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第32話 『クラウナ・メモリア、記憶迷宮の第一門』

空に浮かぶ巨大な王冠型構造体――それが、夢の記憶冠〈クラウナ・メモリア〉だった。


星都セレファイスの空の裂け目を越え、ユイたちはその中へと足を踏み入れる。そこは世界でも宇宙でもない、“記憶の深層”と呼ばれる領域。すべてが浮遊し、時間の流れが存在しない、不確かな空間だった。


「ここが……記憶の迷宮……?」


ユイは足元の雲のような道を踏みしめながら、小さく呟いた。


周囲はまるでガラスのかけらで構成された宇宙空間のようで、上下左右の概念が曖昧だった。遠くに浮かぶ破片には、人々の笑顔、戦いの残響、幼き日の景色などが映り込んでいる。


「この空間に入った時点で、それぞれの記憶は混ざり始める。注意して」


ユーマ=フラウネスが静かに言った。彼女の鎧が淡く発光し、この不安定な空間でも重心を保っていた。


「目に見えるものは“記憶の残像”。触れることで反応が起きるわ」


一歩遅れて浮遊してきたノエルが、隣で不安そうにユイの手を握った。


「ユイ、もし途中で私のことがわからなくなったら――」


「わかるよ、絶対に」


ユイは力強く微笑んだ。どんな記憶に包まれても、ノエルの手の温かさだけは間違えないと、そう信じていた。


そのとき、突如として眼前の空間が脈動し、記憶の粒子が渦を巻いて集まり始めた。


「来る……“第一門”だ!」


ユーマが前に出て構えると、空間の一点が扉のように開き、そこから霧のような存在が現れた。


その姿は――**幻獣機〈エクリュ・ネブラ〉の影**。


「また……あの幻獣……!」


生翔機が警戒の声を上げ、宙を旋回する。だが、この“影”は前回のような物理的な敵ではなかった。記憶そのものが具現化した“記憶残響体”だったのだ。


《存在証明、開始――》


機械音のような低い声が空間に響いた。


《ユイ=アカツキ。記録対象:観測中。未生区間への通行、暫定許可。検証記憶を提示せよ》


「……記憶の提示?」


その瞬間、ユイの足元に光が走り、景色が一変した。


気づくと彼女は――一人だった。


誰もいない、白い部屋。天井は見えず、壁もない。ただ床だけが広がる異空間。


「ノエル……?ユーマ……!?」


叫んでも声は吸い込まれていくだけで、返事はなかった。


そして目の前に、鏡が現れる。


その鏡の中には――「ユイではない少女」が立っていた。


長い黒髪、燃えるような赤い瞳。だが、顔立ちはユイと似ている。


「……誰?」


鏡の中の少女は、ゆっくりと口を開いた。


《私は――君の“もう一つの可能性”。》


そう言うと、彼女の背後に映像が広がる。


燃え上がる世界。崩れ落ちる天蓋。黒紫の獣が空を引き裂き、終焉を告げる。


そして、その獣の前に立ち尽くす“赤い目の少女”。


「これ……未来……?」


《そう。君がかつて“見た”未来。そして、今なお閉ざしている真実》


映像の中で、黒紫の獣――**バルザ=クライムス**が叫ぶ。


《未生の扉を超える者よ。我と共に、全ての記憶を喰らい尽くせ!》


「やめてぇぇぇぇ!!」


ユイが叫んだ瞬間、鏡が砕けた。


破片が空間を舞い、再び周囲の景色が変わる。ユイは両膝をつき、息を荒げた。


そして――目の前に手を差し伸べる人物がいた。


「大丈夫、ユイ。ここは“第一門”。まだ始まりに過ぎない」


ノエルだった。彼女は少し泣きそうな顔で、でもしっかりとユイの手を取った。


ユイはようやく立ち上がる。足元は不安定だったが、心は少しずつ整ってきていた。


「私は……私を信じる。もう、目を背けない」


その言葉に応えるように、空間が再び開いた。


先ほどの幻獣機の影が退き、次の階層――**「第二門」への扉**が見えてくる。


だがその手前、扉の脇に――一人の少年が座っていた。


「君たち……もしかして、“外”から来たの?」


黒いフードを被ったその少年は、記憶の海に長く閉じ込められていたかのように、どこか人間離れした気配を纏っていた。


「君の名前は……?」


そう尋ねると、少年は微笑んで、こう答えた。


「僕の名前は、**セラ=ノヴァ**。“十三の導”の一人さ」


ユイたちは息を呑んだ。


十三の導――九聖龍を超える存在。その一人が、いま目の前に現れた。


物語は、記憶の迷宮の奥へと進む。


つづく

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