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勇者の血肉は美味しいか?  作者: 彩鳥 奇麗


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8/8

第八話 それは盤面を覆す、優しき勇者の逆転の一手

ここから本格的なバトル描写になります。

読みずらかったごめんなさい!


(これが、俺の聖剣…)


 薬芽の意志に呼応して顕現した聖剣は、なんとも奇抜な形状をしていた。

 どこまでも深い闇のような(つか)は、握りしめた手が吸い込まれるんじゃないかと思うほどに漆黒で…。なおかつ、墨汁のような闇が柄から溢れ、地面へと手を伝って滴り落ちている。

 対して、剣身は驚くほど優麗に透き通っていて、よくよく見ないと短剣であるかどうか──そも、剣であるかどうかもわからない。

 クリアな剣身に純黒(じゅんこく)の柄。まるで、光と闇を現しているような聖剣を見つめながら、薬芽は確信する。

 ……この聖剣の能力なら、あの男の守りを突破できる…と。

 もとより自分の中から溢れ、生じた奇跡。どんな能力を秘めているかは、手に取るように理解できた。 

 ……原理は知らんけど…。

 

「行くか」


 呼吸を整え意を決する。

 視線の先にいる敵、英雄グラリスに向かって薬芽は一気に走り出し、ホープが生み出した結界の外へと勢いよく身を乗り出す。

 思いもしない事態に直面したのは、そのときだった。


「…っ!?」


 一瞬、視界の隅で場違いな、黒髪の少女が微笑んだ気がして…。


──<頑張って、やっくん>


 一瞥したときには、すでに少女の幻影は煙のように消えていた。

 ……なんだったんだ?と、眉をひそめた薬芽。

 しかし現状、悠長にしている暇はなく。


「なに余所見(よそみ)してんだ!」


 バチッと轟く稲妻が、眼前へと瞬く間に距離を詰める。勇者の隙を窺っていた最速の英雄──けたたましく笑うケリハルの刃が、薬芽に振り下ろされる。


「!?」


 その脅威を後方に退かせたのは──ズドンッ!という一発の銃声。マスケット銃を片手に、余裕の表情を浮かべたラウルだった。


「こっちだ、ノロマ」


 今までの穏やかな口調から一変、明確な敵意を感じさせる言葉がラウルの口から放たれる。

 そしてそれは王国でも屈指の速さを誇る、英雄への最大級の侮辱であって…。

 ラウルの安い挑発は、容易にケリハルの気を引きつけた。

 そして──、


「お前もこっちだ。上品ぶっていても、その内側の野蛮な本性…隠しきれてないぞ。エセ淑女」


 マスケット銃からリボルバーへ。

 ロングコートの内側から、仕舞っては取り出した新たな得物で、ラウルは二人目の英雄に牽制を仕掛ける。

 先述した通り、同時に二人を請け負う気のようだ。

 

「誰が……」


 十三番士、フランの額にビキビキと血管が走るのが見えた。

 涼しかった顔はみるみるうちに鬼の形相へと変わって…。


「誰がエセ淑女だオラーーー!」


 フランの変貌ぶりに、薬芽だけに留まらず英雄達の肩もビクリと跳ねる。

 そして怒りに身を任せたフランは、軋むほどに地面を蹴り上げてラウルへと飛びかかって行く。

 まるで獣。それを好機と見たラウルは、そのまま二人の注意を引きつけて、遠くへと去っていった。

 その去り際、ご武運を!とでも言いたげに微笑んだのを薬芽は確かに見た。 

 ……アイツ、スゲーな。

 頼りになる仲間に感心を向けつつ、敵の10メートルほど手前で薬芽は立ち止まった。

 そして、グラリスと相対した。

 不機嫌そうに睨みを効かせる薬芽に対して、グラリスは上機嫌を態度で示す。 


「よう、お前が俺の相手か?勇者…」

「ああ、俺がお前の相手だ。英雄…」

 

