第八話 ラーメンにはスパイスを振らなくてよいのですが……
ここ、何を書けばいいのだろうか。
手を顔の前で組み、眼鏡を光らせて悠次が問う。
そのポーズ好きなのか?
「なあ秋人よ。この世で最も美味い飯は何だと思う」
「たこ焼き」
「……お前そんなにもたこ焼きが好きなのか?大体その答えしか聞かないけど」
「うーん……いわれてみればそうかもな。でもそんなに好き勝手言われたらそうでもないかも。好きっちゃ好きだけど、もっと好きなんも全然あるな」
「そうだろ?」
もちろんたこ焼きは好きだ。定期的に食べたくなってしまうくらいには。でももっと好きなものはいっぱいある。大好物なるものだってある。
じゃあなぜたこ焼きが口からすっと出たのか、考えられる原因は——考える必要もないな。直近でたこ焼きに関する印象に残る出来事があったじゃないか。結構、意識しているのかもな……
「さーて、そろそろ帰ろうかな」
「そうだね——じゃなくてだな、僕のさっきの質問の答えを考えてみてくれよ」
「えっと……この世で最も美味い飯だろ?そうだな……お前のことだし、ラーメンとかか?」
「ふっふっふっふ……」
悠次のやつは、なんだか、今にも不正解と言いだしそうな含みを持った笑いをしだした。とりあえず殴ってみようか。
「大正解だ!」
殴るよりも先に、正解と言われた。
正解と言うと同時に、人差し指を俺に突きつけてきたので、俺はその指をへし折る勢いで握ってやった。
「それで、何が言いたいんだ?」
「ああ、この後ラーメン食べに行こうって意味」
それなら最初からそう言ってくれないだろうか。わかりにくい。
だがまあ、ラーメンか……最後に食べたのはいつだったか。近頃全く食べていない。最近はラーメン一杯に千円とかするせいで、気軽に食べられるものではない。それに、ラーメンはかなり健康に悪いからな。ただでさえ日頃から不摂生を行っているのに、ラーメンなんてバケモノまで摂取するわけにはいかない。だからこそ、意識して避けてはいたのだが、誘われたとすれば別だ。
「りょーかいだ。どこに行くかは決めているのか?」
「もちろん!この間できたばかりの豚骨専門のラーメン屋があるんだ。名前はラーメン太郎。聞いて驚け、超こってり系だ」
「な、何だと……!」
こってり系ラーメン。それは、一度食べてしまえば、あまりの味の濃さに後悔をしてしまうが、食べ終わったころにはとてつもない背徳感を得、そしてもう一年は食べないと誓う。しかし!気が付けばまた、あのこってり濃厚なスープを求めて、気が付けばラーメンを食べに来ている。そうしてまた後悔の無限ループに陥らせる悪魔の食べ物……
「よかろう。今すぐいくぞ!」
「決まりだね——あ、言い忘れてたけど、結構遠いから。覚悟しな。歩いて三十分」
「は?」
おいおい、それは歩いて行く距離ではないと思いますが。もしかして歩いて行くんですか?あほうですか?
それはもう自転車や車を使う距離だ。
「さ、行こうか」
悠次はにっこりと笑う。その笑顔は、とてつもなく殴りたいほどの代物だった。
「やっと着いた……遠すぎる……」
「はっはっは!まだまだ鍛錬が足りないな、秋人は。僕なんかまだまだ歩けるぞー!」
「なら一人で歩いてきてくれ」
「酷いこと言うなよ、僕たち親友だろ?」
「へいへい。ちゃっちゃと入るぞ」
店の外からすでにかなり香っていたが、ドアを開けた瞬間にその倍以上の香りが、鼻に襲い掛かってきた。
豚骨ラーメン特有の独特な香り。異臭と言っても過言ではないだろう。その香りは、あまりの強さに、嗅ぎ続けていたら頭が痛くなりそうなほどだ。
これは、かなり期待できそうだ。
「どっこいせ——さーて、どんなメニューがあるのかなー……」
ふむふむ。薄いな。同人誌よりも薄いのではないだろうか。当然メニューもかなり少なく、ラーメンの種類は三種類だけ。少ないメニューで勝負をしているらしい。
「よし、俺は決めた。悠次は?」
「もちろん決まっている——すみません。注文、いいですか?」
「はいよー」
