33、パジャマパーティー
北の森を調査してきた軍団の一行が城下町に入ると、街の人達の温かい拍手と柔らかなラッパの音、そして大きな歓声で出迎えられた。
ちょっと照れながら、私も軍隊と共に城の中へと入門する。
「姉様!!」
大勢の人達が口々に話している中、私は妹の声を聞き分け、城のバルコニーを見上げた。
ヴィーニルと、その横では弟がこちらに向かって手を振っている。
その横には、長兄と父、そして母もいるが、どうやら次男はまだ帰城していないらしく、姿は見当たらなかった。
「ちょっと行ってくる!」
私はエーベルと周りにいた隊員に声を掛け、崖を登る要領で城をジャンプで登り、バルコニーまであっという間に掛け上がった。
「久しぶり皆!ただいまー!!」
「お帰りなさい、姉様!!」
「姉様、大変な目にあったんだって?後で詳しく教えてよ!」
ヴィーニルに抱き付かれ、イオに頭をわしゃわしゃと引っ掻き回される。
これこれ、この触れ合いだよ!兄妹ならではの触れ合い!!
エーベルや子供達は私をこんな風に扱わないし、他の人に至っては触られることすらない。
王女や王子といった立場の自分達をちょっと乱暴にすら見えるような力強い触れ合いなんてこの二年ご無沙汰だったから、私もはしゃいでイオの手やヴィーニルの腕を甘噛みしまくる。
三人で床に転がりながらぐるぐるまわり、尻尾が激しく揺れる。
「こら、ヴァーリアも疲れているだろうから、また後にしなさい二人とも」
「兄様、久しぶり!見ないうちに父様そっくりになったね!!」
「ああ、よく言われる。ヴァーリアは……あまり変わらないな」
「え?少しは大きくなったよ?」
特に人型なら、胸の大きさは変わったんだけどね!
狼型だとほぼ変化なしだ。
因みに今家族の中で狼型なのは父と私だけ。
しかし私は、何故ディルクが私に対して変わらないと言ったのか直ぐに理解をした。
ディルクに注意されて立ち上がったイオを見たからだ。
もみくちゃにされている時は気付かなかったけど。
「……あれ?何かやたら……でっかくなった??」
調査でそれぞれ別れる時、レナドが一番大きくて、次いでディルク、弟は私や妹と同じ位の身長だった筈。
それが、父とほぼ身長差がないディルクと同じ位にまで成長していたのだ。
妹は頭一つ分身長が小さくて、恐らく私も妹と同じかそれくらいだと思われる。
「うん。なんかここ一年で一気に伸びて、まだ伸びてる最中みたい」
「……わ、私の可愛い弟が……っっ!!」
軽くショックを受ける。
いや、成長自体は大変喜ばしいことなのだけれども、兄妹なのに一緒にいられなかった期間があることを改めて感じた。
「姉様、姉様、私も大きくなったんだよ!」
「う、うん、そうだね!!」
きっと妹は背の高さのことを言っているのだろうけど、私の視線はついその豊満な胸にいってしまう。
ぐぬぬぬぬ、妹に追い付いたと思っていたら、むしろ大きく引き離された気がする!!
