壁の花
新連載始めました。よろしくお願いします。
王城の貴族が集う舞踏会。
煌びやかな男女が舞うダンスフロアー。
貴婦人が扇子片手にマウント合戦を繰り広げる軽食コーナー。
壁の花になって2時間。
人間観察もさすがに飽きた。
今宵も、男女が休憩室という名の色恋部屋へ続く廊下へ消えていく。
私は、鼻で空気を大きく吸い込み、小さく息をはいた。
この際、誰でもいいので、私に声をかけて下さい。
普通の伯爵家末っ子、ケイト・バギンズ。
家族の中では通称・ケイ
今宵で、成果なし2桁になったよ、お父様。
このまま私が自宅に帰ったら、苦い顔で出迎えるお父様が思い浮かぶ。
私は扇子を閉じ給仕からもらった、ブドウジュースを一気に飲み干した。
誰とも話してないのに、乾燥する喉が恨めしい。
初秋というわりには気温が低い。手足が冷えた。
ブドウジュースの飲み過ぎか、私の膀胱は限界に近い。
「お手洗いに行って、帰ろうかな」
一緒に夜会に来た兄である、レゴラス・バギンズは『男の付き合いがある』という、単純明快な自分勝手な理由から、旧友たちと会場の隅で飲んでいる。
ここにいても時間の無駄。従者に伝言を頼み、お暇するのもいいだろう。
兄の近くに控えている従者に伝言を伝えようとすると、兄に気付かれた。
兄は、掛けていた縁なしの眼鏡を持ち上げ、目元を揉んだ。
なんでもないよ~とアピールしつつ、後ずさる。
「ケイ、またお前は誰にも話し掛けれなかったのか。しかたない奴だな」
兄は爽やかに笑った。
近くの令嬢達から、小さな悲鳴が聞こえる。
整った好青年な面立ちで笑うと、令嬢達には好印象を与えるだろうが、身内である私からすると、内面を知ってるだけに、胡散臭い。
「無理だよ私には、緊張して言葉がでない」
「ケイよ、バギンズの家訓は、『あきらたらそこで試合終了ですよ…?』だ。」
「そんな家訓ないよね」
「ケイよ、『私だけかね?まだ勝てると思っているのは』」
「いやいや、言いたいだけだよね。勝てるって思ってないよね」
突如として湧いてきた名台詞に、突っ込みながら、顔だけじゃなく、返しが面白いからモテるんだな~、と妙に納得する。
これと、血がつながっているのかと疑わしいほど、緊張しいの私。
「あー。もう帰ります。止めないでね」
「ケイ、お前本当に帰るのか」
「今日は帰る。緊張しいの克服は、次の期会に何とかするよ」
私は、兄に告げると、ワインレッドのゴージャスなドレスの裾を持ち上げ、大股で舞踏会場を後にする。
履きなれない赤いハイヒールが、つま先と踵の皮にダイレクトアタックしているが、靴擦れになろうとかまわない。膀胱が限界。はやくお手洗いに行きたい。
こんな必死の形相が、非モテを作る由縁だろう。
なんでかなー。18歳になっても、乙女思考が育たない。
私が、お手洗いに向かう為、色恋部屋へ続く廊下に出ると、遠くの方で白いドレスを着た、今年デビュータントと思われる令嬢が、男にもたれかかりながら色恋部屋に入って行った。
「あちゃー、見ちゃったよ。どうしよう。もしかしたら体調が悪くて色恋部屋に入っただけかもしれないけど…。」
私は、そーと色恋部屋に近づいた。
「あちゃー、扉閉まってるよ。未婚の女性と男性が部屋に入る時は、扉は少し開けておくのが常識なのに…」
これは、なにかよからぬ事が起きようとしている。
私は、色恋部屋のドアに耳を付けて聞き耳を立てる。
「音何もしないね…。どうしようかなー」
ランプに照らされた広い廊下を見回すが、誰もいない。
ふと、廊下の窓の外をランプを持った警護隊員が通った。
「す、す、すいません。すいません。警護の方-」
私の蚊の鳴くような声では聞こえない。どんどん遠ざかるランプ。
「た、た、たあ~すけて~えええええ!!!」
「た、た、たあ~すけて~えええええ!!!」
「た、た、たあ~すけて~えええええ!!!」
私はお腹の底に力をいれ、肺から一気に酸素を放出。喉を震わせソプラノ歌手のように高音を響かせた。
窓の外のランプは立ち止まり、こちらに近づいてくる。
どうしよう、どうしよう、警護隊員が近づいてくる。
緊張しいの私が知らない人と、まともに話せるか、否。
こういう時、無性に歯がゆさを感じるが、どうしようもない。
私は慌てて、真っ赤なハイヒールを色恋部屋の前に脱ぎ、素早く近くにあった大きな壺の裏へ隠れた。
二人の警護隊員は、私が開け放った窓から廊下を覗く。
無造作に置かれた赤いハイヒールに気が付いたようだ。
「おい、あれ見ろよ」
「一応確認するか」
警護隊員は窓から廊下に入り、色恋部屋の扉をノックした。
少しして、髪の乱れた年配の男性が顔だけ出した。
「なんだ、どうした」
「私は、第2騎士団のイアン・ガンダルフです。先ほどこちらで女性の悲鳴が聞こえました。一度部屋を確認させていただきたい」
髪の乱れた男性は、顔を真っ赤にして怒り出した。
「俺を誰だと思ってるんだ、失礼だぞ、帰れ」
男が、扉を閉めようとした瞬間、イアン隊員は自分の靴を扉に滑り込ませ、両手で扉を無理やりこじ開けた。
その隙に、もう一人の隊員が部屋の中へ
私はそれを見届けると、大きな壺の裏から這い出た。
色恋部屋の中から、男たちの言い争う声が聞こえる。
「あの女性、大丈夫だよね」
チキンハートの私にできる事はやった。後は、隊員に任せよう。
とにかく、今の私の関心はそっちじゃない、膀胱だ。もう限界。
私は素足のまま、駆け足でお手洗いに直行した。
白河・DG・夜舟様から頂きました
膀胱限界。
デビュータントの女性は、眠らされただけで、酷い事は未遂でした。
本格的な恋愛を書いてみたくてチャレンジ。でもコメディーかも…。




