特訓と成長
ニーヴェルン『オラオラオラァ!遅すぎる!真面目に走らないならもう100周追加したろかオラァ!』
ヘイリィ「真面目!真面目に走ってますぅ!!」
ニーヴェルン『ほう。喋れるとは余裕じゃねーか!200周追加ァ!』
ヘイリィ「ひぃぃぃぃ!!!」
砂浜に鳴り響く怒号。巻き荒れる砂。ヘイリィの修行は朝のランニングから始まる。基礎体力と足腰の強化の為、そして折れない根性の獲得の為とにかく走りこむ。
そして限界まで体力を使い切ったら次は体術の指南。ひたすら投げ飛ばして、まずは受け身と身のこなしを学び、夜は魔法の勉強。マナ理論の基礎から魔素応用学に至るまで徹底的に叩き込む。それをひたすら繰り返す!毎日毎日雨の日も風の日も嵐の日も…。これが勇者養成☆地獄のニーヴェルンキャンプのSTEP①。
ふふふ…これを乗り越えたら更なる…ふふふ…
すでにこの修行を初めて数日が経過した。最初は筋肉痛がどうのつらいの苦しいだの泣きながらわめいていたが、今はその余裕すら無くなってきたらしい…。夜の勉強も大人しく授業を聞くようになった。ランニングも徐々に走れる距離が長くなってきてるし、体術ではなんとか受け身が様になってきてる。楽しくなってきたぞコリャ…ふへへ…
ウェンリィ「ヘイリィ…」
修行にあたって一番大変だったのが姉のウェンリィの説得だった。ヘイリィが少しでもへこたれると「もう辞めていいんだよ」とか囁いたり、私に怒鳴ったりそれはそれは忙しかった…。
でもさすがにそれでも修行に食らいつくヘイリィの姿を見てウェンリィの考え方も少しづつ変わってきてる。
ニーヴェルン『結構頑張るもんじゃない?ねぇ?』
ウェンリィ「そう…ですね…いつものヘイリィならとっくに…いえ…これがヘイリィ本来の姿なのかもしれません。私は…妹を助けているつもりでヘイリィの自主性を奪っていた。枷…か…。あなたの言う通りですね。」
ニーヴェルン『見守る愛のカタチもあるって事よ』
ウェンリィ「少し…寂しいです…あの子がこんなに頑張ってるのに…喜ばしい事のはずなのに…どんどん遠くなっていくような気がします」
ニーヴェルン『ずっと変わらないものは無いものよ。永遠のものなんて一つもない。それは私も同じ。神だって不滅では無いし万能じゃないわ。日々変化する時の中でヘイリィちゃんは変わる事を選んだ。
実はね、私があなた達と出会ったあの日、ヘイリィちゃんは泣きながら言ったの
「強くなりたいです」
ってね。あれは土壇場でついた嘘じゃない。心の底からの叫びだった。だから私もそれに答えた。あなたも答えてあげてほしいな』
ウェンリィ「そうなんですね…私も…変わらなきゃならない時かもしれません」
ニーヴェルン『そうかもね…そうだ!あなた私の巫女になる気ない?』
ウェンリィ「巫女?何です?それ?」
ニーヴェルン『簡単に言うと勇者とは違うベクトルの力よ。私の代わりに大地に恵をもたらしたり、信仰を広めたり。まぁなんかそんな感じ』
ウェンリィ「ざっくりすぎてよくわかんないですが…それになればヘイリィの力になれますか?」
ニーヴェルン「なるかもね。その役割に意味を持たせられるのは本人次第だから」
ウェンリィ「なんですかそれ?はは…やっぱりなんだかよくわからいですが…その大役、是非お受けさせて頂きたいです」
ニーヴェルン『いいね!その答えをまってました!宜しくねウェンリィちゃん!
…ってオラァ!何サボっとんじゃあ!見てねぇとでも思ったかぁ!!!』
ヘイリィ「ぜぇ…ぜぇ…ひいぃ…助けてお姉ちゃ~~~~ん!!!」
日はまだ高い、一日は始まったばかりである。
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一方そのころイマジニア大陸西部。
スカラル皇女の拘束を半ば強引に抜け出し旅に出たロイ。特に目的地の無い放浪の旅である。目的地は無いが使命は明白だ。道中魔物を倒しながらカレラの支配領土を広げ、豊穣の地を増やしている。
爬虫属の男性「おお…勇者ロイ様…ありがたやありがたや…」
ロイ「これでしばらくしたらあなた方の主食の虫類も繁殖してより豊かになるだろう。それまでしばらく辛抱してくれ」
爬虫属、もともと屈強な戦士の種族だが深刻な飢饉が続き皆見るもみすぼらしいやせこけた姿に、主食となる虫が育たないのが原因だ。
やせた地でわずかに育った草葉を食い飢えをしのいでいた…。
これまで立ち寄った村はどこも同じ状況だ。とにかく少しでも多くの人を救うため俺とカレラは奔走している。
カレラ(ん?おお!オイ!あの丘の頂上に大きな岩が見えるであろう?あそこに立ち寄れ)
ロイ「ん?何でだ?何があるんだ?」
カレラ(説明が面倒だ、いいから立ち寄れ!)
カレラが指定した場所はここから徒歩で2日ほどかかりそうな場所にあり、途中崖や崩れそうな岩場があり険しい道が続きそうな場所にある。
ロイ「いや軽く言うがあそこまで行く方が面倒だろう?…それより次の村に行きたいのだが?」
カレラ(貴様!我にいちいち歯向かうのを止めよ!黙って言う通りに行け!行け行け!)