「超こってりチャーシュー一つ。秋人、お前は?」
「俺はこっちのこってり濃厚ラーメンで」
「はいよー」
「まさかそれを選ぶとは、通だな?」
「どこがだよ。三種類しかないだろ。通もくそもねえよ」
「はっはっは!そうだな」
何だこいつ……
こうして、俺と悠次はラーメンが来るのを待っていたのだ。しかし、平穏無事に終わらないのもまた世の常なのだろう。
ふと、ドアががらりと開く音がした。客が来店すれば鳴る、ラーメン屋では何の変哲もない環境音である。だがなぜだろう。俺は不意にその音の方を見てしまった。何が気になるでもない。ただ何となくだ。
「あっ……」
「おや?これはこれは。神崎君に西川君ではないですか」
「やあ、芳野さん。奇遇だね」
「ですなー!」
まさかのまさか、芳野が来店してくるとは思いもしなかった。
そして芳野は店員に一言言って、俺たちのテーブルに座った。
「ここいいです?」
「ああ、ぜひぜひ」
俺はさりげなーく悠次の荷物を俺の座っているソファに置く。優しい俺は芳野が悠次の隣に座るように仕向けてやった。
「あんがとです」
芳野はメニューを開き、何を注文するか決めては、すぐに店員に伝えていた。というか、店員を呼んでからメニューを開いていた。まるで何があるのかを知っているかのように。
「なあ、芳野ってここに一度来たことがあるのか?」
「残念。二回でした」
「僕は三回だ」
「張り合わんでいいわ。ここ結構遠かっただろ?よくリピートできるな」
「そうなんですよねー。ですが!一度食べてしまうと、もうやめらんないのですよー。初めは食べたことを後悔してしまうほどのこってり……しばらくは食べなくてもいいはずなのですが、数日したらまたあのこってりを求めてしまい、この長ーい距離を歩いてきてしまうのです……」
「よーくわかる」
悠次のやつが頷いてやがった。
やはりその感覚は万民共通らしい。こってり系のラーメンは、たばこみたいに依存性を秘めているのかもしれない。我々は、ラーメンという脅威によって、肥満への道を歩まされるのだ。あーなんとも恐ろしいことだろうね。
会話がひと段落したのだろう。一旦三人とも無言になった。もちろん俺の心の声は喋り続けるのだが。
こういった会話と会話の継ぎ目にできた沈黙に直面したとき、一体どうすればいいのかが、俺にはわからない。とりあえず誰かが話題を振ってくれるのを待つのがいつもの俺だ。現に今もそうだ。何の話題を振ればいいかわからない。誰かいい話題を振るか、話題が舞い降りてこないだろうか。
そんなことを考えていると、実際に舞い降りてきてしまった。しかしそれが、必ずしも良い話題とは言えないのが人生というものだ。
この場において最も忌避すべき、地雷と言っても過言ではない話題が、自ずと歩いて来た。
「おい秋人あれって……」
悠次が突然指さした。入り口にそこまで驚くほどのものでもあったのだろうか。
めんどくさいが、反応してやるってのが友達ってもんだからな——
俺は渋々、振り返った。
その瞬間、俺は目を疑った。学校からはかなり離れた場所にあり、歩いて行こうものならば三十分はかかるこのラーメン屋。しかも、開店して間もない、知る人ぞ知るといっても差し支えない豚骨専門店だ。うちの学校の人間などほとんど来るはずのない、花のない男だらけのむさくるしいこの店で、女子である芳野と鉢合わせただけでも十分すぎるほどの奇跡だというのに、神様というやつは、どうやら奇跡の安売りでもし始めたらしい。それはもう不良品の奇跡である。
店内に充満する豚骨の匂いの下、俺は天文学的な確率でしか成立しないであろうシチュエーションに出くわそうとしているのだ。
このむさくるしい店内には似つかわしくないその美しい姿は、まごうことなく白石透華である。
「な、なんで白石さんが……」
「これまた、予想外な人物だね」
「ああ……」
これはまずいか……?芳野の様子は——ちょっとまずいか?だがまあ、素通りしてくれさえすれば問題ない。彼女のことだ、きっと気づくことはないだろう。多分。てかお願い!
