文通友達
うん、兄に謝ろう。
『あきらめたらそこで試合終了ですよ』に、突っ込みいれてすいませんでした。
毎回、緊張しい克服をあきらめて帰っていた私は、今境地に立たされている。
目の前の騎士様のせいで、第12回、私のお見合い家族会議が発令されているが、私の声は心の中に留める。
いや、謝る気がないとかいうな、そこ。
きっと、いつかは、気が向いたら謝るかもしれないだろう。未来は無限さ。
なので、心の中で、深々とお詫び申し上げます。
え、家族会議に参加しないのかって?
いやいや、だって、いつもは自分の事だし参加してるよ。
でも、今は知らない騎士様いるし、しかもかっこいいし。
どんなトリートメント使ってるの、と聞きたくなるほど、漆黒のサラサラヘアーに、一睨みで、すべての女性を射止めそうな切れ長の目。すっと通った鼻筋に、薄い唇が幸薄そうで、そこがいい。
ほのかにかおる香水が、嫌みじゃなくて、心地いい。
騎士服の上からでもわかる大胸筋、広背筋。そこから延びる上腕二頭筋。長いのにごつごつした無骨な指先が日々の鍛錬を物語る。
別に、見惚れてないよ。チラ見してるだけ。
さぞ、女性におもてになるだろう。
現実逃避はその辺にして、そんな騎士様がなぜ我が家に?
それは、先週の舞踏会。そう、私が置いて行った赤いハイヒールを届けに来たのだ。
なぜ私だとバレたか、それは赤いハイヒールが似合うドレスを着ていた令嬢と、舞踏会を早めに退室した令嬢を照らし合わせたのさ。
王城の入退室は、セキュリティー対策でチェックされてるからね。
すぐかわっちゃう。決して裸足で王城の中を駆け抜けたからではない。
たぶんない。
まあ、それは後回しにしよう。
騎士様がおっしゃる事に、犯罪を未然に防いだ私は、褒章も頂けるらしい。
問題は、ここからだ。
縁なし眼鏡の奥の目が、獲物を逃がさんとばかりにキラリと光った。
兄が騎士様に話しかける。
「その褒章、何でもよろしいのでしょうか」
「はい、あまりにも高額な品物は難しいですが、宝石でも、ドレスでも、期限付きの権限でも可能です」
「では、妹があなたと友達になる事は可能ですか」
騎士様は、切れ長の目を見開き、何度か瞬き、兄を見た後、私に真っ直ぐ視線をよこした。
ごくり。
私の喉が鳴る。
一瞬の静寂。
「何、突然、バカな事言ってるの!」
私は弾かれたように兄に詰め寄る。
「何って、いい考えだと思うぞ。別に恋人や婚約者になって下さいと言っているわけではない。友達。
ただの友達だ。お前1人じゃ、緊張しいは克服できないだろ。家族以外の男性と交流を持つチャンスだ」
「・・・でも」
騎士様をちらりと見て、私は力なく目を伏せた。
「友達ですか。申し訳ないのですが、私は1か月後、辺境伯領へ赴任する予定です。令嬢と交流することは難しいと思われます」
うん、そうだよね。
こんなかっこいい騎士様が平凡な私と友達になるはずがない。
兄がす、と目を細める。
いつもは緩い人だけど、それはマジな時の癖だった。
「おお、それは都合がいい。妹は緊張しいで、人との交流が苦手だ。かっこいいあなたと合うとなると、尻込みしてしまうでしょう。是非、文通をしていただけませんか」
「「文通友達…」」私と騎士様は同時につぶやいた。
「妹への褒章はあなたと文通友達でお願いします」
兄は、騎士様に握手を求める。
眉間に皺をよせ、私を心配そうに見つめる騎士様、100%のり気ではない顔。
「いいのですか?」
いいわけないだろー。知らない人と文通。何を書くのさ、こっちとら、生粋の平凡だぞ、文通のネタなどないぞー。
などとは、言えない。
こちらからの提案、無下にすることは失礼になるだろう。
兄が指先でコツコツをテーブルを小突く。
少なくとも、兄はよほどの事がない限り、突拍子もない事を口にしない。
これは、勝算があっての事だろう。
そして、部屋に微妙な沈黙。
きっかり25秒で、私は耐えられなくなり、
「はい…よろしくお願いします」
兄はニコニコで騎士様の手を取り握手した。
兄に握手された騎士様は、兄に握られた手と、私を交互に見て、
「こちらこそよろしくお願いします」
にこやかに、花が咲いたような笑顔を向けられた。
ぐふゥ。
騎士様から突然の笑顔攻撃、私のチキンハートにクリーンヒット!
白河・DG・夜舟様から頂きました。
文通友達のイアン・ガンダルフ。
恋愛を全力で書いているのに、コメディーぽいのは…なぜ。




