯誤を繰り返し、呪文を唱え続ける私
「サブスタンスチェンジ!」
【べしょっ。】
「これでもか!サブスタンスチェンジ!」
【べしょん。】
「サブスタンスチェンジぃぃ!」
【べしょっ。】
半ばヤケになりつつ、強度と、進むような構造を考えながら、呪文を唱える、六段変速は諦めた、カゴも諦めた、ブレーキの構造なんて、知る由もないから、諦めた。
回る車輪と、方向を決めるハンドル、それに乗るための椅子、それに意識を集中して、やっとのことで、自転車っぽいものが出来た。
「後は強度か、所詮、素材は草だからなぁ・・・。あれ?ってことは・・・」
ハンドルを握り、再び
「・・・サブスタンスチェンジ」
物質変換の発動状態を保ちつつ、椅子にまたがる、うん、今度は潰れずにいい感じだ。
そして、試行錯誤の末、構造を思い出し、作ったペダルに足を乗せてこぎだした。
ちょっと乗りづらいけど、十分なスピードが出る、この草で出来た自転車の出来は上々、これで次の街まで一気に行こう。
『失敗すればするほど、成功に近づいている。』
どこかの発明家が、こんな事を言っていたような気がする。
まったくその通りだなぁ、体を撫でる温かい風を全身に受けつつ、何度も地面に打ち付けた腰を摩りながら思った。
つづく




