【第2話・旅立ってみようか】
「いっくよー!サブスタンスチェーンジ!」
ここは、私が、依頼を受けた街の隣にある街、その中心街から、やや少し離れた一軒家の庭。
依頼にあったとおり、芝生が枯れ、地面がところどころ、むき出しになって、見栄えが悪くなっている、依頼主の家の庭に入ると、早速、地面に手を置いて、物質変換発動の呪文的なものを唱えた。
その私の言葉に呼応するように、芝が元気を取り戻し、みるみるうちに、庭が、緑の絨毯を隅々まで敷いたように、綺麗になった。
「ふぅ・・・。」
その光景に、安堵のため息をついたとき
「よっ!ちゃんとこなせたじゃん、これでアンタも『変換師』として本格的に、仕事を受けることが出来るな。」
初仕事で不安だろうと、一緒に付いてきてくれた先生が、私の肩を叩いた。振り向くと、猫と人間の合の子、この世界では、『亜人』と呼ばれる種族の彼女が、私に笑顔を見せている。
「あ・・・ありがとうございます。」
これで、依頼は完遂、持ってきた書類にサインだけ貰い、ギルドに戻る、後は、書類と引き換えに、報奨金を貰い、これで本当に、一区切りがつく、そういうシステムなのだ。でもこれってぶっちゃけ
『日雇い労働者』じゃない?
しかも、元居た世界で言う、『派遣労働』である、既に、私の手元に報酬が来る前に、ギルドから上前をピンはねされているのよねぇ・・・。
やっぱりどこの世界も胴元が儲かる仕組みなのか。いやいやいや、ここは『ふぁんたじい』の世界だ。
私は、その手のものには、詳しくないけど、魔法という立場が『物質変換』という名前になっただけで、平たく言うと、魔法が日常的に使われ、亜人が行き交い、そのうち、人間の言葉を操る、空飛ぶ妖精さんなんかも絶対に出てくる。
こんな夢のような世界で、上前だのピンはねだの、下世話なことを考えたら負けなのだ。
しかし、なんだろう、この、すっきりしない感は、あー・・・、うー・・・。
「ちょっとリステル、何一人で頭抱えてんのよ。」
不意に先生の声がした。
「あ、えーっと・・・何でもないです。」
「そうか?ならいいのだがな。じゃあとっととギルドに戻って・・・」
と、その時、遠くの方から
【ズドーン!】
爆発音、それと同時に土煙が空を覆っていた。
その音と、煙は方角からして、街の中心辺りだろう、目をやると、さっきまで見えていた時計塔が、跡形もなく無くなったのだろうか、私の視界から消えていた。
音と、煙から、推測するに、かなり大きな爆発だったのだろう。
しばらく様子を見ていると、視界に小さく、大勢の人が慌てた様子で行き交い、悲鳴と怒号が聞こえてきた。
これは、ただ事ではない、そう思い、不意に足を向けようとした、その時。
「行くな!リステルっ!」
先生の怒鳴り声がした。
「え・・・?でも・・・。」
それに戸惑う私を見つめた後、爆発が起こった方を眺めながら
「今のアンタが行ってもどうしようもないんだよ、足でまといになるだけだ。この街にも、手練の『変換師』が居るだろう、彼らに任せな。」
「もしかして、この爆発って・・・。戦争か何かなんですか?」
どこの世界にも、人の集まるところには、戦争というものがある。宗教や政治、思想の違いから、人々が日夜、争い、傷つけあっているのは、どこも一緒なのだろうか。
「とりあえず、ここで長話は無用、巻き込まれたらたまらないからな、よそ者のアタシ達は引き上げよう。詳しい話は帰ってからだ。」
そういう先生は、難しい顔をしていた。
私はちょっと引っかかるものがあったが、先生の醸し出す雰囲気で、何も言えなくなり、この街を後にした。
□■□
「それで?お嬢さん、初仕事はどうだったぃ?」
あれから数時間、私は先生と二人、変換直営の酒場に、食事を摂りに来ていた。
声の主は、ここに来て数箇月、すでに顔見知りになった、スキンヘッドで、筋肉質、ちょっと顔の怖いマスター。
背中の後ろの棚には、酒の詰まった瓶が、所狭しと並べられている。
後ろを向くと、木で出来た、丸テーブル、そこに、服を着たワニ男や、ゴーレムっぽい人、色んな人種の変換師が、酒を飲みながら、会話を交わしていた。
初めて来た時は、ファンタジー小説に出てくる『まんま』の店の雰囲気に、物珍しかったが、今となっては、日常の風景。
「大成功よ、まぁ・・・依頼内容が『庭いじり』だったから、報酬は少なかったけどね。」
「ハッハッハ!そんなもんだ、駆け出しなんだからしょうがないさ、なぁ先生よぉ!」
高笑いをしながら、先生に話しかける、すると彼女も笑いながら
「そうだな、そのうち難しい依頼もこなせるようになるさ。と、ところで、リステル、アンタに言っておきたいことがある。」
「何ですか?」
「昼間のことと、関係があるのだがな、これからアレに巻き込まれそうになることがあると思う、でも何があっても、全力で逃げろ、絶対に関わり合いになってはいけない。」
