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【改稿版】ほむらの剣  作者: 神田祐美子
最終章 フレアと小さな恋の約束
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あれから3年の時が経った。



16になったフレアのもっぱらの関心事は、すぐそこに控えたデビュタントで、いかに華々しい社交界デビューを飾るか、ということである。


青蓮の王子は見つかっていない。そもそも乱蔵は探す気が全くないようだ。

むしろほむらの意識とどうにかして会話できないかと、そういうことばかりに力を入れているように感じられる。一応ほむらの言葉はちょくちょく伝えているのだが、乱蔵としてはどうしても直接会話したいということらしい。

ほむらがずっと頭の中にいるのは、いくら慣れたとてフレアとしても非常に厄介なことであるには違いないので、追い出せるものなら追い出したいからそれ自体は力を入れてくれても構わないものの、王子については最初からやる気がない。

フレアは不満たらたらであった。


『まあまあ、乱蔵も忙しいのだろうし』

「お婆ちゃんに会いたくて堪らないのよ。良かったわね、あんなに慕ってくれる孫がいて」

『はっはっは。可愛い孫だ、本当に』



心桜は、今はサクラという名前らしい。

レインの部屋で遭遇した時は本当に肝が冷えた。何でも彼に昔病気を治してもらったことがあったらしい。病弱だった彼女は、それ以来風邪もほとんど引かなくなったのだとか。

その礼がしたいからと、満を持して王都に来たサクラはレインの家を探り当てて転がりこみ、たまに掃除やら料理やら、身の回りのことを勝手にするようになったらしい。


まさか二人の間にそんな接点があったなど。

あれ以来、レインの家すら居辛くなって行かなくなった。



サクラにはどうやら前世の記憶はないらしい。ほっとはしたが、それにしても性格が以前とまるで違っている。冷淡で皮肉屋で、警戒心が強い。

なぜかカノンに対してだけ、その心を開いているらしいが。


(あの子はもう少し……いえ、まあいいか。私には関係ない。向こうも私を嫌っているようだし)


厄介なのは、サクラがちょっと元気そうに歩いているのを見るだけでほむらが泣きそうになってしまうことだ。前世の件があるから仕方ないと言えば仕方ないが、その感情に引っ張られてフレアまで泣きそうになってしまうから、本当に面倒くさいことこの上ない。

再会した時、乱蔵の時のように入れ替わらなかったのは奇跡だろう。


もう一つ厄介なことがある。サクラという名前だ。

アカツキ王国では珍しいこの名前。この世界の舞台となった小説の主人公は、確かサクラといったはずだ。

つまり、恐らく彼女こそこの小説の主人公なのだろう。


取りあえずサクラのことは徹底的に避けているし、ジークに恋するのならそれはそれでどうぞご勝手にという感じだし、気づけば小説の期限である16歳になってしまったが、断罪される気配はない。



とにかく今重要なのは、どんな素晴らしい社交界デビューを果たすか、ということだ。

ドレスはもうほとんど決めてある。ただ、相手がいない。いや、実際にはジークという相手がいるにはいるが、彼は社交界を嫌っており姿を見せることが一切無い。公の場でもベールで顔を隠しているくらいだ。人の目に晒されるのがとかく嫌なのだろう。


となると、このままではフレアはパートナーのいない惨めな壁の花となってしまう。

婚約者がいなければ兄弟か父親が相手となろうが、それもまずあり得ない。本当は青蓮の王子を連れていきたいが、見つからないのだから仕方が無い。

もういっそステラ辺りに男性になってもらって連れて行くかと、とち狂って性別転換の魔道具を購入してしまったが、どうやら安全性に難のある非合法のものだと気づいてからは棚の奥に仕舞っている。



