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第14話 異常種モンスター

 モンスターは長い舌と尾を振り回しながら街を次々と破壊していた。


 全身は鈍く黒く輝く鱗に包まれ、姿形は劣等竜(レッサードラゴン)のそれと全く同じに見受けられた。


 しかし、明らかに通常の劣等竜(レッサードラゴン)と異なる点があった。


 まず、大きすぎる。

 今まで観測された劣等竜(レッサードラゴン)は大きくても20メートル前後。

 なのにコイツは100メートルを軽く超えている。


 それに、全身から紫の瘴気のようなものを出している。


「あれは…魔素?」


 魔素を持ったモンスターなど一度も聞いたことがない。


 魔素はごく最近発見された謎の物質で、生成方法も利用方法もまったく不明。

 わかっていることと言えば、"生物にとって非常に有害である"ということと、"呼気による吸引でも物理的接触でも感染しない"ということくらいだ。


 学術都市にいた頃は、魔素について研究している者たちとの共同プロジェクトに何度も参加したが「魔素を持ったモンスターがいる」なんて話は全く聞かなかった。

 ということは目の前の凶暴なモンスターは完全な新種だ。


 僕の脳内を一瞬で知識が駆け巡る。


 が、すぐに我に帰った。


「七海! 無事!?」


「……何よ、やっぱり物騒なんじゃない、異世界」


 彼女は既に立ち上がり、目の前の異常な存在を強く睨みつけていた。


 先ほどまで食材やお酒に夢中になっていた女の子と同一人物とは思えないほど、その眼光は鋭かった。


「アキト!!!」

「え…は、はいっ!!」

「あなたは魔術で全住民への警告を!

 それから誰も戦闘に巻き込まれないように避難誘導を!

 陸軍が来た場合も自身と住民の命を第一に動いて!!」

「な、七海はどうするの!? 一緒に逃げよう!!」

「私はアイツをなんとかするわ。

 海側に引きつけるから住民は反対の平野側へ。

 頼んだわよ、法魔術師!」


 そう言うや否や、彼女はモンスターの方へと猛スピードで駆け出していった。


 マズいって!

 ただでさえ危険なモンスターの、しかも異常個体!

 いくら軍人でも絶対に女の子一人で何とかできるような存在じゃない!

 どうするどうするどうする!?

 僕が今しなければならないことは何だ!?


「あーもう!! 開け、メティスの図書館! 閲覧要請E3503-005 橙の書!」


 亜空間の中を無数の本棚が高速で旋回する。

 急げ急げ急げ!

 本棚が止まり、ようやくオレンジ色の本を吐き出した。

 僕は一発で該当ページを開く。


「式句:思念通話(テレフォニシス)! 対象:セト周辺の人間全て! 詳細:アキト・リブロから単方向発信、健全可聴範囲で出力最大! 起動!」


 橙の書から放たれたオレンジの光が耳から入り、僕の脳と声帯を結んだ。

 そして僕は大声を張り上げる。


「警報! モンスター出現! 大通りの中心から海側に向かっています! 全員平野側に避難してください! 繰り返します! モンスター出現! 全員平野側に避難してください! 100メートル超の異常個体です! 急いで!」


 民家から、酒場から、療養所から、大勢の人が外に出て大慌てで逃げていく様子が確認できた。


 昼間とはいえ眠っていた人や、耳が悪くて騒動に気づいていない人も今の思念通話(テレフォニシス)が聞こえたはずだ。


「よし……」

 

 僕は橙の書を閉じた。

 そして、七海が向かった方へと駆け出した。


 もう、絶対に大事な人を死なせない。

 そう、心に秘めて。

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