だが悲しきかな、こう願うときに限って裏目に出る。
「あ」
「えっとぉ……どもっす……」
がっつり目が合った。これはもう見事にね!いやー出会ったころを思い出すねーうんうん。
とまあ、俺が諦めていると、白石さんはちらりと芳野と悠次を見た後、また俺を見た。
「あのぅ……どうなさいましたでしょうか……」
「……」
「そのぉ……ミス白石?ヘイ、イキテマースカ?」
「……隣、いい?」
「おう、もちろんだ——は?」
時すでに遅し。
すでに白石さんは隣に座っていた。これ、まずいな?芳野は——
「こんにちはです。白石さん。こんなところでとは、奇遇ですな……」
「……」
「白石さんってこんなところに来るんだね」
「……」
芳野と悠次は、白石さんとの対話を試みたようだが、見事に撃沈したらしい。かわいそうに。
「白石さんは神崎君と仲いいの?隣に座るくらいだし」
まっずい!その話題はやめろ!白石!おとなしくしてろよ!
「……えっと——えーっと……」
こいつ、芳野の名前覚えてないな。人の部分だけは覚えられている俺はましなのかもな……
「芳野茜だ。隣の眼鏡は西川悠次」
「芳野さん、神崎って誰?」
は?——おいちょい待てよ!おいおいおい!もしかして、俺の名前覚えられてないのか!?いや、そういえばこいつ、俺のことヒトとしか呼んでねぇ。そこら辺の有象無象と同じで覚える気はないのか……なんかショックだ。
「え……神崎君のこと覚えていないのに座ったの?」
「あ、いや多分こいつは——」
俺がどうやって弁明すればいいか悩んでいると、白石さんが先に口を開きやがった。
「ヒト……さん?えっと、あなたは——」
「俺は神崎秋人だ。覚えられてないのがショックだぜ……」
「へー変わった呼び方だね。な、ヒトさん」
「知らねえよ。こいつが勝手にそう呼んでいるんだ」
「秋人の人かい?」
「多分な。名前説明するときに、秋に人って言った気がするし、それで人の部分だけ覚えたんだろうよ」
「く、クセ強ですな……」
「俺もそう思う」
白石さんには関わりたくないであろう芳野すら、思わず苦笑いをして話に加わってしまうほどとはね……ほんと何?このあだ名。
白石さんが俺の隣に座り、粗方つっこみ終わったところで、彼女はメニューを見始めた。
しばらく悩む様子を見せた後、小首をかしげながらページをめくる。しかし、すぐにページをめくり直し、前のページに戻る。それをしばらく繰り返す。
「えっと……白石さん?どうしたんだ?」
「おいおい、秋人よ、多分それは、『初めてくる場所だしメニューがわからないな。そもそも、普段からラーメン屋には行かないから、どういったものを頼んでみればいいのかが分からない。どれがいいんだろ。外れだったら嫌だしな。悩む』という感じだろう」
そんなバカな——っておい、まさかその通りなのか!?
白石さんは悠次の言葉に、ほんの少しばかり感心したように顔を上げた。
「ちょい待て、まじなのか?そしてどうしてお前がその心情をわかんだよ」
「そりゃもちろん、いつも秋人と一緒にいるからさ。君みたいに、心の中では饒舌で、外面では比較的静かな人間と接していればね。自ずとわかるようになる」
つっこみたい場所がいくつかあるんですが……どうして俺が心の中では饒舌なのを知っているんだよ——って聞きたいが、これはまずい気がするからパスだ。そして、もし仮にそれを知っていたところで、なぜわかるのかの答えにはなっていないだろ。接していたところで、何を考えているのかがわかるわけ——
「いくら接していてもわかるわけない。そう言いたいんでしょ?」
「キモイ」
「泣くよ?」
「自業自得だ。勝手に泣いてろ」
「芳野さん、どうおもいます?ひどくないですか?」
「え?私?そ、そうですね……えっと……」
先ほどまで、息を殺していた芳野に話を振りやがった。悠次よ、多分だが今この場で芳野に振るのは愚策だぞ。
「ま、とりあえず、白石さん。どれ選んでも外れってことはないと思うぞ。なーに、あまりのこってりさに、胃が死ぬだけだ」
「……ヒトさんは何を頼んだの?」
「あ?俺か?俺はこの、こってり濃厚ラーメンだけど……」
「じゃあ同じので……」
「悪いことは言わねぇ、やめとけ。絶対胃が死ぬ」
「大丈夫」
その大丈夫は、とてもとても信頼性に欠ける言葉だった。後悔しても俺は知らないからな。
優しい俺は、店員を呼び、追加でこってり濃厚ラーメンを頼んであげた。
