スタート!~西に向かって真っすぐ進め!(千里と桃香)
優香と恵理子が旅立った、その一年後の春となる。
「バニーお母様をはじめパールの皆さん、ラミ様、ルミ様、マーレ先生にターレ先生、メイメイさんにシャオリンさんをはじめとしたメイドの皆さん。大変お世話になりました。私達は、普通の女の子に戻ります」
「なんで?」
千里のボケに桃香が突っ込む。
「だって、毎日毎日毎日毎日、戦闘訓練に明け暮れて、空に向けたメッセージをぶっ放して。それのどこが普通の女の子なのよ」
「そりゃそうですけど」
バニー達は苦笑いをしている。
「千里、桃香、あなた達には目的があるのでしょう? あきらめずに、頑張りなさい」
バニーが二人に声をかけた。
「はい。ありがとうございます」
「頑張ります」
「千里様、桃香様、こちらがグレイス様よりの餞別になります」
メイメイが千里達に旅の道具類を渡す。
「おー、リュックに着替えに食事に、野営道具? それと、武器か」
「こんなに持てるのですか?」
「うーん」
そう言って悩む二人にラミとルミが近づく。
「私達から二人にはこれを」
と言って、ラミとルミは一人に一つ、卵を渡す。
「何、この卵。非常食?」
卵が一瞬ぶるっと震えた。
「何か震えました」
「あの、非常食ではありません。魔力を注いでみてください」
千里と桃香は卵を両手で包み、魔力を注ぐ。
すると、
ピシッ、ピシピシッ
「あ、割れそう」
「これなにが羽化するんですか?」
「「羽化?」」
ラミとルミが首をかしげる。
「「え?」」
「ま、まさかヘビとかトカゲじゃないですよね?」
「亀ですか?」
「違うわよ。ほら、そろそろ」
パカッ!
「「キュイー」」
「うわ! かわいいー」
「なんですこのかわいらしさ!」
「これ、フェネックじゃない?」
「そうですよ、この耳の大きさ、目の大きさ、しっぽのふわふわかげん」
「あれ、フェネックって、卵から?」
「フェネックが何かわかりませんが。それは、一種の魔獣です。しかも、私達ハイエルフの管理下で育てられている、特別な魔獣です」
「え? そんなすごそうなの、もらっちゃっていいの?」
「いいのですよ。あなた達になら」
「ありがとう! ラミ様、ルミ様」
「……」
「どうしたの桃ちゃん」
「えっと、荷物、増えましたね」
「そのためのその子達です。お願いしてみてください。大きくなれと」
「大きくなって」
千里がフェネックにお願いする。
「……」
「「……」」
「ならないじゃん!」
「あ、ごめんなさい。名前を付けてあげてください。それで、飼い主と従者のつながりが出来ます」
「そうなんだ。じゃあ、えーっと、キキ!」
「じゃあ、私は、ララ!」
「「うわっ」」
「魔力持っていかれたー」
「びっくりしました」
「それじゃ、お願いをしてみてください」
「キキ、大きくなって」
すると、キキは二メートルほどにも大きくなった。
「ララもお願い」
ララも同じように大きくなる。
「ねえ、荷物運んでくれるの?」
「「キュイ」」
「ありがとう! いい子だね」
「ほんと、かわいい」
「千里、桃香、その子達の使い方ですが」
「使い方? 飼い方じゃなくて? 大きくなったり小さくなったりだけじゃないの?」
「今、魔力を吸われたかと思いますが、逆に出すこともできます。つまり、魔力タンクとしても使えます。ただし、魔力が尽きると死んでしまいますので、気を付けてください」
「そういうの、ちゃんと教えて」
「それと、お二人とつながりができたので、お二人がイメージした魔法を使うことが出来ます。つまり、戦力としても使えます」
「すごいね。君達」
「ですが、怪我をすると、他の生物と同じように死にますので、気を付けてください」
「「はーい、気をつけます」」
二人は荷物をまとめ、キキとララに背負わせていく。
「まだ大丈夫?」
「「キュイ」」
「あ、ラミ様、この子達のご飯は?」
「千里達と同じものを食べますよ」
「ラジャ」
「それじゃ、本当に今度こそ、お世話になりました。また会える日を楽しみにしています」
「私もです」
千里と桃香は、屋敷を背に走り出した。
「ねえ桃ちゃん。これからどうしようか」
「うーん、やっぱり、街に行くべきじゃないです?」
「そうよね。でも、どっちにあるのか」
「確か、過ごした家が最東端って言っていましたから、ひたすら西に向かえばいいんじゃないです?」
「西ねー」
二人は、西に向かって走り、そして、湖にぶち当たっていた。池ではなく湖。右を見ても左を見ても岸が遠い。対岸なんて、ずっと向こうだ。
「これ、どうしようか。回り道をする?」
「うーん。あれで行きませんか?」
「あれね」
「キキ、ララできる?」
「「キュイ」」
「いい子だ。じゃあ行くよ」
二人は足の裏の水を凍らせて足場にしながら走っていく。
キキとララも同じようにしてついて行く。
「水面をずっと向こうまで凍らせちゃって氷の道を作った方が速かったんじゃない?」
「速いかもしれませんけど、凍らす量が多くなるので、魔力がつらくなりますよ」
「そうだけどさ」
「めんどくさがらずに行きましょう」
「はーい」
二人と二匹は湖の上を走っていく。
すると、突然、
ザッパーン!
と、巨大なカエルがとびかかってくる。
「うぎゃー! 桃ちゃん、出たよ出た出た。カエルだよ。カラフルだよ。絶対に毒を持っているやつだよ。危険の色遣いだよ」
カエルは黄色と黒の縞模様だ。
「アイスバレットー」
ザシュッ!
桃香の放ったアイスバレットがカエルの頭を突き抜ける。
「さすが桃ちゃん」
「千里さんもやってくださいよ。次から」
「はーい? 次から? 桃ちゃん? ……囲まれたよ?」
水面に出ている目、目、目……
「うぎゃー。カエルキモイ、カエルキモイ、カエルキモイ……」
「えー、両生類って、あの目がかわいいんじゃないですか。でも、逃げますけど!」
「キキ、ララ、走ってー」
千里は先頭を走るが、その先をカエルにふさがれる。
「あーん、次から次へと……」
「千里さん、待って、助けて、後ろからもたくさん来ました!」
「うわー、キキ! 前方にファイアトルネード!」
「キューン!」
「ララ、後ろに同じくファイアトルネード!」
「キューン!」
ゴォーーーーー!
「キキ! ナイス!」
「ララ! ありがとう!」
カエルが火に焼かれながら、空に舞っていく。何匹も何匹も。
「はあはあはあ」
「やっと逃げ切りましたね」
「キキ、ララありがとう!」
「「キュイ」」
二人は対岸にたどり着き、湖を振り返る。
「あーあ、焦げ焦げのカエルが湖の景観を損ねてるよ」
「私達がやったこととはいえ、なんか申し訳ない気が」
「この湖、神様とかいないよね」
「お前たちが放置したのは金のカエルか銀のカエルか、とかですか?」
「そんなん、金に決まってるじゃんねー」
「あはははは、千里さんらしいです」
「さてと、西に向かいますか」
二人は、再び森へと足を踏み入れた。
それを見送る青髪青ワンピースの女性。手には焦げたカエルの足をもっている。
「もぐもぐもぐ。低温でじっくり焼かないから中が生じゃないか……」