 盗賊上がり故に、騎士らしい振る舞いというものをグラリスは知らない。しかし盗賊だった頃から、敵には敬意を払っているつもりだった。

 この世界に人として生を得たのであれば、誰もが知るラフラディアス信仰。

 悪種は滅せよ──

 ──箱庭を不浄で汚さないために…。

 善行を尽くせ──

 ──箱庭が幸福で満たされるように…。

 だから、いつも殺す相手を前にしたときは、なるべく敬意を払うようにしている。 

 それが敵に向ける礼儀であり、彼なりの最大限の善意であるからだ。

 なにより、善行は福を成す。

 勇者(かれら)の魂もまた、我らが箱庭へと導いてやろうというのだから…。


「俺は青騎士直属、悪種殲滅騎構長、三番士。グラリス・ダーウェンだ」


 名乗りを上げたグラリスに対して…。

 ……肩書きが長いんだよ。

 と、薬芽は舌打ち気味に胸中で悪態を吐く。

 英雄と勇者。決して相容れることのない因縁。

 人を殺してなお、嬉々とする相手の表情に、薬芽は冷たく憤る。

 そして(みずか)らの聖剣を突きつけて…。


「俺は荒木薬芽……。お前を殺す勇者の薬芽だ!」

 

 ──リーベの仇を取るため。

 ──仲間を守るため。


 一人の勇者は気高く吠えた。

 


 ★☆★


 

 そこから少し距離を取った場所。

 クレーターと森の境界にて、ラウルと英雄二人の激しい戦いが繰り広げられる。


『──聖杖: 逃 神 (あしにしみついた)雷 如 (そのほんのう)


 ケリハルの聖杖。

 足に纏う脛当て(グリーブ)が雷の如く迸り、果てしない蹴りの連撃が目の前の勇者を猛襲する。

 それなのに…、


(なんで……)


 ダガーを片手に勇者ラウルは、それを涼しい顔でいなす。

 速度ではケリハルの方が圧倒的に上でありながら、間合いに入った途端に(ことごと)くを無力化されてしまう。

 その現状に、ケリハルの表情から戸惑いと焦りが、冷や汗と共に滲み出た。


(なんで俺の疾さに対応できるんだよ!)


 その上──、


『──聖杖: 拳 怒 壊 雅 (ちからこそゆうが)

 

 フランの聖杖。

 肘まで覆ったガントレットの拳が、凄まじい勢いで大地を砕く。すると、無数の蛇が蜘蛛の子を散らすように地面は裂け──、


「!?」

「はぁ!?」

 

 煮えたぎった大地はドクンと脈打ち、敵味方諸共巻き込んで噴火した。

 訂正はない。文字通り、噴火したのだ。大地は捲れ上がり、熱気が空気を焼き、火の粉が舞い散る。

 それでも…、


(ありえない…)

 

 何処から取り出したのか…ラウルは大楯を地面に突き立て、やはり涼しい顔で凌ぎ切る。

 その大盾を媒介に、見えないバリアに守られている。

 渾身の一撃を防がれ、言葉を失ったフランは心底身の毛が引いていた。

 

 英雄も勇者も、その身体能力は極限まで向上している。

 故に、その鉄よりも頑丈な身体を傷つける手段は限られている。

 ひとつは、勇者の骨で加工された聖具。

 そしてもうひとつが、勇者と英雄の内に秘めたる神秘…聖剣と聖杖の力だ。

 フランの聖杖を耐えきった以上、十中八九…あの大盾は聖剣で間違いない。

 間違いないのだが……。


(いま手に持っている大盾も、さっき振り回していたダガーも、銃に至るまで!紛うことなき聖剣!?)


 夢でも見ているのかと、フランは自分の目を疑った。

 勇者が複数の聖剣を扱えるなんて聞いたことがない。

 無論、何かしらの仕掛けがあるんだろうが、たとえ種が割れたとしても対応できるかは別の話。


──「アイツは要注意だ。気ぃ抜くな」


 グラリスの言葉を思い出し、フランは滝のような冷や汗を流す。


「これは……とんでもないハズレくじを引きましたわね」

「ていうか、まず謝れよ!」



 ★☆★



「建城!」


 壁。


「健城!」


 城。


「建城!建城!建城!」


 壁。壁。城。

 グラリスに近づこうにも、聖杖の力が薬芽の行く先々に立ち塞がる。

 積み上がる壁は生きた迷路のように、薬芽の退路を(せば)めて…。

 