もちろんその後は、ラーメンが来るまでの間、とてつもなく気まずい雰囲気が漂っていた。主に悠次を除いた三人の……いや、白石さんも除く二人だな。何も知らない悠次、周りに興味はないであろう白石さんにとっては関係ないだろうし……
どうしたの?と、呑気に首を傾げている悠次が羨ましいぜ。
そうこうしているうちに……つーか激重空間で耐えているうちに、俺たちのラーメンがやってきたのだった。
どんぶりから立ち込める湯気には、ニンニクの香りの後ろに、確かな豚骨の香りが漂っている。これは……かなり胃にきそうだ。
「先食べさせてもらうけどいいか?」
「もちろんだよ。私が勝手に後から来ただけだし」
芳野からの許可も得られたというわけで、いざ実食と行きましょうか。え?白石さんはって?聞いたところで意味はないだろうし、気にする素振りもないので問題なし!ノープロブレムだ。
俺は、蓮華でスープをひとすくいし、そこに麺を入れる。さらにその上に、もやしとネギを少々、メンマも載せて、子供のころ誰もがやった伝説のミニラーメンを一口で——
口の中に広がる濃厚な豚骨の風味。程よい食感にスープがよく合う麺。なんかなくてもいいが、あった方がいいメンマに、シャキシャキとしたもやし。すべてが絶妙に調和し合った味。
「うまい」
「だろー?」
「ああ。そして死ぬほど濃いな」
こんなものを何度も食べていたら、確実に体を壊して死ぬ。どれくらい濃いかって?スープの流動性が低く、液体と固体の間ではないのか?と疑うほどである。蓮華からスープを落とすと、ボトッと落ちてしまうほどだぞ。どれだけ煮詰めたらこうなるのやら……
しかしなぜだろう。途方もない後悔と裏腹に、病みつきになる背徳感。どんなに抗おうが、スープを飲む手が止まらない。そしてスープだけじゃない。麺もまた悪魔的な美味さだ。コシの強い細麺に、大量のスープが絡まり、口に運ぶごとにスープのコクとうまみが口一面に広がる。
つーかスープが旨すぎる。そう、旨いのだ。
「いやー夢中になってますな、秋人くんよ」
「ですなー。神崎君もこのこゆーいスープの虜になってしまいましたか」
「ああ、こりゃあ病みつきになっちまう旨さだよ。リピートしたくなるのも頷ける」
「これで秋人、貴様もこちら側の仲間だ」
「どちら側の、どんな、何だよ」
「美味かったのなら連れてきたかいがあったってものだよ」
俺らがズルズルと麺を啜っていると、芳野のラーメンが来て、その少しあと、白石さんのラーメンも来た。
芳野はこの濃さに慣れているのか、スルスルと食べてゆく。
一方白石さんは、小さな一口をゆっくり味わうように食べる。そのあまりの濃さに驚いたのだろうか、口に入れた一瞬、咀嚼を忘れていた。
「どうだ?死ぬほど後悔する濃さだろ。俺はもう半分くらい食ったが、結構後悔中だ」
「後悔しているの?」
「しているさ。だけど、それでも食べる手が止まらねえ!この旨さが病みつきになるんだ……」
「そして胃もたれと?」
「そうだ。悠次は心配ないんかよ」
「僕は胃が強いからね。問題ないよ」
「羨ましいぜ……芳野も同じ口か?」
「えっと……私は普通かな……ちょっと胃もたれする……かも?」
「そっか……俺は絶対この後地獄みるよ……」
羨ましいぜ。
それにしても、うまそうに食うな、白石さんは。
普段は無表情なくせに、飯の時はその表情筋が緩むらしい。つっても、一般人の三分の一程度の表情だがな。
なんやかんやで、このくそ旨いラーメンをスープまですべて食べきってしまった。もちろんと言えばいいのだろうか、悠次もスープを飲み干していたのはいいのだが……
まさかの芳野までスープを飲み干していたのには驚かされた。女子というものはラーメンのスープを飲んでしまえば最後、死んでしまうかのように、スープを大量に残しているものだと勝手に想像していたのだが。まさか現実はそうではないのかもしれない、と考え改めさせられた。
遅れて食べ終わった白石さんはそこそこの量のスープを残していた。というか、これくらいが普通である。俺たちが飲みすぎなのだ。
「それじゃあそろそろ会計にすっか。とりあえず各々の分を——」
「もちろん今回は秋人の奢りだ」
「は?」
「忘れたのかい?今日貴様はこの僕を待たせた」
「それはジュースを奢るとかだったろ」
「そうなのだが、気が変わった。ラーメンを奢るのです。もちろん二人分」
「ふざけんな」
「うへ……」
俺の美しく優しい見事なまでの手刀は、悠次の脳を震えさせたのであった……
