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第12話 異世界情勢

 カバンを取り戻した七海はホクホク顔だった。


(ふふふ、化粧品もハンドクリームもドライヤーも着替えも財布もスマホも全部返ってきた。電化製品はアキトの魔術で再構築してもらえばいいし完璧ね。

 それに、綺麗になるからって毎日同じ服着るのは勘弁だったから本当によかったわ。何より……

 フランスの日本人街で手に入れたアレもある。

 いいわよ七海、いよいよ雪辱の時よ!)


 なんかさっきからずっと一人でぼそぼそ言ってる……怖い……


「ねぇ……ねぇ七海! 次はどこ行くの?」 

「愚問ね。決まってるでしょ。食材を仕入れるわよ」


 彼女の中で何が決定事項で何がそうでないのか、僕には理解不能だ。


「食材? まぁ確かに昨日の夕食であらかた使い切ってはいるけど、七海は別に僕の家に帰るわけじゃないでしょ?」

「はあ!? 何を言ってるのよアキト! あんなステーキ食べさせておいて……

 あなたに日本食の素晴らしさを理解させるまでは、絶対にあの家から出て行かないわよ!」

「へ? ニホンショク?」


「そうよ……

 あのステーキ、悔しいけど私が今までに食べた料理の中で最高の味だったわ。

 でもね、だからと言って折れてはいけない、日本人のプライドってものがあるのよ! 私だけが作れる日本食SUGEEE! を実現するまで、私は負けるわけにはいかないの! 

 今までどんな旅先でもこれだけは欠かさずやってきたんだから!」

「は、はぁ……」


(あら? 押しが足りないのかしら?)


「えっと、後は、まぁ、それとそのっ、リュックも取り戻してもらったし、いろいろ助けてもらったし、日本には一宿一飯の恩義って考えが無いわけじゃないし……借りっぱなしは性に合わないっていうか……お礼の一つくらいさせてもいいじゃない……」


(何よこの”一宿一飯の恩義に報いるのが行動指針です”みたいな感じ! 少年マンガの主人公じゃあるまいし! 言い訳下手か私! とにかく今アキトの元を離れるわけにはいかないのよ! 早く察してよこのもやしっ子!)


 彼女にしては珍しく、だんだん語尾が小さくなっていく。


「まぁ、そこまで言うならいいんだけど……」

「それに、私は用心棒くらいにはなるわよ。

 どうせ物騒なんでしょ、この世界」


(だいたいファンタジーやRPG風の世界なんて物騒に決まってるわ。

 なろう読者なめるんじゃないわよ)


「いや、普通に暮らしてる分にはそこまで危険はないけど」


(物騒じゃないんかいーーー! そこはセオリー通りいきなさいよーーー!)


「そりゃ、確かにモンスターが出た時なんかは危ないけど、軍隊かモンスターハンターがすぐに討伐するし。何かの手違いでモンスター出現察知が遅れない限りは大丈夫だよ」


 モンスターの力は絶大だ。

 確かに一日で里を滅ぼすくらいの力はある。

 しかし、対処はできるのだ。


 モンスターの出現前には異常なマナの高まりが発生する。

 各自治体に設置された異常マナ検知用アーティファクト"フギンの塔"がその反応を検知し、モンスターの発生を素早く知らせる。

 そして、近隣の軍隊やモンスターハンターがすぐさまかけつけ、我先にと倒してしまうのだ。


 極々稀になんらかの理由で反応を検知できない場合もあるらしいが、そんなものは地震や火山の噴火と同じ天災扱いだ。

 そんな事態に遭遇する確率も極めて低いと言っていい。


 また、国王によって精強な軍隊が整備されてからというもの、街道に出現する盗賊の類も激減した。

 街道の随所に陸軍の駐屯拠点が置かれているため、盗賊が出ようものならすぐにかけつけて殲滅してしまう。

 リスクとリターンが釣り合わなくなった盗賊連中は軒並み廃業。


 結果、今まで隊商護衛などに従事していた者たちも手が余り、その多くが軍人やモンスターハンターに転職していった。


 そうすると治安維持要員がさらに増えるので、日常的な危険がより一層排除される、という好循環が生まれた。


 この仕組みを発案し、軍隊を組織し、その機能を維持している国王は、国民から賢王と崇められている。

 もちろん僕も尊敬している。

 そんなわけで、エスパニア王国の日常は極めて平和だ。


(異世界、完全に侮っていたわ……まさか料理はおろか戦闘行為においてすら、私の活躍の場を奪っていくのね……なんて非情な……)


 しかし、それはそれとて、僕が七海を拒む理由もなかった。


「でも……七海がもうしばらく一緒にいてくれるっていうのなら、僕も嬉しいな」


 気のせいか、彼女の頬が少し赤くなった気がした。

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