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淑女として頑張ります  作者: tsuki_☆
7/7

6話

部屋を出て、廊下を歩く。


(……許可、もらえた)


 条件付きではあるけれど、それでも大きな一歩だ。


 自然と足取りが軽くなる。


 そのまま角を曲がったところで、ちょうどアンナと目が合った。


「お嬢様」


「アンナ、ちょうどよかったわ」


 私は小さく微笑む。


「少し手伝ってもらってもいいかしら?」


「……手伝い、でございますか?」


 わずかに首を傾げるアンナ。


「ええ。掃除と、少しの修繕を」


 一瞬だけ、間。


 アンナの表情に迷いが浮かぶ。


 けれどすぐに、静かに頭を下げた。


「かしこまりました」


 ◇◇◇


 最初に向かったのは、使われていない書庫の一角だった。


 扉を開けた瞬間、わずかに埃の匂いが漂う。


「……やはり、ここもね」


 本棚には薄く埃が積もり、窓も曇っている。


「アンナは、棚の上のものを軽く整えてくれる?」


「はい」


 アンナが動き出すのを横目に、私はそっと息を整える。


(あまり目立たないように、自然に)


 意識を空間に広げる。


 埃の位置、空気の流れ、湿気。


 ひとつひとつを把握する。


「……整え」


 小さく呟く。


 すると、棚の隙間に溜まっていた細かな埃が、ふわりと浮き上がり、音もなく一箇所へと集まっていく。


 アンナの手が、ぴたりと止まった。


「……お嬢様」


「何かしら?」


 振り返ると、アンナがこちらを見ている。


 けれどその視線は、私ではなく――空中に集まった埃に向けられていた。


「いえ……」


 言葉を飲み込むように、首を振る。


「続けてちょうだい」


「……はい」


 アンナは再び手を動かし始めたが、その動きは先ほどよりも少しだけ慎重になっていた。


(見えているわよね)


 けれど、止めはしない。


 隠しきる必要もない。


 ただ──騒ぎにならなければいい。


 集めた埃を窓際へと寄せ、小さく外へと流す。


 そのまま、窓へ視線を向ける。


「…綺麗になれ」


 薄く曇っていたガラスが、すっと透明さを取り戻す。


 差し込む光が、ほんの少し強くなった。


「……すごい、ですね」


 ぽつりと、アンナが呟く。


 私は少しだけ肩をすくめる。


「便利でしょう?」


「はい、」


 けれどその声は、どこか戸惑いを含んでいた。


「アンナ、このあたりに他にも気になる場所はある?」


「……っ、はい!」


 一瞬遅れて、声が返ってくる。


「この先の廊下も、少し……」


 ◇◇◇


廊下を歩きながら、私はふと足を止めた。


(……これ、少しずつやっていたら終わらないわね)


 視線を巡らせる。


 まだ手の入っていない場所が、いくつもある。


 アンナもそれに気づいたのか、不安そうに口を開いた。


「お嬢様、ここが終わり次第今日は…」


「いいえ」


 私は小さく首を振る。


「全部、やってしまいましょう」


「……え?」


 アンナの動きが止まる。


 私は静かに目を閉じた。


(出来る。……やれるはず)


 意識を広げる。


 廊下、部屋、天井、床。

 この屋敷全体へ。


 空気の流れ。

 埃の位置。

 歪みや劣化。

 記憶にある“以前の屋敷の姿”との差をなぞり…


 すべてを“掴む”。


「……っ」


 身体の奥が、ぞくりと震える。


 魔力が、一気に巡る。


「お嬢様……?」


 遠くで、アンナの声。


 けれどもう、意識はそこにはない。


「──整えなさい」


 その一言。


 次の瞬間。


 空気が、変わった。


 屋敷全体に、見えない波が広がる。


 壁の歪みが戻り。

 床の軋みが消え。

 埃が一斉に集まり、消えていく。


 軋んでいた扉が静まり、

 曇っていた窓が光を取り戻す。


 まるで───


 最初から壊れてなどいなかったかのように。


 すべてが、“あるべき形”へと整えられていく。


 静寂。


 そして。


「……終わり」


 ゆっくりと目を開ける。


 世界が変わったかのようだった。


 隣でアンナは言葉を失っていた。


 一歩踏み出した瞬間、わずかにふらついた。


 その揺れに気づいた瞬間、アンナが駆け寄ってくる。


「お嬢様!もう、お休みになって下さい」


「ええ、そうね。少し休むことにするわ」


(……ちょっと、やりすぎたかも)


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