「それじゃ、僕はこれで」
「私も。今日は奢ってもらってありがとです!」
「それは悠次に言ってやれ。じゃあな」
俺らはあの後、会計をどうするかで話し合った結果、俺は白石さんの分を、悠次は芳野の分を持つことになった。言い出したのは悠次である。店を出てからは、四人仲良く(?)駅前まで歩いた。
駅前で悠次と芳野を見送った後、俺と白石さんは家へ帰る。
なんだか、今日は芳野の口数が少なかったな……って、原因は大体わかる。今横を歩いているこいつだ。混ぜるな危険の張り紙が互いに貼ってあるタイプだ。そんな二人が、あんなところで鉢合わせになり、挙句同じテーブルでラーメンを囲うとなると、そりゃ喋りたくもなくなるか……
つーか何でこいつはあのラーメン屋に来たんだ?普段から外食するタイプじゃないし……何か食べて帰るにしても、わざわざあんな遠くの店に行かなくてもいいはずだ。
うーむ、悩んでも仕方がない。話題がてらに聞いてやろう。
「なあ白石さん。どうしてあの店に来たんだ?あそこ結構遠かったろ。歩いて大体三十分はするところだぞ?行きつけ——ってわけじゃなさそうだし。まあ、お前が飯に貪欲な人間だってのは、うすうす気が付いているのだが……どうしてなんだ?」
「……気になったから」
「気になった?」
「うん。帰り際、ヒトが話しているのが聞こえた。店の名前も聞こえたから調べて来た」
「なるほどね……遅れてきたのは——言うまでもないか」
比較的遅れてやってきた理由なんて、帰る姿を見ていたら、よーくわかったよ。
白石さん、体力がほとんどない。信号で止まるたびに疲れたように息をついていた。常日頃から運動などはしていないのだろうな。まあ俺も似たようなもんだが……
「美味かったか?」
「うん」
「そっか。でもあれかなり濃かったろ。胃にガツンってきたよな。ありゃしばらくは食えねえわ」
「そうなの?」
「おう……まさか白石さんは問題なかったのか?胃もたれとか大丈夫なのか?」
「胃もたれはしたことない……」
嘘だろ……羨ましいぜ。俺なんて帰り道が地獄だってのによ……
「あ、まあ、美味かったならよかったよ。俺の奢りで美味くなかったなんて言われてたら泣いてたぜ」
「……?」
白石さんは、わからないと小首をかしげている。その辺の感情の共感はあんまり得意ではないらしい。いったいどうやって生きてきたのやら……
「それじゃ、またな」
「うん」
俺は、白石さんの住む高級マンションの前で別れた。そうして俺も、自分の住むマンションへと入るために、わざわざ大回りしていったのであった……反対側に渡る横断歩道遠すぎるぜ……
「今月は節制だな……」
一人寂しい部屋で、俺は呟いた。
それにしても、今日は意外と白石さんは喋っていたような……その代償として、芳野は喋らなくなったが。これもまた成長かね……
——とまあそんなことはどうでもいい。すごくどうでもいいのだ。もっと危惧すべきことがある。それは——
「胃が……胃が死にそう……」
明日は塩分を控えるとか、そういった次元ではない。それ以前に、明日飯を食えるかどうかという問題が浮き上がってきた。それぐらい俺の胃袋が限界を迎えているのである……
帰り道もだったが、家に着いた瞬間さらに来やがった……
もうしばらくはラーメンはいらねえ。絶対に誘われても行ってやらないからな!じゃなきゃ俺の財布と胃袋がもたない……
「だがまあ、美味かったな。半年は行きたくはないが……」
第八話 ラーメンにはスパイスを振らなくてよいのですが……
いかがでしたでしょうか。私は、「なんこれ……」と思いましたね。はい。
分かりにくいですが、一応前回の続きではあったりします。その割には話のつながりがほとんどないですよね。前回は、何も考えずにとりあえず急ぎ、書いたものだったので……
いやーほんとね、時間とネタがたりないですね。今回の話を二回に分けることも考えたのですが、さすがにやめました。ただでさえまともなオチがないのに、二つに分けたらね、もうおしまいですよ。
一回の内容を薄くして、毎週投稿するか、毎週は捨てて密度を取るかで悩み、後者を選びました。
とまあ、色々苦労しながら書いてますので、気長に、優しく、大きな器を持って見守っててください。もっともっと小説について勉強頑張るぞー!
以上、第八話のあとがきでした。
次回、第九話 タイトル未定
内容 未定
投稿日 未定
よろしく!




