創世の女神ニーヴェルンの失敗
彼女は覗き込む。両手で包み込む暗闇の中を。
暗く、冷たく、何もない虚無の中で時折淡く輝く混沌の光。
一つ一つ、丁寧に混沌をつまみ上げ、瓶の中につめてゆく。
瓶の中でやがて混沌は引かれ合い、混ざり合う。
『生まれなさい世界よ。芽吹きなさい命よ。』
瓶の中で混沌はさらに溶け合う。激しく火花を散らしながら深く深く結合してゆく。
長い長い時をかけ、そうして世界は生まれた。
『愛しき世界よ。命の欠片が今だ目覚めぬ生まれたばかりの世界よ。そなたが目覚めるその時まで、私はしばしの眠りにつきましょう。』
それから長い時が過ぎた。いくつかの光は命を宿し、滅び、消え去るほどの長い時が。
悠久とも思える長い長い時が。
…
……
………
『あぁ…あ…ヤベ…寝すぎた……』
鳴り続ける目覚まし時計を止め、半分寝ている脳みそを無理やり覚醒しようとするが体はまだまだ寝足りないようだ。
『あ~…頭ガンガンする…。昨日頑張り過ぎたわぁ…やっぱ徹夜はするもんじゃないね。。。』
ニーヴェルンはボサボサに羽上がった寝癖頭をかきながら布団をかきわける。
そう、昨日は頑張った。世界の創造には膨大な力を使う。全神経を集中させる繊細な作業が必要なのだ。
昨日はあとちょっと終わるってタイミングでテンション上がって数十億年分ぶっ続けの作業だった。その上作業後の達成感と解放感から、しこったまお酒も飲んだ。そして現在、ひどい二日酔いに襲われ上手く身動きが取れない状況だ。
そりゃあ、まぁ寝坊ぐらいしますよ。神様だって息抜きぐらいしますよ!私は悪くない!!
『さてさて!可愛い可愛い私の世界ちゃん?さすがに命は芽生えてるでしょー!どれどれぇ…』
『ん?』
『んん??』
ビンの中の世界を覗きこんで驚愕した。命が芽生えた形跡はいくつもあるのに尽く滅んでいた。世界全体がもう目も当てられないくらいボロッボロ…。
嘘やん…ありえへん…あんなん苦労して…嘘やん…。
動揺のあまり妙なエセ関西弁になってしまった。落ち着こう。とりあえず深呼吸…。あたま痛い、ポ◯リ飲もう…。
ゴクッ…あぁ~しみるわ~。はい!すっきりしたところで落ち着いてもう一度世界を見てみよう。
ゆーてね!ゆーてちょっとしか見てないから!世界の一部分しか見てないから!たまたま見たとこが悪かったみたいな?大丈夫だいj……。
『あきませんわこれは。』
正直ここまでとは思わなかった。
丹精込めて作った世界。私が創造神として独立し、初めて作った世界。ちょっと寝坊して出だしミスったけど、こんなんなる普通??
マナは枯れかけ、魂は汚れ、星々が崩れてる。
正真正銘まさしく死の世界。
本来は命の輝きに満ちた美しい世界が目の前にあるはずなのに…
「絶望」ってこの事なんだって初めて知った。
神という存在は人々の信仰があってこそ存在できる。管理する世界からの信仰の力が強ければ強いほど強大な力を発揮し、逆に信仰が無いとその存在を保てなくなる。つまりそれは神が死ぬと言う事だ。
神として生まれ、優しい両親の元何不自由なく育ち、ムカつく上司に媚びへつらいながら下積み時代を過ごして…そしてやっと!やっと独立できたのに。もはや新しい世界を創造する力は残っていない。
積んだ。
『ははっ…終わった…あっけないな人生って……ヒグッ…やだぁー…まだ死にだぐない…お゛がぁーさーん…』
それから暫く経ってひとしきり泣いたら今度は何かムカついてきた。ちょっと寝坊した位ですーぐ滅びやがって!そりゃあね!他の神はチマチマチマチマ世界が滅びないように、信仰を無くさないようにやれ勇者に神託を渡したり、大地に加護を与えたりしてますよ。えーえー偉いですねー!私がワルーございしたー!でもね!言わせて貰えるなら私ぁそこそこ神連中の中でも名の知れた存在な訳ですよ!天才って呼ばれてるんですよ!最年少創造神なワケよ!その天才がもう一部のミスも無く計算され尽くした調合で作り上げた世界がこんな脆い?どう考えてもおかしいでしょ?
『ふざけんらよぉ~このボケがぁ~…ヒック』
酒を片手に滅びゆく我が世界を壁に投げつけようとしたその時、自分の手の中の、世界の片隅に淡く光る命の輝きが目に入った。
『んん?…これは…』
それは弱く、吹いてしまえば今にも消えてしまいそうな命の光。
『ニーヴェルンちゃん延命チャンス☆キターーーー(゜∀゜)ーーーー!!』
よし!やった!ラッキー!ひとつだけまだ滅亡してない星があった!しかも文明が芽生えてるぽい!しかもこの星には魔素がある!
魔素があるって事は精霊の力も強いはず!マナを精霊に渡せば効率的に生態系を復活させる事が出来るはずだ。
でもこの星…人々は残された資源を奪い合い争いが続いている。大地のマナは残り少なく、植物も枯れかけ、おまけに既に滅亡した汚れた魂がこの星に流れ込み魔物として発生している。このままだと滅びるのは時間の問題だ。すぐにでも応急処置をしなければヤバい。
『えーっと…こんな時まずは各大地の精霊にコンタクトをとってマナを渡す…いやそれより勇者を選定して神託を与え戦いを終わらせるのが先かな?そしたら魔物への対抗手段になるし…いやでもそれだと時間が掛かりすぎるかも…私の今の残された力で同時に2つやっちゃったらどっちも中途半端な感じになる可能性も…』
そう私の力はそう残されていない。情けない話だが両方は現実的に無理だ。
冷静にやるべき事の過程と結果をまとめると
①大地にマナを注ぐ→その土地の命が活性化し、生態系が復活する。
②勇者を選定し神託を渡す→戦争の早期集結。さらには魔物への対策になり、英雄となれば私への信仰を集めてくれる伝道師になる可能性もある。
③魔物への対策として聖獣を作り出す→魔物は命を食らうだけで何も生み出さない厄介な存在。対抗手段として勇者だけでは弱い。聖獣を作れば一気に殲滅できるしその後の世界の管理も任せられる。
④勇者とは別に神託を与える巫女を選定→①~③をするために信仰を集める必要がある。私の言葉をスムーズに浸透させる影響力のある者を選ぶ必要がある。
う~ん…こうして考えるとどれも結構時間が掛かる…その間に私の力が底をつく可能性もあるし、先にこの世界が滅びる可能性もある。
この中だと①と④は急務なんだけど②も早々に手を打ちたい…
信仰を早急に集め力を取り戻し、同時に大地にマナを注げるだけ注いで食料問題を解決。速攻で戦争を集結させ、一致団結して魔物を殲滅…
あれをやるしか無いか…
神の最後の手段。禁じ手中の禁じ手。
もうこれやったら他の神連中に恥ずかしくって飲み会の席で超笑われるくらいの最終手段!
もはや恥も外聞もありませんしね!そんな事言ってられないし!
『よし!ちょっくら降臨しちゃいますか!!』