「今日はパジャマパーティーだー!!」
三人で盛り上がっていると、母が「調査隊員を労るのが先だ!きちんと並べ!」と私達を叱り、我々はピッとディルクの横に整列して帰還した調査隊員達を見守った。
調査隊は、王城の中央の中庭に集結し、北の森の調査隊としての最後の報告を行う。
毎日会っていた隊長や副隊長、隊員、そしてエーベルも、これからは寝食を一緒にすることがなくなるのだ。
私の胸に、調査をやり遂げた達成感と、一抹の寂しさが広がる。
また、帰還すると、私達は各々それぞれ別々の部屋が用意されていた。
私達は五つ子で、生まれた時からずっと一緒だった。
けれどもそろそろ、それぞれが別の道をこれから歩んでいくのだと、分けられた部屋を見て改めて感じたのだった。
***
全員の部屋が同じ広さなのだが、私の部屋が一番煩くしても問題ない位置にあったので、私の部屋にレナドを除いた四人が集合する。
「兄様、レナドはいつ帰ってくるんだ?」
「明後日の予定らしいよ~」
ディルクはすっかり寛ぎモードで、口調がのんびりに変化している。
一番仕事モードのオンとオフがしっかりしている人なので、仕事モードの時はほぼ笑うことなく父様と同じように必要以上に話さない。
その為赤の他人には色々と誤解を与えることも多いが、仕事モードの時に厳しいディルクも、プライベートでは我々兄妹にかなり甘い人だったりもする。
で、今はまだ戻っていないレナドは飄々としたおちゃらけたムードメーカーだが、実は一番繊細で気遣い屋だ。
イオは末っ子らしく優しくて甘えん坊、そしてヴィーニルはしっかり者である意味一番気が強いかもしれない。
ディルクと弟は狼型、私は人型、妹は耳や尻尾だけ中途半端に出した人型で、円形のラグの上で真ん中に置いた菓子や飲み物を取り囲むようにおしゃべりを楽しむ。
「そうか、早く会いたいなぁ!」
「レナド、今回の調査で頭怪我して、傷が残ってなかなかワイルドな様相になってる筈なんだよね~」
中央の森を担当し、ずっと王城にいただけあってディルクには東西南北の森で起きた情報が色々集まってきたらしい。
「ええっ……?レナドが!?一体、どんな猛獣にやられたの?」
妹が驚いてディルクに詰め寄る。
「あ~、熊型猛獣だよ」
ウルススだと、一対一ならレナドが遅れをとることはなさそうだが。
「子連れ?」
私が聞くと、長兄はこくりと頷く。
「そう。しかも親離れ直前のウルスス三頭を連れたメスで、薬草を取りに入った看護要員を狙っていたところを庇って出来た傷らしいよ~」
「大変な傷だったんじゃないの?」
ウルススの鋭い鉤爪は、岩をも粉砕するし。
「多分ね~、でもその看護要員だった女の子を番にしたいらしくて毎日口説いてたって聞くと、命の恩人って立場じゃフェアじゃないでしょって思っちゃうんだけどな~」
「自国の王子、かつ命の恩人か……エグいな」
「だよね~、その子は医者家系の平民だったみたいで畏れ多いとか最初は断ったらしいんだけど、最終的にはその子が折れて、帰ってきたら婚約らしいよ~」
「そりゃめでたいな」
あのレナドが婚約ねぇ。
私が言うと、ディルクは今度はこちらを見て言った。
「そういうヴァーリアだって、落ち着いたら婚約でしょ~」
そこで飲み物を口に含んだ私はぶふ、と吹き出しそうになった。
地味に鼻が痛い。
「なぁに、姉様はあの調教師と何か進展ありましたの?」
ヴィーニルがニマニマしながら聞いてきて、イオは顔を真っ赤にして首を横に振りながら怒る。
「やっぱりあいつ!!僕の姉様にとうとう手を出したのか!!」
「あのぅ……」
「ん?」
「二人は何で、私の婚約って話だけで相手が……エーベルだと思うの?」
純粋に不思議に思って聞けば、二人は顔を見合せた。
「何でって……それ以外考えられなかったから、ですわ」
「だって、出会った頃から狼型の姉様のケツ追い掛け回してたでしょう?あいつ以外のやつを姉様が選んだら……何だか恐ろしいことが起きる気がするし」
「いずれにせよ、姉様のお相手はあの調教師になることは随分と前から決まっていた気がします」
「だから僕は反対したんだよ!あの調教師が姉様と同じ北の森にいくことを!!」
二人の勢いに、私はどうどうと宥めながら首を縦に振ることしか出来ない。
そしてディルクが言うには、今回の妹の結婚式では、私達二人の婚約発表も同時にされる方向で話が進んでいるらしい。
ディルクとイオに想い人はいないのだろうか?
私がそう聞いてみると、ディルクは「女の子は皆可愛いと思うし、まだ一人に絞れないんだよね~」と言った。
でも多分ディルクのことだから、恋愛結婚ではなくて政略結婚もあり得ると思っているのかもしれない。
そして弟はディルクと真逆で、「僕は女の子って好きになれないんだよね。皆平気で嘘つくし、煩いし、泣くし。姉様みたいな女の子がいたらアプローチするけど、いないや」とつまらなそうに言った。
そりゃ、昼間狼型で山や森を駆けずり回っている女の子なんて、世界中探してもいないだろ。
……と思いながら、弟のシスコンっぷりが不安になると同時に、変わらないでいてくれるのが嬉しくもあった。




