ユリア・ランダースの処刑(優香と恵理子)
翌朝、
トントントン。
「リーシャ、起きてる? 朝だよ」
優香がリーシャの部屋のドアをノックしても、返事は帰って来ない。リーシャは出て行ってしまったのだろうか。
優香と恵理子は一階の食堂に降りる。
「おはようございます。ご主人様!」
優香と恵理子が固まる。
そこには、猫耳のカチューシャをしたメイドがいた。
「り、リーシャ?」
「はい。本日より、メイド兼護衛としてお勤めさせていただきます。リーシャです。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「リーシャ、いいの? やることとか行くところとかあるんじゃないの?」
「いいのです。私、しばらくタカヒロ様とマオ様に付き従うことにしました。どうぞ、末永くよろしくお願いいたします」
「なんだよ、末永くって」
「タカヒロ様には裸も見られましたし、もう、お嫁にも行けませんし、責任を取ってもらわないと」
あはははは、恵理子が笑う。
あはははは、リーシャが笑う。
あはははは、優香が笑う。みんなが笑う。
こうして、優香と恵理子は、仲間を増やしながら、しばらくは王都から名前を広めていくことにする。
タカヒロの名を。マオの名を。クサナギの名を。
千里に、桃香に、真央に、そして貴博に会うために。会えるまで。
数日後、優香と恵理子、そしてリーシャが散歩をしていると、闘技場がなにやら騒がしいことに気づく。
「何かイベントでもあったかな」
と、街行く人に声をかける。
「何言ってるんだ。知らないのか? 騎士団長が宰相と近衛騎士を殺したんだ。裏切りだ。だから公開処刑をされるんじゃないか」
「騎士団長が? 公開処刑?」
「そうだ。武闘会の翌日に、犯行に及んだらしい。理由はわからんが、本人が認めているから事実なんだろうな」
「教えてくれてありがとう」
「タカヒロ……」
リーシャが不安そうな顔を向ける。
「わかってる。君をかばっているんだろう。どうする?」
「決まっている。私は助けたい」
優香と恵理子は目配せをしてうなずく。
「リーシャ。ごめん。帰っていてくれる? 君を疑われたくないんだ。アリバイ作りのために、家にいるか、もしあれなら、ギルドとか目立つところにいてくれてもいい」
「二人は?」
「僕らが助けてくるよ」
「そうしたら、二人が!」
「僕らには策がある。大丈夫。信じて」
「……だけど」
「僕らとしては、君が疑われる方がめんどくさい。だから、任せてほしい」
「わかった……」
と、リーシャはこの場を離れた。
優香と恵理子が闘技場の観客席へと入ると、闘技場の真ん中ではりつけにされているユリアを見ることができた。
その前には、槍を持ったフルプレートメイルの騎士が二人、並んでいる。その後ろには、同じく騎士団の恰好をした騎士が並んでいる。
一人の騎士が手をあげると、フルプレートメイルの騎士が槍をかまえる。
「マオ、やばい。もう始まる」
「じゃあ、私、遠隔で魔法を撃ちこむから、攫ってきてね。待ち合わせは家で。はい。これ、ポンチョ」
「ありがとう」
「じゃあ、行くわよ。三、二、一。(ファイアワークス)」
恵理子は、ユリアの真上、上空に魔法で花火を破裂させる。
ドォン! ドォン! ドォン!
何発も何発も。
誰もの視線が晴れた空に広がる花火に向かったところで、優香がユリアのところへ最大速で突っ込む。
それを確認した恵理子がさらに、
(ファイアトルネード)
と、ユリアの周りに無詠唱でファイアトルネードを撃ちこむ。
観客席も、騎士達も騒ぎが起こる。誰もが何が起こったかわかっていない。処分されるユリアが炎に包まれた。
その炎の中。
「ユリア、助けに来た」
「お前は?」
「いいから、どさくさに紛れて行くよ」
ファイアトルネードの中は誰からも見えない。
優香はユリアが結ばれているロープを切り、ユリアを開放する。
「それじゃ、このポンチョをかぶって」
と、ユリアにそれをかぶせ、ユリアを背負う。
「ちょっと熱いかもだけど、我慢してね」
ドドドドドドドドド!
と、恵理子が花火大会のフィナーレのごとく花火を破裂させたところで、優香はファイアトルネードから再び最速で飛び出した。
それを感じ取った恵理子は、ファイアトルネードをユリアがいたであろう所を中心に凝縮、高く高くしていく。そして、霧散させる。
すると、ユリアが磔にされていたところにあった何もかもが燃えてなくなっていた。
「さて、私も逃げなきゃ」
と、恵理子もそそくさと闘技場を後にした。
「お待たせー」
恵理子が家に帰ると、ミーティングルームには優香とユリアがいた。
「おかえり。お疲れさまだったね。魔力は大丈夫?」
「うん平気。リーシャは?」
「今、アリーゼ達が迎えに行ってる」
「ところで、気づかれてない?」
「こっちは大丈夫。そっちは?」
「ユリアが磔になっていたところは消し炭にしてきたから、たぶん、ユリアも燃えたと思われてるんじゃないかな」
「ごまかせていたらいいけどね」
「なあ、なぜ私を助けた?」
ようやくユリアが声を発する。
「リーシャに頭を下げてくれたでしょ。だからよ」
「それだけでか?」
「あなたなら、リーシャと仲良くできるんじゃない? 種族を超えたそう言うの、好きよ」
「って言うかね、僕らにはそういう区別意識? 差別意識? っていうの? 全くないんだよね。男とか女とか、人間とか魔族とか、どうでもよくない? 差別とか蔑みとか気持ち悪くって」
と、恵理子と優香が言う。
「そうか。そうだな」
「ただいま」
リーシャが帰って来た。
リーシャはユリアを見つけると、ダッシュしてユリアの胸に飛び込んだ。
「あなたは、死んではダメです。お願いします。そして、魔族をかばってくれてありがとうございます」
と。
「そうか。私は死んではダメか。そう、魔族が言うのか。いや、違ったな。リーシャが言うのであれば、まだ死ねないな」
「ところで、ユリアさん?」
優香が声をかける。
「ユリアでいい」
「ユリア、どうやって生きていきます?」
「……」
ユリアは、ピンクグレージュの美しい髪でかなり目立つ。
「よし、リーシャとおそろいで猫耳をつけましょう」
ミリーが提案する。
「え? 私がか? 私が猫耳だと?」
ユリアが顔を赤める。
「無理だ。絶対に無理だ。それは勘弁してくれ」
「いいじゃないですか。私とおそろいです。ペアルックです」
「そういう問題じゃない。そうじゃない。私がいくつだと思っているんだ」
「年齢の問題でもないと思いますよ。そんなこと言っていられないと思いますけどね」
「わかっている。わかっているが、元騎士団長だぞ。それが猫耳?」
「まあ、冗談です。ですが、最低限、その美しい髪をかつらとかで隠して、私と同じ仮面をつけてくださいね」
「外だけでいいのだろう?」
「ばれなきゃいいです」
「わかった」
「名前は、ブリジットなんてどう?」
「それでいい」
「ミリー、それじゃ、メイド服も」
「メイド服?」
「木を隠すなら森の中ですから」
「……わかった」
「メイド服は最強ですよ。スカートに武器を仕込めますし」
「えっとだな、私が言うのか?」
「何をです?」
「おかえりなさいませ、ご主人様……」
あはは。
あははははは。
「なんで笑う!」
「いいじゃないですか、かわいいですよ」
「私は、私はだな、元騎士団長だぞ!」
あははははは。
「もう……」
ユリア改めブリジットが頬を染めた。