ロイ「ハイハイ…」
クソムカつく…こいつだんだんあのダ女神様に似てきやがる…。
そういやニーヴェルン様は今頃どうしているだろうか?
そんな事を考えながら次の目的地に向かい歩を進めていく。
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ヘイリィの訓練を初めて2週間が経過した。
成果のほどは…まぁまぁまぁまぁ…元々の身体能力が低かったから仕方ないでしょう。それでもギリ魔物と戦えるようにはなってきたんではなかでしょか?基礎体力は十分に育ってきた!剣術はイマイチだけど鈍器持たせて適当に振り回させれば何とかなるでしょ。
あとは本人次第なんだけど…怖がりな性格はどうしようも無い!
そろそろ実戦に放り込んでみるか…ふふふ…。
ゾクっ!
砂浜で走り込むヘイリィに強烈な悪寒が迸る。額から滴る冷や汗、全身に浮き立つ鳥肌。何か嫌な予感がする!
恐る恐る鬼教官の方へと目線を移すと薄ら笑いを浮かべるニーヴェルンがこちらを見つめている。瞬間ヘイリィは悟った!これから恐ろしい事が起こる!身の危険を察知した彼女はランニングを放り出し全身全霊をもってニーヴェルンにすがりつく。考えるまでもなく体が動いた。まさしく生存本能によるものだ。
ヘイリィ「お願いしますぅ!後生ですぅぅ!命!命だけはぁ!!!」
ニーヴェルン『(こいつ何かを察しやがった!)なーに言ってんのヘイリィ!死にゃしないわよ!』
ヘイリィ「や…やっぱり…死にはしないギリギリの事をしようとしてるんですねぇ?!?!やだぁ…嫌ですぅ!!!」
こいつ…占いの才能があるのはわかっていたけど勇者の加護を授けて覚醒しつつある。最近勘が鋭くなって軽い未来予知のような事ができるようになってるみたい…。まだ本人に自覚は無いようだけど。
ニーヴェルン『大丈夫ダイジョーブ!ちょーと海に散歩に行くだけよー!ほほほ♪』
そう言うとヘイリィの首根っこを掴み、もの凄いスピードで海の底のさらに深い場所へと突き進む。
ヘイリィ「ぎゃあああぁぁぁ!!!嫌ぁぁぁぁぁぁ…!!!!」
ヘイリィの悲痛な叫びが遠のき消えていく。砂浜に残されたのは砂煙だけだった。
…
……
………
深海。それは生き物にとっては最も過酷な環境。光届かぬ暗黒の中で、全てを押し潰さんとする水圧に耐えられる命しか存在する事を許されない。
もちろんヘイリィ達半魚族も耐えられる環境では無いがヘイリィは別だ。加護の力で身体能力が強化された神に選ばれし者の一人。勇者なのである。
ニーヴェルンの引きずり回しに白目を向いて気絶している彼女こそ…勇者…なのである。
ニーヴェルン『まぁこの辺でいいか!おーい!起きなさーい!』
ヘイリィの頬を軽く叩く。
ヘイリィ「へぁ!…こ…ここは…?」
ニーヴェルン『さぁさぁヘイリィちゃん!地獄の特訓STEP②の始まり始まりぃ♪この視界も悪い状況で魔物を3匹倒すまで帰れまテン!』
ヘイリィ「えぇぇ…無理ですぅ無理無理無理…!」
ニーヴェルン『だまらっしゃい!ちゃーんと見ててあげるから!見てるだけだけど』
ヘイリィ「でもでも…なんにも見えないし…なんにも持ってないし…魔物なんて…わたしには…」
ニーヴェルン『確かに!武器がないとね!』
ヘイリィ『へ?』
そういえば忘れてた!どんな戦士でも獲物が無いと始まらない!という事で武器をおぜん立てしてあげよう!さてどんな武器にしようか。今の彼女にふさわしい武器…。適当にぶん回しても様になるような巨大な大剣…いや戦槌がいいかもね。刃の扱い危なっかしいし。素材は…その辺の岩とかでいいか!
ゴゴゴ…
海底の岩が浮き上がり、みるみる形が圧縮されハンマーの形に成形される。柄が人丈ほどもあり、頭には岩の塊を携えた何とも武骨な戦槌だ。
ニーヴェルン『練習用だしこれでいいか。そうそう壊れないでしょ。はいコレ持って!』
できたばかりの戦槌をヘイリィに手渡す。ずっしりと重い戦槌を受け取りこれから自分の身に起こる事を飲み込めないのかあたふたしているようだ。ふふふ…気づいていないようだけどその戦槌…とんでも無く重いから!普通だったら持った瞬間海底に体ごとめり込むくらいに…しっかり握れてるって事は腕力は元より、それを持った状態で平然と泳げるぐらいの足腰!全身の筋肉が以前と比べ物にならないくらいに強化されている!いいわねぇ!楽しくなってきた!
ニーヴェルン『さぁ準備は整ったね!たった3匹!チャチャっといってみよう!』
ヘイリィ「無理ですよぉ~!!!」
どこかの海の底でヘイリィの悲痛な叫びが響きわたる。しかしその叫びが届いた相手は傍観する鬼教官と密かに迫りくる魔物だけであった。




