第15話 対決
僕が七海の近くに駆けつけた時、彼女は既に街の外に異常種モンスターをおびき寄せることに成功していた。
一体どうやったんだ?
見ると、彼女はモンスターの足元を剣で切りつけては退がる、というヒット&アウェイを繰り返している。
彼女の足は異常と言って良いほど速い。
モンスターも決して動きが遅いわけではないが、目の前の小さな存在を踏みつけることができず、イライラしている様子である。
しかし、モンスターに対して確実にダメージが入っている訳でも無いようだ。
剣で切りつけた後は鋭い傷が入るが、体を包む紫の魔素によってあっという間に回復されてしまっている。
魔素には細胞を再生する力もあったのか!?
どちらにしてもこのままではまずい。
何とかしなくては……
僕が考え事をしていると、彼女が突然何かを言い始めた。
まだ僕の方には気づいていない。
「何とか街の外まで引っ張ってこれたわね。
そろそろかしら……」
彼女はそう呟くと、後方に高速で移動し、モンスターから一旦大きく距離をとった。
「よしっ!
そんじゃ、反転攻勢、行くわよ!
力を貸して、宗近!
ドライバ処理開始、ミーディアムを解放せよ!
我、悪意を貫く刃なり」
彼女が呪文のようなものを唱えると、剣の柄頭が光った。
その光が螺旋状に剣身の方へ上っていく。
そして、剣全体を淡い光が包み込んだ。
それと同時にどこからか機械的な声が聞こえた。
『精神反応から所有者=椎野七海を確認。ドライバが処理を実行します。ミーディアム=三日月宗近との接続開始…完了しました。現在の精神感応率は87%。非常に良好です。所有者の意向に従い、性能限定を解除します。ミーディアム、解放』
初めて聞く単語ばかりだった。
その謎の声が言い終えるや否や、剣全体を包んでいた光がパンと弾けた。
見た目には特に変わったところは見られない。
切れ味増幅の魔術か何かをかけたのだろうか?
様々な魔術を研究してきた僕にも、その全容はわからなかった。
「グルゥゥゥゥ……ゥガアアアアアアアア!!!!」
再び獣魔の咆哮が天を貫いた。
七海がモンスターと距離をとってからここまで大した時間はかかっていなかったが、モンスターもいつまでも待ってくれるわけがない。
敵は、首を僅かばかり後方に引いた。
そして、前方に突き出すと同時に長い舌が口から飛び出してきた。
危ない!!
舌は七海との間合いを一瞬で詰め、
彼女の胴を今にも貫こうとしている!
「後の先」
フッと彼女がブレた気がした。
錯覚か?
いや、そうではなかった。
すぱっ
という鋭い音がしたかと思うと、
モンスターの舌は、その半ばから綺麗に切断されていた。
「ギィギャァアアアアアアアアアアアアッ!!!」
苦痛にモンスターが呻く。
しかし、この傷も魔素で再生……
されない!?
まさか、魔素ごと切った!?
「思った通り、あの紫のは精神エネルギーの一種みたいね」
彼女がそう呟く。
僕はモンスターに隙ができたのを見て、七海に呼びかけた。
「七海っ!」
「アキト?
何でここにいるのよ!
逃げろって言ったでしょ!」
「七海が、七海が心配だったから!
僕も力になりたいんだ!」
また、彼女の顔が少し赤くなった気がした。
「まったく、おとなしく逃げてていいのに……
……それじゃ、あいつの弱点知らない?
さくっと終わらせましょ」
「弱点……
あいつが劣等竜と同じ身体構造だとすると……
背中の裏!
アイツらは一番硬い背中の裏の真ん中に、マナの循環を司るコアを隠す習性がある!
そこが弱点の可能性が高い!」
「背中の真裏…ちょっと高いわね…」
モンスターは立ち上がると100メートル以上ある。
彼女の驚異的な身体能力を持ってしても、50メートルの高度に到達するのはさすがに無理だろう。
「アキト、あなた空飛ぶ魔術とか使えないの?
定番でしょ?」
「定番?
何の定番かわからないけど、飛行魔術はまだ開発途中だったんだ。
うーん……跳躍力強化じゃ難しいかな?」
「じゃ、それでいいわ。(次元操作・空間操作もできるのに飛行ができないなんて、どんな進歩の仕方をしてるのかしら、この世界……)」
ちなみに、飛行魔術は僕が出不精だったのであまり気が乗らず、開発を後回しにしていた。
それよりも次元・空間魔術であまり移動せずに何でも取り出せた方が便利だと思ってたわけで。
まさかこんな場面で必要とされるなんて思ってもいなかった。
僕は気を取り直して左腕の腕輪に触れた。
「了解!開けメティスの図書館。閲覧要請E3503-002 緑の書」
亜空間から緑の本を取り出す。
先ほど橙の書を取り出したのと同じ棚にあるので、すぐに出てきた。
「式句:筋力強化。対象:椎野七海。部位:跳躍および衝撃に耐久するための筋肉一式。詳細:身体バランスを正常化した上で出力最大。起動」
彼女の体を緑色の光の筋が覆った。




