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【第1話・変換師になってみようか】

 「お待たせしました、これが貴方の身分証明書です。ちゃんと肌身離さず持っていてくださいね。」

 

 事務員の男性に、出来立てホヤホヤの免許を渡された。

 これで晴れて、私の念願だった、『物質変換師』への仲間入りを果たすこととなったのだ。

 

 -物質変換師-

 

 それは、地上にある、ありとあらゆるものを、意のままに操ることの出来る職業。

 平たく言うと、精霊使いみたいなものだ。

 人はみな、生まれ持って、何かの属性に所属している。私の知っている限りでは、『火』『水』『土』『樹木』『雷』、そして、ちょっと特殊だけど『金属』、このくらいだろうか。

 自分で、『この属性がいい』という自由は効かないのが玉にキズだけど。

 そしてまだ、この他にも未知の属性がある・・・らしいのだけど、その辺はまだ、解明されてないみたい。

 そもそも、この『物質変換師』というものが、職業として定着したのは、ほんの5年前だという、それまでは、『超能力』として、扱われていた部類のもの。この職業が出来るまでは、ふとしたキッカケで、能力を持ってしまった人達は、その力を隠し、皆と何も変わらない一般人として、振舞っていたのだ。

 しかし、学者たちの、研究の進歩により、本来、備わっている属性の力を、人工的に増幅させることに成功した。

 とはいえ、誰もがなることが出来るわけではなく、その、増幅カテゴリに適合した人のみが、こうやって、私みたいに、『物質変換師』として、認定されるのだ・・・。


 「・・・さん、お姉さん!」


 思いにふける私の思いを遮るように、さっきの事務員の男性が私を呼んでいた。不意打ちともいえる、呼びかけに咄嗟(とっさ)に反応できずに


 「ふっ・・・ふぁい?」


 まの抜けた返事を返すと、男性は、少し呆れた顔をしながら、一枚の紙キレを差し出しつつ、私に言った。


 「すみませんが、物質変換師として、名乗る名前を登録してもらえませんか?後ろがつかえてますんで。」


 そうだった、物質変換師として、活動する時には、本名は使えない、何故だかわからないけど、何でも大人の事情だそうだ。

 そういえば、私が通っていた訓練校の先生にもクギを刺されていたんだったっけ


 『アナタ、ちゃんと変換師として名乗る名前を考えておきなさいよ、おざなりにつけたら後で後悔することになるからね』


 「あ・・・えーと・・・。」


 そう言いかけたところで


 「一応、言っておきますが、変にウケを狙った名前や、卑猥な表現を含む名前、例えば『ち×ぽこ』とかですね、それと、『ああああ』とか、おざなりな名前は、控えて下さい、間違いなく、後悔することになりますよ。」


 彼には、私のことが、よほど変な人間に見えているのか、いたって事務的な口調で、いらない心配をしてきた。

 私だって、変換師になったことで、ちょっとは有頂天になっていたものの、そんな常識知らずではない。

 そんな彼の態度に、少し苛立ちを覚えつつ、差し出された紙に、これから私が名乗る名前を描いた


 

 『リステル=カベルネ』  

 

  

  □■□


 「うーん、やっと終わったわ~。」


 役所を一歩出たところで、大きく伸びをした。

 かれこれ半日以上かかった、手続きもやっと終わった、とはいえ、これで終わりではない。

 晴れて、変換師になったとはいえ、仕事を見つけないことには、ただの自宅警備員、無職と何ら変わりはないのだ。

 