「……何シケた面してんだ」

「別にシケた面なんてしてないわよ」


フレアは乱蔵が持ってきた団子を部屋で頬張った。温室ではサクラとカノンたちが楽しくティーパーティーをしている。


「あんたには一生縁のないことで悩んでいるのよ」

「ああ、ダンスの相手か」

「なんで知ってるのよ!!」

「この屋敷の奴らは全員知ってるぞ。ヤベえところからヤベえ魔道具を買ったとか、金払って相手を見繕おうとしてるだとか」


全部バレているらしい。顔がカーッと熱く火照り、フレアはそれを誤魔化すために勢いよく茶を飲み干した。


「…んな意味わからねえことしねえで、手近な奴らにでも当たりゃあいいんじゃねえのか」

「手近?」

「イグニスの坊ちゃんとか」

「ない」

「ルベルとか」

「ない!!」

「カノンとか」

「サクラがいるでしょ」

「じゃあシリウ――」

「だからないってば!そもそもルカは私のこと嫌ってるしルベルだって私にしょっちゅう腹を立ててるしシリウスに至ってはほとんど話したことないから!!!そんな相手がダンスなんて承知してくれる訳ないでしょうが!!!」


フレアは叫び、二杯目のお茶を啜った。

自分で言っておいて何だが、何年も一緒にいた割に全く心の距離が縮まっていないのは如何なものかとは思うものの、ルカとは複雑な関係にあるし、ルベルは主従関係、シリウスもどこか自分に距離を取っているのだから仲良くなりようもない。


「んな悪い関係じゃねえとは思うがな。ま、変な輩に相手を頼むよりは身元のわかってる奴の方がいいだろ。あいつら全員顔がいいじゃねえか。見栄えもするだろ。困ってるって正直に頼めば誰かしらやってくれるんじゃねえのか」


『うむ、さすが私の乱蔵!その通りだと思うぞ、お嬢さん』


「お婆ちゃんは黙ってて」





その夜、食事中にチラチラと思わせぶりな視線をルベルに送ると、「お腹が痛いんですか?ちょっと待ってください薬持ってきますから。乱蔵さんの団子を食べ過ぎたんでしょう?だから甘い物もほどほどにとあれほど――――」大変あり得ない誤解をされ、偶然遊びに来ていたシリウスに全く同じことをした所一瞬で顔を逸らされ、二度とこちらを見てはくれなかった。

サクラはいなかったが、ステラはいることだしカノンに同じことはできない。


ルカと目が合う。彼に思わせぶりな視線を送ったつもりはないが、ルカはなぜか顔を赤らめて恥ずかしそうに微笑んだ。

試しに、じっと見つめたらどうなるだろうか。そんな考えが頭を過り、フレアはじーっと、相手が逸らすまで見つめてみることにした。途端、ルカはおろおろと動揺し、裁判中の被疑者のように動揺し始めた。

よほどフレアの顔が怖かったのか。断罪を言い渡す裁判長にでも見えたのか。


「意気地無し!」


自分でも驚くような一言が口から漏れて、フレアは動揺を隠すように席を立った。

廊下に出てすぐ、名を呼ばれ振り返ると、真っ赤な顔のルカが後を追ってきた。いつもは気弱な彼の目が、その時はどこか違って見えた。






――――デビュタント当日。



フレアは真紅のドレスに身を包んだ。ライアは手際よくフレアの髪をセットし、ステラもそれを手伝う。あんなに侍女の仕事を嫌がっていたライアだったが、随分上手になったものだ。

三人でわいわい話している間も、心臓の方はどうも騒がしくていけなかった。胸が苦しい。コルセットをきつく締めすぎたせいだろうか。


玄関に出ると、すでにルカの姿があった。真紅のドレスを際立たせるような、黒いスーツ姿。

その顔は、あの夜のように火照っている。


ヒールを鳴らしながら、フレアはルカに近づいた。目の前で立ち止まり、顎を上げて視線を交わらせる。

ルカは「綺麗だよ」と照れたように微笑み、手を差し出す。躊躇いがちに、フレアはその手を取った。



彼女は知る由もなかった。

そのわずか数分後、正装したジークがフレアの屋敷を訪れていたなど。



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