女子大生の視点 2
やはり、この世界にはモンスターがいた。
そして、私はモンスターと戦った。
どうやら、今日戦った相手はかなり異常なやつだったらしい。
確かに、某怪獣映画に出てくる怪獣と同じかそれよりも大きかった。
よくわからない紫の瘴気も出してたし。
異世界といえば、初戦は定番モンスターのスライムとか大ネズミとかそのあたりを予想していたのに……
悪い意味で裏切られた形だ。
だが、思ったよりもすんなり倒すことができたので、よしとしよう。
アキトの魔術による補助も大きかった。
あの時の私の身体能力の上昇率は、おそらく2倍や3倍といった数字では効かないだろう。
ちなみに、今は効果時間が切れたのか、通常値に戻っている。
肉体をあれだけ酷使したにもかかわらず、筋肉痛などの反動は一切ない。
(あの子、見た目はひょろっとした10代後半の普通の男の子だけど、中身はとても普通とは言えないわね……ノーリスクであんな魔術がバンバン使えるなんて……)
出会った初日から次元魔術だの空間魔術だの物理的再構成だの、とんでもないことをさらっとこなしてたから、一瞬あれがこの世界の基準かと思ったけど、今は絶対に違うと確信を持って言える。
もしあのレベルの魔術師が平均値だったなら、この世界はもっと発展していなければおかしい。
そうでないということは、彼はきっとトップクラスの人間なのだろう。
しかし、あの多種多様で強力な魔術は、"アイツら"を何とかするための力になるかもしれない。
もし、アキトを地球に連れていける機会ができたとしたら、彼は果たしてついて来てくれるだろうか?
(あー! ダメだダメだ。彼には彼の生活がある。この世界という故郷がある。勝手に別の世界の問題に巻き込むべきじゃないわ!)
まぁ私は今日自ら巻き込まれにいったわけだけど…………
それは軍人としての責任感とか、武人としての挑戦心とかいろいろあるからまた別なのよ!
話を戻すと、そもそも自分一人すら帰る方法がわからないのだ。
アキトの中にいる"アイツ"の監視は続けるとして、並行して、自分が地球に帰還する方法も調べなきゃ。
後でアキトにいろいろ聞いてみるか。
私に対して悪い感情を持っているようでもないし、きっと答えてくれると思う。
……あ、感情で思い出したけど、あの古物商のお婆ちゃんが変なことばっかり言うから、妙に彼を意識してばっかりの一日だった気がする。
「想い人」だの「お姫様」だの、私とは縁遠い言葉がたくさん並んでいた。
それに、アキトもアキトよ!
「でも……七海がもうしばらく一緒にいてくれるっていうのなら、僕も嬉しいな」
とか
「七海が、七海が心配だったから! 僕も力になりたいんだ!」
とか
聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフばっかり並べて!
何なの!?
この世界には女の子に対して歯の浮くようなセリフを言わなきゃいけないルールでもあるっていうの?
学校でも大人しいグループに入ってそうな属性の男子があんなこと言うなんて、日本じゃ考えられないわよっ!
はっ!
ここはスペイン系文化圏だった!
もしかするとあれが普通なの?
普通の草食系男子なの?
そうかも……
いや、きっとそうに違いない!!
だからダメよ七海。
勘違いしてはダメ。
昔から腕っ節が立ちすぎて男の子が誰一人寄ってこなかったから、初めてかけられた歯の浮くようなセリフに、精神が過剰に反応してるだけのこと!
落ち着け!
落ち着くのよ七海!
深呼吸しなさい!
(すーはー、すーはー、すーはー)
よし、少し落ち着いた。
っと、いけないいけない。
余計なことばかり考えてしまっていた。
そんな些細な問題ズは後回しでいいのよ。
それよりも今は、目の前のこの子たち!
私は、口元がだらしなくにやけてしまうのを止められない。
(魚に地鶏に豊富な調味料にお米! しかもジャポニカ種! そしてお酒まである! なんて幸せな光景なのー!)
もし今の私の顔を似顔絵作家が描いたら、ひと昔前の少女漫画のキャラクターのように目の中に大量の星を描き込まれてしまうに違いない。
現在のいろいろ散らかった思考の中でも、それだけは断言できた。




