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第13話 セトの食文化

「マグロ! アジ! イワシ! 舌平目! 海老! 

 何よこの街、海産物の宝庫じゃない! 最高!」


 セトの街は海に面している。

 それは、新鮮な海産物が多く獲れることも同時に意味していた。


 目をキラキラさせながら魚介類を物色する七海。

 僕たちは今晩の食材を手にいれるため、近くの店を手当たり次第に見て回っているところである。


「この辺りの魚は、毎朝漁師さんが街の魚市場まで直接持ってきてるんだ。

 新鮮で美味しいと思うよ」

「素晴らしい街ね! ここまで足を運んだ甲斐があるわ」


 幼い頃を長く過ごした第二の故郷とも言えるこの街。

 こんなに褒められると気分が上がる。


「他には!? 海産物以外にも何か名産品はあるの?」

「えーと、郊外の方には畜産農家もたくさんあって、中でも地鶏は有名かな。

 気候がいいから鶏もストレスなく成長するんだって。

 王都の方にも結構出荷してて、貴族や大商人も好んで食べるとか」

「地鶏! いいわね!!」

「後は、ちょっと変わってるけどお米なんかも有名だね」

「お米!? 嘘でしょ!?」

「え? エスパニアでは普通に食べてるけど」


(うそうそうそ! お米まであるなんて完璧に私のために用意されたシチュエーションじゃない! いや、確かにスペイン料理ならパエリアとかもあるし、異世界でもアリなのかも)


「あ、ただこの辺りのお米は少し他の地方のと違うよ。若干もちもちしてるんだ」


(ジャポニカ種きましたーーー!! ま、さ、か、の、ジャポニカ種! やばい、鼻血でそう)


 この地方のお米は遠洋航海が盛んになったのち、東方の国から伝わったと言われる。

 エスパニア各地で栽培が試みられたが、気候的に合致したマルタ領でのみ成功したと、昔誰かから聞いた。


「行こう。今すぐ行こう」


 七海の目がこれまでに無い程真剣な輝きを放っている。

 若干怖いくらいだ。

 僕は彼女がカゴに入れた魚を急いで精算した。


「確か2ブロック先に米屋と鳥肉専門店が並んでるはずだよ」

「よし! 行くわよ!」


 猛スピードで駆け出していく七海。

 え? 

 ちょっ、足速すぎ! 

 ついていけないレベルだ!


 しかし、1ブロックほど走り抜けた所で彼女が急ブレーキをかけた。


「あーーー!」


 いったい今度は何なのさ。


「ねぇねぇアキト! あれってお酒!? お酒よね!」


 彼女が指差す先にはワインとブランデーが棚いっぱいに並べられていた。


「うん、そうだけど、七海お酒飲めるの?」

「当然じゃない! 私は20歳よ! お酒の味を知る立派な大人なのよ!」

「うそぉ! 10代じゃなかったの! 僕と同じ年くらいかと思ってた!」


 どこからどう見ても10代後半にしか見えない七海は、自慢げにストレートの黒髪を梳き流している。


 確かに見た目の割に大人びてる時があるとは思っていたが、まさか3つも年上だったなんて……


「この国で飲酒に年齢制限はある?」

「お酒は18歳から……」

「よし! 問題なし!」

「僕は17だから飲めないんだけど……」

「問題なし! お酒は飲まずとも、お酒の場を経験することは良い社会勉強になるのだよ、若者よ」


 有無を言わさぬ表情でそう言い切った彼女は、口元を綻ばせながらワインとブランデーを片っ端からチェックし始めた。


 その時だった。


 天を穿つ獣魔の咆哮が、鼓膜をつんざいた。

 と同時に僕たちが先ほどまでいた通りが、"1ブロック丸ごと"吹き飛んだ。

 現状を認識できない僕に追い打ちをかけるように、群衆の怒号と悲鳴が周囲を覆いつくす。


「ぎゃああああああああ!!!!!」  

「モンスターが出たぞおおおお!!!!!」

「まずい……まずいまずいまずい!!! 危険だ! 早く逃げろ!!!!」


 おいおいおいおい! モンスターだって!? 何かの間違いだろ!? 警報も何も鳴らなかったじゃないか!!

 

 そのささやかな希望的観測を打ち砕くかのように、100メートルを優に超える巨大な絶望の塊が、僕の視界を黒く染めた。

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