「はい・・・。先生がそこまで言うなら、でもそれならどうして私に変換師を勧めたんですか?」
「それはな、アンタが元の世界に還るためさ、ここ数箇月、この街で色々と試してみたが、還れなかったろ?この世界、アンタからするとこの異世界は、昼間見た通り、残念ながら、治安が落ち着いているとは言えないんだ。ここがダメとなると、他の街で情報を得る必要が出てくる。その間、どうしても喰って、寝て、生活しなきゃならない、一般人と、変換師だと、仕事の数も、期間も違う、パッと稼いで、次へ移動、ジプシーみたいな生活になるんだ。」
「はぁ。」
「幸いなことに、アンタの属性である『樹木』は、戦闘にあまり向かない能力だからな、依頼の大半は、今日のような雑用みたいな仕事が多い、地味だが、逆を言うと、危険に巻き込まれる可能性が少ないってことさ。」
「はい。」
「だから、なるべく危険を避けて、金を稼いで、情報を集め、元の世界に還る手段を見つけるんだ、何、大丈夫、きっとあるさ。」
「わかりました、って?でも何か先生の口ぶりが、これからは私一人で、みたいな感じですね、もしかして一緒に来てくれるとか、そういうことは・・・。」
「バカたれ、そうしたいのは山々だが、私にだって、ここで変換師の育成という仕事があるんだ。いつ帰れるかわからん旅に、付き合えるわけないだろ?生徒はアンタだけじゃないんだ、それに、今日の仕事っぷりで一人でも大丈夫だと確信したよ、リステル、アンタの潜在能力は、大したんもんだ、まぁ、『樹』を操る能力はからっきしだけど、『草』に関しては、一人前以上の能力だよ。自信を持て。」
最初の方は、深刻な顔をして話していたが、最後にそう言うと、先生は笑った。
そうか、最近、この亜人の先生との生活にも慣れてきて、ずっとこの異世界に居続けるんだろうな、そう肌で感じていたものの、やっぱり話を聞いているうちに、還らなければ、そう思い始めていた。
そして、それと同時に、今まで親として、姉として、慕ってきた先生とも別れなければならない、その寂しさもあった。
ここに来て数箇月、毎日のように、還る方法を探していたものの、この街でもう、還るために得る情報は無い。
なら、旅立つ他ないんだろうな。
「わかりました、先生と離れるのは、少し寂しいんですが、いつまでも甘えていたらいけませんよね。」
「そういうことさ、私だって寂しいんだ、ずっと一人で暮らしていたからな、短い間だったけど、妹みたいな存在が出来て嬉しかったよ。でもやっぱり、それじゃあいけないんだ、アタシは先生の仕事、アンタの仕事は一日も早く、『日本』というところに還ること、両親だって、いきなりアンタが居なくなって、心配しているだろ?」
そうだ、元の世界ではどのくらい時間が流れているんだろう。
もしかして、捜索願とか出されて、大事になっているかもしれない。
一刻も早く、旅立つ必要があるんだろうな。
「じゃあ、今夜から出発の準備をして、明日には旅に出ます。このまま先生の所に居たら、決心が鈍りそうだから。」
「そうだな、アタシもアンタを手放したくなくなりそうだ、じゃあちょっと早いけど、餞別を渡しておこう、これで当分は食いつなげるはずだ。」
そう言いつつ、先生は金が詰まっているだろう皮の袋を私によこした。
「ありがとうございます。大事に使わせていただきますね。」
「当たり前だ、結構な額が入っているとはいえ、くれぐれも、無駄遣いするんじゃないぞ。あ、それともう一つ、言い忘れたことがあった。」
「何ですか?」
「昼間の爆発の件さ、あれは一種のテロリスト集団と考えて貰っていいだろう、危険な思想を持った変換師の集団さ、どこにも過激なヤツは居る、気を付けな。立ち寄った街で、ヤツらの名前を耳にしたら、すぐに立ち去る事だ、絶対に関わり合いになるな。」
「そんなに危険なんですか?」
「そうだ、よっぽど自分たちの活動を誇示したいのか、必ず声明を出すんだ。それから、数日で破壊活動を始める。一応、警戒はしているようなんだがな、神出鬼没で、手をこまねいているのさ。この街みたいに、小規模だと、宣伝効果が無いとみて、手を出さないんだけどな、大きな街になればなるほど、出会う確率は高くなる、どのみち、もともと戦闘には向かない『樹木』、中でも『草』の能力しか、ほとんど持っていないアンタじゃ太刀打ちどころの騒ぎじゃない、逃げるといえば、聞こえが悪いが、身を守るためには立派な手段だ、わかるな?」
「わかりました、それで?その集団の名前って何ですか?それを知らないことにはどうしようもないんですけど。」
私の問いかけに、一呼吸おいて『それもそうか・・・』そう呟きつつ言った。
「『PTA』だ。」
あれ?どこかで聞いたことのある名前だぞ?
つづく