 「まずは・・・変換師の集まるギルドに行かないとね。」


 そう呟き、街道を走る馬車を止め、荷台に飛び乗ると、ゆっくりと動き始めた。

 屋根もついてない、粗末な荷台、そこに人が乗れるように、椅子がついていた、そこに座りながら、流れゆく風景を眺める。

 土が剥き出しになった、街道。そして、両側には草原しかない地形。流れゆく景色を、風に吹かれつつ見ながら、ふと、あることを思い出し、つい、そのことが、言葉になった。


 「あー、お父さんやお母さん、探してたりとかするんだろうなぁ」


 私が、ここに来て、定かではないけど、三ヶ月くらい、時が経っていることになるのだろう。

 その日、私は、職を探して、家から一番近い、ハローワークに行って、PCで求職情報をプリントアウトして、順番を待っていた。

 その時、急にトイレに行きたくなり、少し慌てつつ、扉を開けたまでは、覚えていた。

 すると、みるみるうちに、空間がグニャリと歪み、気を失うように、一瞬、目の前が暗転したその次には、見慣れない荒野に一人、立っていたのだ。

 手に持っていたのは、求職情報が載った紙と、携帯電話。そして、ズボンのポケットにはお財布。  

 トイレに行くのに、邪魔になるからと、貴重品を抜いたカバンはベンチに置いて来た。


 「はー・・・いつまでこの世界に留まんなきゃいけなんだろ」


 そう、ため息をつきつつ、ディスプレイに『圏外』と表示された携帯電話を見つめた。

 メールも通話も出来ない、ただのプラスチックとなった携帯電話だ。


 「もう、カメラ機能しか役に立たないわね。」


 ここに来て、長いこと充電していないのに、不思議と電池の切れない携帯、そのカメラで風景をパシャっと撮った。



  □■□



 「おー、カエデ!遅かったな、やっぱり役所で手間取ったか。」


 馬車から降りて、ギルドに着くや否や、浅黒く、背の大きな女性が駆け寄ってきた


 「先生。」


 そう、この世界に来たとき、彼女の姿を見て、パニックになっている私をなだめ、彼女には、到底信じることの出来ないだろう、私の話を信じてくれ、親・・・というか、お姉さん代わりになってくれた人である。

 私がパニックになった理由、それは、彼女の風体にあった。

 ネコと人間の合の子みたいな、そんな感じ、耳は少し尖っていて、瞳は緑色にギラギラと光っていた。

 しかも、ほぼ半裸で、服を着ているように、体毛が、体半分を覆うように、生えていた。 

 更に、尻のあたりから、長い尻尾が生えていた、異形の者とも言える風体だけど、この世界では結構居るらしく、『亜人』という種族なのだそうだ。

 

 「アタシくらいでパニックになってたら、街に行ったら気絶するぞ。」


 怒るでも拗ねるでもなく、優しく私に言ったそんな先生の言葉で、正気を取り戻し、彼女についていくことにしたのだ。

 その後、色々話をした結果、当分、こ世界で生きることになるだろう私に、『物質変換師』としての道を、勧めてくれたのも彼女なのだ。

 ちなみに、『カエデ』というのは、私の本当の名前である。


 「それで?うまくいったか?さすがの私も、異世界の人間のアンタがすんなり通ることが出来るか心配でさ、まぁ、その顔を見れば大丈夫だってところだな?それと、名前、ちゃんと決まったか?」


 相当私のことが心配だったのか、息巻くように喋る先生に


 「大丈夫でした、それと・・・私の名前は『リステル=カベルネ』にしました。」

 

 「ほぉう、『リステル』か、いい名だ。それで?由来とかあるのか?」


 「本当は、色々考えていたんですけど、どうせだからはっちゃけた名前にしようかって、由来は、ワイン・・・いや、葡萄酒って言ったほうがいいんですか?そこから取りました。」


 「そうか、アンタが気に入っているのなら、それがいい。」


 そう、私に笑顔を見せ、更に続けた


 「でだ、早速初仕事、してみるか?」


 「えぇ。」


 連れ立って中に入ると、カテゴリごとに掲示板が別れており、依頼内容うが書かれた髪が、鋲で止められていた。まるで、ハロワの掲示板のように。

 私は迷わず、『樹木』の掲示板に足を向けた、その後をついてくる先生。

 それをボーっと眺める、色々あるんだ「××の討伐を樹木の力で加勢を願う!」とか「断崖絶壁に橋をかけるお仕事です!」とかとか。

 

 「はぁ・・・。」

 

 思わずため息をついていると。


 「これがいいんじゃないか、アンタにぴったりだ!」


 先生の声に振り向く、すると、掲示板の一つを指さしていた。そこには・・・



 『庭の芝生の再生を出来る方、急募!』

 

  

 「・・・草、ですか?」


 「そう。」


 そう一言言うと、私をみて笑顔を向けた。


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