「投棄!」


 地雷の如く激しく爆ぜる。

 それを理解しているから、薬芽は立ち止まれない。止まったら最後、全方位から襲いくるレンガの散弾の餌食になる。

 だから、死に物狂いで走り続けた。


「クソが!」


 眼前に現れた壁には踵を返し、上空からミサイルのように飛んでくる城を紙一重で潜り抜ける。

 逃げの一手、それしかできない。

 薬芽は近づく隙を一切与えられず、当のグラリスは余裕の表情。

 おそらくは未知の聖剣を恐れて、あえて距離を保った戦術を維持しているのだろう。

 目と鼻の先にいる英雄に近づくことのできないもどかしさを覚えながら、薬芽は無我夢中で戦場を駆け抜ける。


「ハハッ!ちょこまかと活きが良いな!じゃあ…これならどうだ!」


 突如グラリスは両手を突き出し、ボールを包み込むような動作をしながら薬芽を目で捉える。

 

「健城!」

「なっ!?」


 すると、薬芽の足元から瞬く間にレンガが積み上がり、完全に四方の退路を断った。

 小さな城に閉じ込められた薬芽は、やばい!と…すかさず聖剣を地面に突き立てる。そこから聖剣の垂れ流す闇が一挙に溢れ、地面を這い、城を漆黒に塗り潰していく。

 直後──、


「投棄!」


 激しい光が瞬き、城は真空状態にでもなったかのように、ベコっと鈍い音を立てて内側に減り込む。

 その勢いは凄まじく、鼓膜を震わすほどの衝撃が一帯を駆け抜け、顛末を土煙で覆い隠した。


 ……仕留めたか?と、グラリスは不動のまま、相手の様子を窺う。

 しばらくして土煙は晴れ…。

 

「あっっぶねぇな!?」


 そこには、自分でも生きていることが不思議だと動揺を隠しきれない表情で、傷ひとつない薬芽が立っていた。

 グラリスは一瞬目を瞬かせ、驚きはしたものの…。

 ……奴の聖剣の力か…。

 と、自分で納得のいく結論を導き出した。

 

(さっきの眩しい光…俺の聖杖(ちから)じゃないな。何をした?)


 液状の闇を操る力。瞬く光。

 やはりこの守りを突破する術を、この勇者は持っている。

 そう確信したグラリスは、一層警戒を強めた。

 しかし、近づかせなければどうということはない。

 薬芽の様子からして、なんとか距離を縮めたいように感じられる。

 おそらくそこに、彼の勝機がかかっているのだろう。

 であれば、このまま距離を保ちつつ、消耗戦に持ち込むのがグラリスのベスト。

 1秒毎に見える勝利の未来。

 一生遊んで暮らせる金の山。

 グラリスは満面の笑みを浮かべ、目の前の金の成る木(カネノナルキ)に感謝の念を贈る。

 

「ん?」


 そのとき、上空から逃げたと思われていた英雄が、ゆっくりと降りてくるのが見えた。


「リピトーか」

「………」

「どうした、分け前でも欲しいのか」

「……………た…かう」

「あっ?」


 震える声で、竦んだ身体で、少年は言葉を振り絞る。


「ぼぼ…僕も、たた…戦う…」


 その言葉に、グラリスはまた一歩近づいた揺るぎない勝利を確信する。

 ところが数秒後、グラリスはみるみると顔を強張らせ、リピトーに剥き出しの殺意を向ける。


「おい…こりゃなんの真似だ?……リピトー!!!」


 リピトーの翼の形状をした聖杖から、もくもくと黒い雲が形成される。

 それは積乱雲となってバチバチと雷を孕み、その矛先をグラリスに向けて雷鳴と共に解き放つ。

 

「僕も戦う!」


 それは英雄と勇者、どちらにとっても予想打にしない、目を疑うような展開であり。

 そしてこの勝機は、優しい勇者が繋いで見せた、揺るぎない逆転の一手であった。



「フラウ・リーベのために!」

 


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